Grinderman@The Coronet,2Oct/2010

来るぞ!近づいてくるぞ!あっちから、でっかい黒雲が来るぞ!――とまあ、この日は思わず〝Tupelo〟のイントロのイメージが脳裏に浮かぶくらい、朝からどんよりと心をふさぎ、身体の奥に冷えを走らせる秋の気候だった。そのまま天候は悪化し、お約束の雨も降り始めた。
泣きっ面にハチだったのが、プロモーターの仕切りの最悪さ。メイン・アクトであるGrinderman登場が刻々と迫っているのに、入場待ちの行列は会場建物の後方にまでリーチ~更に列は折り返して入り口にまで達している。顔や頭にボタボタと無遠慮に降りかかってくる雨の中、それでも我慢して、じりじり前に歩を進めること30分近く、やっと中に入れた頃にはぐしょ濡れだった。

この公演は新作「Grinderman2」発売後最初のロンドン公演の追加に当たるもので、前売りは若干残っていた・・・はずなんだけど、場内はクレイジーなくらいにすし詰め。2階席も立ち見客で溢れていて、どう考えても客を入れすぎ(さすがニック・ケイヴ、ゲストやプレスのリクエストが半端なく多いのだろう)。土曜の晩ということもあり、会場内の空気は既にアルコールの靄で濁っているし、湿気と熱気も加わって不快。予定開演時間をオーバーした頃にはオーディエンスもキレ出し、珍しく「早く始めろ!」なブーイングの輪が巻き起こる。ここで半端な演奏だと暴動が起きかねない状況だったわけだが、さすがプロのニック先生、有無を言わせぬ「俺ショウ」で堪能させてくれました。

金色のフィルムを思わせる半透明な幕を背景に、黒スーツ姿の4人が登場したのは9時20分近く(でも、ジム・スクラヴノスのドラム・キットはピンク色でお茶目)。ニック・ケイヴへの歓声はもちろんすごいが、右腕=ウォーレン・エリスへのリアクションも熱い。その、ゴシック・ホラー映画の怪物キャラを思わせるウォーレンが掻き鳴らす不穏なギター・イントロをキューに、新作1曲目〝Mickey Mouse And The Goodbye Man〟からスタート。バッド・シーズ以上に奔放&フレキシブルなこのユニットをやっている時の解放感はおっさん4人を一気に回春させ、燃え立たせる。
仁王立ちで凶悪なギター・リフを繰り出し、オオカミ男の咆哮をブチ上げていくニックの背後から、ジムは獲物を追う猟犬のごとく切羽詰ったビートを叩き出す。竜巻く音波に呼応し、ウォーレンも取り衝かれたようにマラカスとハイハットを打ち鳴らしている。ジャム・セッションをアイデンティティの根底に据えるバンドなだけに、生演奏の迫力と厚みはまた格別。ヒステリックな猿の悲鳴だけではなく、吠える狼の牙も備わるようになった。

ボー・ディドリーを思わせるシャッフル・ビート〝Worm Tamer〟で爆音度を更に数ランク上げ(デカすぎて、若干音がつぶれたのはご愛嬌)、ワイルドかつアンセミックなファーストからの〝Get It On〟。プリミティヴなガレージ・ブルースのストレートな躍動感にオーディエンスもたまらず熱狂、その熱を煽るようにウォーレンも踊りまくりだ。しかし、ファースト・シングル〝Heathen Child〟の妖気が漂い始めるやスポットはニックに戻り、サイコティックな妄想と強迫観念のホラーなストーリーは語り部の独壇場。得意の「指差し」も登場し、最前列で諸手を上げて待ち構えるオーディエンスにタッチしつつ、警告、恫喝、狂気、即興な裏声と様々な顔を見せるニックのヴォーカル。エフェクターを駆使してサウンドを捻じ曲げ、奇っ怪な音の飛び道具でムードを添えていくウォーレン。さながら耳で聴く映画だし、同時に「You Are Wrong!」のノリのいいコーラスで大合唱も湧き上がる、いい曲である。
映像的という意味では、新作の中でももっとも王道でロマンス大作と言えるのが〝Palaces of Montezuma 〟。テンポをいくぶん落とした演奏は少々盛り上がりの足を引っ張るものだったが、ワイド・スコープのエモーションはたまらなく美しい余韻を残した。比較的地味な曲が続いたものの、中盤のテンション高い演奏が自分的にはべスト。4人のユーモラスなイラスト(=「Grinderman2」中ジャケ参照)が背景に浮かび上がり、「邪悪なフォースVSグラインダーマン」とでも言うべきバトル・フィールドを繰り広げた〝Evil〟。ステージ右端、緋毛氈(?)の上に胡坐をかいたウォーレンがエフェクターで悪意に満ちた音塊をのたくらせ、残る3人も一丸となってこちらの耳に襲い掛かる。
幽閉された心から滴り落ちる独白調な歌詞が不気味な〝When My Baby Comes〟は一転、重く引きずるグルーヴとモノトーンなメロディでじわじわあぶる。そこから、ウォーレンのヴァイオリンが泣き叫び、メタルですらあるノイズ・ジャムのミドルへ突入するコントラストは圧巻だ。青白い照明を浴び、両腕を上げてくねくねベリー・ダンスめいた動きを見せるニックは妖艶で、実はアンドロジナスなパフォーマー(スーツとヒゲ、あの顔で緩和されているが、女性並みにスリムで柳腰)であることを認識させられた。彼のファンは圧倒的に男が多いのだが、ブルースという男臭い音楽性だけではなく、この人のある意味性差を超えたセクシーさもアピールしているのかもしれない。

