週刊琴線(11月26日号)

今週の琴線:
East Bound And Down(HBO)
Bird On A Wire(Leonard Cohen/Tony Palmer)
色々

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週半ばには朝霜が下り、英北部では既に初雪も降った。寒い上に、またもギグなしで心も寒い週(涙)。火曜にグラスゴーでのグリフ・リースのライヴを観に行くことにしていたのだが(ロンドン公演は即売り切れで、地方しかチケットが残ってなかった)、仕事がどうにもこうにも終わらず、泣く泣く断念。久々にグラスゴー行きたかったんだけどな・・・というか、1泊2日程度でもいいので、どこかに行きたい!

今住んでるフラットに色々と問題が多いのも、逃避願望を掻き立てているかもしれない。ボイラー問題はまだ解決してないし(ここ数日安定しているけど、またいつガタがくるか分からない・・・)、この春には地下室浸水事件もあった。近くの水道管が破裂して、そのあおりで水漏れが起きたんだけど、一番ひどい時には長靴履きで、2、3時間おきにバケツ3杯ぶんの水をモップとスポンジで汲み出す作業に追われた。おちおち家を空けることもできやしない。
基本的にバカというか、根本は楽観的な人間なので「日ごろ運動不足だから、こうやって動くのは身体にいいかも」などと、始めのうちはのんびり対応していたのだが、水道局にたらい回しされ、家主の対応も埒が明かず・・・という状況で1ヶ月以上が経過した頃には、さすがに日本人の寛容も限界、キレた。メンタル面でのストレスや金銭面での損害も大きかったけど、湿気のせいで洋服や靴が傷んでしまったのが最大の原動力だった。ピエール・アルディばりに美しい、現代芸術品的なデザインのスウェードのロング・ブーツにカビが生えていたのを発見した時のショックといったらもう・・・瞬間湯沸し器ばりに怒りが沸点に達しました。女を怒らせるには、何よりもベストな方法かもしれない。

インフラ面での問題も尽きないが、同じ建物内の他のフラットの住人も、選べるものならお近づきになりたくないタイプばかりで、しょっちゅう神経を逆撫でされる。建物の表のドアをぱかーんと開けっぱなしにしておいたり(無用心だっつーの)、郵便物やゴミ箱をきちんと管理しない(ちゃんと袋に入れないゴミのせいで、都会キツネがマーキングの落し物を始めた・・・)のは序の口で、午前3時に大音量でテレビを見始めたり、テクノを聴き始めるのも困りもの。夜中の騒音は何であれ不快だが、安物コンピCDとおぼしき、テクノやハイエナジーの白痴な四つ打ちビートをえんえん朝まで聴かされるのは、精神的な拷問に近い。自分も仕事柄音楽はよく鳴らしているが、夜10時以降はヘッドフォンに切り替える、それくらいの良識は備えている。何度か注意したが、一向に改善されない。

などと、文句を言ってもキリがない&何も始まらない。逃避したって解決にはならないし、今はじっと我慢の子、である・・・でも、仏の顔も三度まで。キレたら怖いで!(嘘)

んなわけで息抜きはインドア娯楽に終始した週だったが、まずはやっとこ英プレミアされた「East Bound And Down」のシーズン2を友達が録画してくれて、その恩恵にあずかった。名門米ケーブル局:HBOのコメディであるこの作品は、総合プロデューサーとしてクレジットされるウィル・ファレルが日本では一番有名な名前だと思う。そのウィルも好きなんだけど(顔も声も好みじゃないけど、笑いのためなら何でもやる、そのアダム・サンドラー的な姿勢は買う)、「EBAD」の魅力は、やはり主役:ケニー・パワーズを演じるダニー・マクブライドに尽きる。
80年代アメリカとレッドネック(ビリー・レイ・サイラス参照)を象徴するマレット・ヘア――耳の下から広がり、肩の上部で止まってる、あの中途半端な髪型。ビースティ・ボーイズが、「Grand Royal」でこき下ろしたことで有名になった(と思う)――を颯爽となびかせるケニー・パワーズは、落ち目のもとメジャー・リーグ投手。故郷ノース・キャロライナに出戻り、文無しで兄の家に居候~無名人としての生活を余儀なくされるものの、ロックンローラー以上にロックンロール!なスポーツ選手の栄華を味わったことで肥大した彼のナルシシズムは変わらない・・・というわけで、彼のセルフ・イメージ&プライドと現実とのギャップが、様々な騒動や喜劇を巻き起こしていく。

