週刊琴線(11月19日号)

今週の琴線:
Austin Osman Spare:Fallen Visionary(Cuming Museum)
Sun Araw@CAMP Basement,17Nov2010


オースティン・オスマン・スペアの作品



Sun Araw

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先週以来、ほぼ毎日雨&曇りの日々。夜半には月も雲間に見え、明け方には陽が射して「今日は晴れそう」と思わされても、午前中に崩れだし、午後にはしのつく雨・・・という調子で、寒い&湿気のダブル・パンチ状態。「じきにに雪の可能性」なんて予報まで気象庁が出していて、気分は一向に上向きにならない。寒暖以上に、冬は太陽が隠れがちなのが辛い。光がないと、同じく心も暗くなるので。

先週のポストで触れたボイラーは、残念なことに、またも不調に陥ってくれた。完全にお釈迦ではないんだけど、スムーズに点火することもあれば、点火&温給水に至るまでに1時間かかる時もあり、極めて不安定。点火用の接続パーツが、カチカチ、カチカチ・・・と瀕死のモールス信号みたく鳴っているのを、「今か、今か?」と待つのはストレスでしかない。寒いし。温水をすいすい使いたいし。
部品交換&新品回路盤そのものに高い金を払った身としては大いに不服なので、ボイラー工のジェイ君に再び来てもらったのだが、古いボイラーだから、内部センサーとかが問題なのかも?と、彼自身、根本的な問題の所在は突き止められない模様。ボイラーそのものの交換には、部品交換の5倍以上のお金がかかるので、んー・・・現実的には難しい。なだめすかして今日は作動してくれているので、悩みの種は脇に押しやることにしようとするが、なんとも幸先のいい冬の始まりである。

日曜が最終日だったオースティン・オスマン・スペアの展覧会も、雨にたたられた一日だった。「夕方までもつだろう」という読みは大ハズレで、見終えて外に出た頃には小止みない雨、濡れそぼって家路に着いたのだった。エレファント&キャッスルのエリアは、行くといつも雨のような気がする。鬼門なのか?それはともかく、展覧会そのものは「行って良かった!」の内容だったので、結果オーライ。

オースティン・オスマン・スペアは、1886年ロンドン生まれのエドワード朝の画家。子供の頃から画才を発揮し奨学金を得るほどだった彼はやがて王立芸術カレッジに進学、17歳の若さで王立美術院に作品を展示されたことで、早々にメディアの注目を集める。しかし、ビアズリーを思わせるデカダンなドローイング、グロテスクですらある秘術的な世界観、シンボリズムの探究に踏み入ってからは「正道」のアカデミアから乖離。かのアレイスター・クロウリーとの交流もあったらしい。
従軍画家として参加した第一次大戦のショックでますます近代や画壇から遠ざかっていったオースティン・オスマン・スペアは、しかし第二次大戦の戦災でブリクストンのスタジオを失ってからも創作を続けた。自らの作品に安い値段しかチャージせず(若い頃から、絵を売る行為には否定的だったという)、地下室暮らしの貧窮生活の中、69歳で亡くなるまで、南ロンドン庶民の姿や内面のヴィジョンを独自の画風で描いていった。

将来を嘱望されたにも関わらず、孤高のヴィジョナリーとして風変わりな生き様を貫き、忘れられていたモダン・カルト。研究・再評価の波はつとに寄せていたというが、筆者が本展に足を運んだきっかけは、彼のファンであるアラン・ムーアによるAOSプロフィール紹介に触れ、興味をそそられたからだった。
オカルトやサイケデリックに目のないムーアだけに、流動的かつ装飾的なラインや独自のシンボルを特徴とする時期の作品をシュルレアリスムの自動筆記になぞらえ、幻想やマジカルな霊視の画家であった点を指摘。と同時に、美術アカデミー的権威やアート・サロン文化に背を向け、市井の中で露天市場の商人、子供、職業婦人ほか、モデルや有名人ではなく労働者階級の人々を描いた彼を真のアーティストとして評価していた(そのアラン・ムーア自身の作品では、「From Hell」の作画にAOSの影響があるのではないか?と思っている)。

サザーク町支庁の一部である会場のカミング・ミュージアムは、私蔵コレクションをベースにする小さなギャラリー。AOSが暮らした街にあるだけに、彼がどんな空気の中で創作を行っていたかを感じることができて、良かった。もちろん、彼が生きた時代から町並みも社会も変わったわけだが、比較的貧しい庶民エリアという性格は変わっていないし、街路やランドスケープには過去の名残が影のように残っているものなのだ。
サザーク区所有の作品、個人コレクションなどから構成された内容は、展示数は恐らく100以下と、コンパクトではあった。しかし、初期の水彩画、挿絵やしおり、エッチング、パステル、多くの自画像、戦争画、幻想的な寓話画、ポートレートなど、画法もメディアも画風も題材も多岐にわたるAOSの世界を垣間見せてくれるものだった。
作品だけではなく、私信、画廊ではなく近所のパブで開かれた個展の案内(今でこそカフェやパブの一角でアート展示というのは普通だが、当時は珍しかったそう)や彼が開いた地元民相手の美術教室案内パンフレットなど、民主的な気風を伝える展示も。それだけに、彼の内面から生まれた奇妙で非現実的なヴィジョンとのギャップも大きいわけだが。

