週刊琴線(特大号)

クロッカスが顔を出しました

kadialy kouyate

Ryan Francesconi

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Festival roundup
Black Swan
Craig Roberts
Ryan Francesconi and Kadialy Kouyate@The Vortex/13Feb2011

長らくブログにご無沙汰、つーかほったらかし。仕事の量が多かった・・・わけではないが、手間を要する仕事がたまたま立て込み、悪戦苦闘していた。古いアメ車のように燃費が悪い人間で、すぱっと話の筋道を立てるのが下手。右往左往し脇道(袋小路だったりもするのだが)や視界に入った藪まで念のために分け入ってチェックしながら、やっと納得→本筋にたどり着けるタイプなので、何を書くにもカタツムリ。流通する情報が増えた今、その手間が一層増えたようなのである。融通がきかないのは困ったもんです。トウィートなんて、一生無理だね。別に、やりたくもないけど。

ともあれ、ジメジメと雨が多く最悪な天気だった1月を越え、日によって春めいた陽気にも出くわす今日この頃。ほころび始めたクロッカスや水仙を公園で見かけたし、もうちょっと外に出かけたい。マジに、ここしばらく家からほとんど出ないモグラ生活だったし。ライヴも、プレスご招待を除いては、以下に書くライアン・フランチェスコーニのギグが、実は今年初だったりするのだ。考えると、結構ショックである。都合が悪くてチケット持ってたのに、結局行き損ねたギグも2本くらいあった。

観たいギグは色々とある。が、最近は、ほんとあっという間にチケットが売切れてしまう。ブライト・アイズのロンドン公演なんて、ウェブ売り出しの3分後にソールド・アウトでっせ!めちゃ悔しかったのは、クレジット・カードの詳細もすべて入力、あとは「購入」ボタンを押すだけ、まで進んだところでエラー発生、成す術もなく予約ページに戻らされたこと。ネットじゃなく、プレイガイドに並べば良かった。
と臍を噛んでみても始まらない。eBayで原価の5倍も6倍も払ってまでして行く気はないし(そのBEチケットにしても、発売開始の30分後には、もうeBayで売ってる野郎がいたし:最悪)、縁がなかった、つーことで。今までたって、行きたくて仕方なかった、でも行けなかった/見逃して後で後悔・・・というギグは山ほどあったわけで、これからもまた、そんなギグはいくらでもある。いちいち挫折していてはキリがない。

それでも、コーチェラのスピーディな売り切れは、意外なだけに痛かった。ぶっちゃけ、ラインナップに関しては、新人や中堅(=自分にとっては、ここの充実ぶりがコーチェラのポイントでもある)の層が薄い年だな~と思っていた。がまあ、ストロークス、PJハーヴェイ、そしてBEをいちどきに観れるなら、これは行っても充分お釣りが来る。んなわけで、知人と「今年はどうするー?コーチェラ詣でのチームを編成しようか」みたいなメールを交わし、その知人は近隣のホテルまで予約する勢いだったのだが(グダグダ言ってないで行動に移す、彼のような人のおかげで自分のコーチェラ体験は成り立ってきたかもしれない:いつもありがとうございます~)発売開始の数日後にはもう完売告知。ウェブサイト見た時は、「これ、嘘でしょ」と頬をつねらざるを得なかった。このゴッドなスピードはコーチェラ史上初の記録&快挙だろう。
というのも、コーチェラのチケットの売れ行きの速度は、毎年かなり緩い。ラインナップ発表前にも関わらず、発売と同時=何ヶ月も前にほぼ売り切れるのが当たり前~の安泰な英ビッグ・フェス(グラストンベリー、レディング)に較べ、3月でもチケットが残っていたり、多少のんびりできるのだ。とはいえ、今年はさすがに早めに動かなくちゃだな~、とは思っていた。
何せ、今もっともチケット熱が高いバンド:アーケード・ファイアだけではなく、キングス・オブ・レオン、カニエ&ストロークスのWヘッドラインと、ピッチフォーク系ファン(=オタク気味なマニア)の両極と、UKノリの濃いロックンロール勢(=ミーハーも混じった祭り好き連)までくまなく網羅。売れ行きは絶対いいだろうとは思っていたが・・・こんなにすぐに掃けるとは。こちらにローリング・ストーンの「なぜこんなに早く売り切れたか?」分析記事もありますが、遂にコーチェラも、実績を重ねてファンの信頼を確立=浮動ファンではなく、スケジュール表に「コーチェラ」を空けて待つリピーターを核とする、フェスとしての成熟期に足を踏み入れたってことなのかも。行けないこと自体は悔しいが、大好きなフェスなので、それ以上に「素晴らしい」という思いでいっぱいっす。