〝What I Know〟をアコギとマラカス、ループ程度のシンプルな演奏でまとめ、後半の爆発に突入。バースデー・パーティばりのガレージ・パンクで脳天を刺す〝Honey Bee〟、キーボードを弾く合間に客の手に触れ、歌い踊りまくる敏捷さが高揚した説教師のようで魅せられた〝Kitchenette〟。「〝Mercy Seat〟!」という冗談のようなリクエストの声が観客の中から飛んだところで、それを踏みにじらんばかりの勢いで〝No Pussy Blues〟が場内を爆音重戦車で蹂躙していく様は、純度100%の興奮である。それでもイントロのビートで手拍子が上がったんだから、ニック・ケイヴのファンというのは基本的にマゾなのか(ニックも、そのリアクションに一瞬苦笑を浮かべていた)。
音源よりもドロドロしたサウンドで混迷と闇を増したド迫力&長尺なサイケデリック・ブルース=〝Bellringer Blues〟で本編はいったん終了。アンコールの拍手はもちろん、いつにも増して「ウォーレン!ウォーレン!」コールがすさまじかったのは、彼の全身全霊な熱演とマルチなセンスがグラインダーマンのライヴ面での要であることを、ファンの多くが承知しているからだろう。ニック・ケイヴにとっての、スティーヴン・ドローズ的存在がウォーレン、というところでしょうか。

アンコールはすべてファーストから4曲、〝Love Bomb〟で男性ファンが2人ステージに飛び上がってニックにがばっと抱きつく場面もあったが、宴の後・・・とでもいうべきしめやかなトーンのエピローグで、締めは〝Grinderman〟。マラカスとパーカッションの穏やかな揺れの中、祈祷や念仏を思わせるヴォーカルが明滅する様を聴いていたら、なぜか月に照らされた太古の宗教遺跡のイメージが浮かんできた。
それはまあ、狼男や雪男、バビロンの空中庭園だのムガール帝国といったフォークロア/伝説的なモチーフが点在するセカンドの歌詞が、無意識に浸透していただけに過ぎないかもしれない。しかし、文字通り毛深く(ウォーレンとジムのヒゲ&毛髪量はすごい)、音も酒呑童子の腕ばりにごっついグラインダーマンの描く、恐怖・オブセッション・情念・亡霊etcの幻想的に絡み合う世界というのは、案外羅生門や雨月物語といった、日本の伝奇な世界もマッチするのではないか。ジョン・ヒルコートもいいのだけど、誰か、日本の60年代時代劇をモチーフに、グラインダーマンのビデオを作ってくれないかな。

・・・などと、音とイメージに想像力を刺激されてふわふわと外に出たら、月夜どころか天候は土砂降りに変わっていて、まじ悲惨。会場に隣接した地下道も浸水していて、家にたどり着いた頃にはまたもびしょびしょだった。グラインダーマンの呪術的な音楽が嵐を招いたのか?だとしたら、神様にも耳があるのかもしれない。

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Mariko Sakamoto について

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