デッサン力や構図、タッチなど、基礎となる技法が並外れて素晴らしいのはもちろん(病院で息を引き取る兵士を描いた作品は、題材こそ近代ながら、ルネサンスの宗教画を思わせる重々しさがあった)、そのテクニックをある意味曲げ、歪め、大胆に崩しながら、コズミックな幻想~魔の具象という領域に入っていったことになるだろうか。また、ビアズリーや世紀末画派、ウィリアム・ブレイクを受け継いだとも言える彼の作風が、70~80年代のSF小説、あるいは怪奇幻想小説のペーパーバック/文庫本イラストに通じるモダンさを兼ね備えているのも、とても興味深かった。
後期の肖像画にしても、この展示には「まっとうな」ポートレートも多く含まれていたものの、中にはホラー映画や特撮のイメージか?と見まごう不思議な絵もあった。カメラや撮影機材を使ってのマニュピレーション~リアリティのかく乱に近い「何か」を、AOSは頭の中で感受しイメージし、筆やペンの手作業で刻んでいったのだ。アートというのは、そのメディアが音楽であれ文学であれ絵画であれ何であれ、人間というブラック・ボックス/フィルターを通じて変容されプロセスされ、再現された五感であり現実なのだ・・・という思いを新たにして、外に出た。

数日後に観たSun Arawのギグも、再想された現実という概念を思い起こさせるものだった。ロング・ビーチを拠点に、ソロや様々なグループを通じて活動しているキャメロン・スタローンズのユニットであるサン・アラウ。エレクトロやアンビエントを起点にしつつ、褪せた写真――ボーズ・オブ・カナダの「Music Has The Right To Children」のジャケ写真が想起される――を見返すような、不思議なノスタルジアとトライバルな空気を醸す音楽を鳴らしている。なぜか、アート・オブ・ノイズの「Moments In Love」も浮かぶ。

そんな涅槃サイケデリアな美しさは最新アルバム「On Patrol」で体験&堪能していただければ幸いだが、ライヴはデュオ編成のシンプルなセッティングだった。向かい合わせのシンセ2台に、ふたりともギターをプレイ。足元に並ぶエフェクターの数も半端ない。サンプルされた音源も重ねたりねじったり色々と使いつつ、ビートはキャメロンが楽器だの声を生ループさせて、その場で作っていくパターンが多かった。
相方のギター・プレイヤーがリヴァーブたっぷりのギター・リフをえんえんリピートすることで基盤を支え、その上に粗いノイズやチャント、ミニマルなメロディといった異なる質感の音が重なり交じり合っていく。カラフルに明滅し、ブレながら姿を変えてく、オーロラの不協和音のような音楽である。
ダンサブルでノリのいいトラックもあるし、ノイズ・ギターが炸裂したり、パフォーマンスに動きはちゃんとある。しかし、1曲ごとに10分近くかけて、ゆったりじわじわ構築されていくアブストラクトな(恐らく即興も含む)インスト・ジャムは、たとえば長回しやスローモーションでビーチの落陽を捉えた映像を思わせる、オーガニックな瞑想と恍惚を誘うものだった。写実のリアルではないんだけど、ハイパーにアンプリファイされたリアルが音の中に立ち上がる。

ショウそのものの時間がめっちゃ押していて(ライヴ開始は予定から40分くらい後)、サウンド・チェックがロクにできてなかったのはもちろんのこと、キャメロン君も演奏中何度もモニターに注文をつけていたし、ライヴPAとの相性も悪し(つーか、音が大きすぎ!爆音はいいんだけど、全体的な音のデザイン~ニュアンスやバランスを無視して音量だけマックスにすると、ただ耳に痛いだけのノイズになってしまうよね)。音源でのデリケートな音のレイヤーが損なわれていて、ライヴとしてはやや不満も残ったのだけど、プレイは熱かったしプレイヤーの呼吸や生理、空気感次第で微妙に変化していく生での演奏は、そうした「揺らぎ」も飲み込み、活かせるサン・アラウのコンポジションのしなやかな強さを伝えていた。プレイも最新EP「Off Duty」も素晴らしいので、機会があったら、ぜひ。

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Mariko Sakamoto について

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