素行は悪いし品も学もないケニー・パワーズは、いわゆるホワイト・トラッシュということになるのだろう。しかし、ダニー・マクブライドは腕一本で成り上がった男のチャラくない生き方/ワーキング・クラス流のNo Bullshitで妙なカリスマをうまく抽出していて、ケニー・パワーズを自信過剰でうざったくもなんだか熱い、どうにも憎めないキャラにしている。トラッシー&ろくでなしなアンチ・ヒーローという意味では、カナディアン・コメディの名作「Trailer Park Boys」のリッキー、あるいは「It’s Always Sunny In Philadelphia」のチャーリー並みにグレイトなクリエーションだと思う。
野球選手としてのモジョと男のプライド、そしてかつての恋人エイプリル(っていうか、スターになったことで彼がポイ捨てした相手なんだけど・・・超勝手)を取り戻す!というのがメイン・テーマだったシーズン1に続き、シーズン2は舞台をメキシコに移動。なぜメキシコに?というのはネタバレになるので明かさないが、第一話で、潜伏のためにマレットをコーン・ロウ(今のアクセル・ローズ参照)にしたケニーの変装姿を見ただけでも、腹がよじれるほど笑いました。好評につきシーズン3の制作も決定したらしいので、今後もケニーのアホっぷりを堪能できそうです。

BBCのデジタル波:BBC4は、毎週末音楽がらみのドキュメンタリーを中心とする特番を色々組んでくれるのでいつも楽しみにしているが、この週はドカン!と豪華に「Bird On A Wire」のTVプレミアとあいなった。レナード・コーエンの1972年欧州20都市ツアーの模様を追ったドキュメンタリー映画である。レナード・コーエンを生で初めて観た時のあの感動から約2年という、タイミングも(偶然とはいえ)ばっちりだ。

イギリスのドキュメンタリー映画作家/舞台監督/執筆家として知られるトニー・パーマー(ロック/ポップ界では、ビートルズ、クリーム、フェアポート・コンベンション、フランク・ザッパの「200 Motels」他を制作・監督)の手になるこの作品は、いわくつきの歴史を持つカルト映画。作品完成後、レナード・コーエンと彼のマネージャーから難色を示されたトニー・パーマーは、「だったら自分でどうぞ」とファイナル・カットを彼らの手に委ねるのだが、2年経ってやっと完成したヴァージョンは、ロンドンでプレミアこそ行われたものの一般公開には至らなかった。ドイツのテレビ局で1回放映されたきり、その後フィルムは行方知れずになってしまったという(ファンの間では、ブートレグのVHSがやり取りされてきたらしい)。

トニー・パーマーとレナード・コーエンの双方が、フィルムの所在を知らぬまま歳月が経過したところで、ハーブ・コーエン(フランク・ザッパのマネージャー)の倉庫から「Bird On A Wire」と書かれた箱が発見され、トニー・パーマーの元に送り届けられたのが今年の1月。中に収められていた300近いリール缶は、どれもすっかり錆付いて、ノミを使わないと開けられないほどのコンディションだったという。しかし、その中からたまたまサウンド・トラックが見つかったのをきっかけに、膨大な全リールをチェックしての修復作業がスタート。フィルムの洗浄とデジタル・トランスファー、作品の復元に6ヶ月を費やし、撮影から実に38年ぶりに、「Bird On A Wire」の、いわば「ディレクターズ・カット版」がDVD化されたことになる(トニー・パーマーいわく、オリジナルの95%までを復元。残る5%は、どうしてもカットが見つからなかったそう)。
※監督トニー・パーマーの本作にまつわるインタヴューがこちらでチェックできるので、興味のある方はどうぞ。

作品の成り立ちだけでも面白いが、そうやってある種伝説化した作品が、実際観たり聴いたりしてみると「こんなもん?」と案外期待はずれに終わるケースもある。好きなアーティストなだけに、がっくりさせられるのはイヤだな・・・と、やや気が進まない状態で観始めたのだが――いやはや、素晴らしい作品だった。

主眼はもちろんライヴの模様で、名曲&名演の数々を楽しめる。レコーディング音源とは異なる、新たな息吹を放つライヴ・ヴァージョンを聴くだけでも感動モノだ。しかし、パフォーマンスを捉えてかっこよくコンパイルした「疑似体験」型コンサート・フィルムではなく、ツアーそのもの、当時のファンの姿、そしてレナード・コーエンのロードにおける姿もオフからオンまで克明に追われていて、かなり生々しい。カメラはステージだけではなく楽屋やスタッフ、バンド、観客の中にも入り込んでいき、トラブルが色々と多かったこの欧州ツアーを容赦なく抉っていく。
レナード・コーエンが当初この作品にNGを出した理由のひとつに「自分が疲れまくって見える」というのがあったそうだが、確かにあまりグラマラスではない(ジョイントを回してワインを酌み交わしたり、楽屋には常に色っぽい美女がうろうろしてたり・・・と、それっぽい光景も少しは混じってますが)。エルサレムでのツアー楽日に、アンコールが続いているのに楽屋に引っ込んで、「もうやれない、歌えないよ」とつぶやき、涙ぐんで目をこするレナード・コーエンの姿など、痛々しいくらいで、実にヒューマンである(別にディーヴァぶってダダをこねているのではなく、「今夜は歌い切った」、という正直な感慨なのだろう)。それでもツアマネか誰かから「お客が待ってるから、出て行かなくちゃダメだ!」と叱咤され、よろよろステージに戻るくだりは、ほとんどもう、戦場の世界である。

最近のライヴ映画のように、何台ものカメラを駆使し、多彩な動きとアングル、ドラマチックな手法を織り込んだ豪華な映像ではない。しかし、華美なプロダクションを排した本作のアプローチは、レナード・コーエンのアーティストとしての原動力になっている、彼の人間的な魅力(弱さも含めて)に深く迫っている。彼の言葉と音楽から深いカタルシスを受け取るのも、虚像ではない「ほんとの人間」が、そこに息づいているからだろう。ライヴ映像作品というのはあまり繰り返して観ないものだけど、この作品は別・・・「The Last Waltz」級かも・・・というわけで、翌日DVDを注文した。届いたら、クリスマスの頃にまた見返そうと思っている。

他には、これと言って強い文化的なコネクション/接触/啓発はなかった週だったかもしれない・・・まあ、年の瀬も押し詰まり、なぜだか何やかやと忙しくて(仕事が遅いだけ、とも言うが)、寝食仕事以外のインプットは極力後回しになっていた、というのもある。Crystal Stiltsの新曲「Shake The Shackles」(最高っ!)など、素晴らしいシングルを数枚ゲットできたので良しとしようかな。それでも、今週を振り返ってみて、時間は経過しても、まだ頭の壁に「跡」が引っ掛かっている/残っている事柄をいくつか、ランダムに書いておこう。

●夢野久作と江戸川乱歩。調べ物をしているうちに連想が色々働いて、急にまた読みたくなった。長編は時間的に無理なので、厳選した短編を1作ずつ読み、嘆息しました。こっちには日本の本を少ししか持ってきていないのが、こういう時は悔やまれる。

The Luminaireが、年内閉鎖を決定したらしい。小さいけど、ブッキングも客のノリもおおむねナイスでお世話になったライヴ・ハウスなので、もったいない&なんとも悲しい話である。北のはずれに位置し、交通アクセスもあまり良くないキルバーン区は、もともと地の利には欠ける。そんなエリアでほぼ唯一、インディのライヴ・ヴェニューとして気を吐いてきたのがルミネアだったんだけど、もはや経営が成り立たないところまで来てしまったらしい。少し前に閉鎖か?の報が流れた100Club(こちらはオックスフォード街の一等地にあるため、家賃が高騰したのが要因らしい)ほど有名かつ歴史の長い老舗ではないので、「存続嘆願署名運動」みたいなものは起きないだろう・・・。
ほんの数年前にはTime Out誌で「ロンドンのベスト・ヴェニュー」に選ばれたこともあるルミネアだが、その数年の間に、ライヴ・シーンはものすごく様変わりした。ライヴの本数は確実に増えたが、有名な会場がチェーン化されたことで、バンドのブッキングも大手の系列会場が丸抱えするようになったのはもちろん、ルミネアがメインな守備範囲にしてきた200人規模のインディ系クラブ・ギグが、東ロンドンに続々とオープンしている新興会場に持っていかれているのは大きい打撃だったと思う(昔は新人バンドがこの規模の会場で2、3回はツアーしたものだけど、最近は①ネットでバズってるバンドがヒップなクラブでお披露目ライヴ→②その次はもう話題沸騰~ホール規模会場でプレイ、なんて促成ケースが増えたのも、影響しているだろう)。ライヴ・ハウスも遊び場も密集し、ひっきりなしに若者が流れるカムデンや東ロンドン外のライヴ・ハウスは、今後ますます窮地に立たされていくのかもしれない。うーむ、それでいいのか?ともあれ、さよならとありがとうの意味も込めて、今一度ルミネアに行こう、と思っている。

●日本で記念すべき第1回開催が決定、ゴッドスピード好きを泣かせているI’ll Be Your Mirrorだが、そのロンドン版の7月開催がアナウンスされた。こちらは2日間のミニ・フェスで、キュレーターはポーティスヘッド。スペシャル・ゲストとしてグラインダーマンが登板する(スワンズも同じ日出演で、80年代をやさぐれて過ごした人間にはたまらないラインナップかも?)。もちろん興味はあるんだけど、会場は、北の果ての丘の上にあってアクセスしにくいアレクサンドラ・パレス。そのアレクサンドラ・パレス、建物としての外観は美しいものの、中身は見本市会場=コンクリートの箱みたいなもんで、音響が良くないんだよなぁ・・・と、ちょっと足踏みで考え中だったりする。
それでも、1日チケットも発売されていて、その意味ではATPよりもずっとカジュアルに行けるのは確か。また、50ポンド以上という1日券のチケット代も、一見ぎょっとする高額面ながら、ポーティスヘッド(たぶん新曲をプレイするでしょう)とドゥーム、カンパニー・フロウをまとめて一度に観れるのなら、実はかなりお得である(彼らは、単独だとチケット代30ポンド近いはず)。音響や雰囲気他の会場設備面はATP側もがんばって向上させてくれるだろうし、恐らく2ステージを使ってのショウだろうから、もうちょっとラインナップが追加された上で、最終判断しようかな。
しかしまあ、「来年のATPはアニマル・コレクティヴがキュレートする1回のみ開催」というナゾ、そして先だっての「会員制導入」の理由はここにあったのだな・・・とも感じている。宿泊施設を伴わないスタイルのI’ll Be Your Mirrorの方が興行として遥かに小回りは利くだろうし、海外開催も実現しやすい(日英版の他に、年内に米欧豪など、他の地でも開催されるかもしれないし)。で、この新たな挑戦と分散型拡張を成功&定着させるべく、来年は本家の5月分を1回減らすことになったのではないか、と。
ATP会員制度は、年会費を払ってメンバーになると、ATPギグの優先&割引予約を始め、様々な特典をエンジョイできる、という新システム。メンバーシップには2種類あって、メールアウトの説明をふむふむと読んだのだが、2種類の差が分かりにくい上に、ATPの予約手続きも逆にややこしそう。それに、ATPが普段プロモートしているロンドンでのギグは、冷静に考えると、行きたいものはそんなに多くなかったりする・・・これってほんとにお得なのかいな?と、結局会員申し込みはしなかったんだけど、こうしてライヴのコマが増えたことで、選択肢も増えた=お得感が出たことになる。なるほどねえ~。ま、あくまで推測の話ですけども。
ともあれ、ロンドン版の7月開催は、夏フェスのハイ・シーズンとモロに被っているのが驚きでもある。ATPのユニークな競争力って、シーズンの一足先=5月に開催って点もあったと思う(6、7、8月は、フェスが多すぎて音楽ファンも慎重な選択を迫られる)。そもそも、雨でも泥でも構わない!野外好き!テント好き!なイギリスのフェス族が、果たして夏場の屋内フェスに魅力を感じるだろうか?その意味でも、ひとつの踏み絵的に興味深いイベントになりそうです。

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Mariko Sakamoto について

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