それに続いて驚かされたのが、All Tomorrow’s Partiesによる新イベント=I’ll Be Your Mirrorアメリカ版のソールド・アウトだった。本家イギリスのオリジナル形式=サイト内宿舎にこだわらず、より手軽に参加できるミニ・フェス型であるIBYM。まず我らが日本で開催されるわけだけど、イコール、アメリカやオーストラリア他各地にも「出店」するのだろうな~とは思っていた。
なわけで、英版に続いてのUS版開催告知がアナウンスされたのは順当・・・と思いきや、もとニュートラル・ミルク・ホテルのジェフ・マンガム様なる大・大ダーク・ホースが登板~っ!!この伝説を引っ張り出しただけでも鼻血ブーもんだが、アメリカ人にしてみれば、ポーティスヘッド13年ぶりのギグもかなり魅力大ではないかと思う。
しかし、ジェフ・マンガムのためだけにはるばるアメリカまで行くのは高すぎるし(フィーリーズだったら迷わず行くが)、他の出演アクトはATP定番連中でもあり、ウムム・・・。でも、アメリカは好きだし、会場になるニュー・ジャージーは行きたいよなあ~なんて考えつつ、旅費やコストをちまちま夢計算しているうちに、あわわわわ、こちらもそそくさとソールド・アウト。恐るべしNMH人気~!

今や90年代インディ・ロック古典の1枚と認定(?)されている名作セカンド「On The Aeroplane Over The Sea」も、発売された当時はほとんど話題にならなかった。あの時も、そういやたまたまロンドンで暮らしていたのだが、発売後すぐにソーホーの中古CD屋に落ちてきて、3、4ポンドで叩き売られていたのは涙を誘う光景だった(気のせいだろうが、ニュー・ラディアント・ストーム・キングのCDも同じ頃に同じ仕打ちにあってしょっちゅう出くわした。どっちも好きだったので、悲しさ倍増)。もう持っていたんで買う必要はなかったんだけど、見かけるたび、なんとなく買い取って家に持ち帰ってやりたい衝動に駆られたものでした。捨て猫でもあるまいし。
ちなみに、発表になったばかりの12月英ATPのキュレーターは、わはは~!ジェフ・マンガム。さすがバリー・ホーガン、カルトを一回眠りから起こしたら、MBV同様、世界各地をとことん動かすようですね(笑)。出演ラインナップの第一陣も併せて発表になってるが、当然のごとくエレファント6系、残るはATP他で観たことのある人達ばかりで、ううーむ、自分的にはちとしょっぱいです(オリヴィア・トレマー・コントロールは、また観たいけども)。
今後追加アクトが発表されることで興味深い内容にシフトするかもしれないので(ガイデッド・バイ・ヴォイシズを激しく所望)、とりあえず保留かな・・・まあ、「保留」なんて暢気に構えてるうちに、これまたあっさり売り切れるのかもしれないけども、そうなったら「On The Aeroplane~」の再評価~カルト熱も一時的なものではなく、本物だったってことだろう。それにまあ、どう考えてもATP出演の他に、ジェフの英内単独公演は予定されていると思う(アメリカ版IBYMでも、別枠で単独ショウが決定している)。基本的に、そっちに賭けまーす。

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他には・・・これまたずいぶん前の話になるが、映画ネタ。ダーレン・アロノフスキーの新作「Black Swan」を観てきた。ネタバレになるかもしれないので、自分の目で確かめたい/ディテールを知りたくない方はここでスルーくださいまし。

ストーリーの概略は、ニューヨーク・シティ・バレエ・カンパニーを舞台にした、サイコ・スリラー。ミッキー・ロークの「The Wrestler」で高い評価を受けたアロノフスキー新作ということもあり、昨年からイギリスでもそこかしこで話題になっていた。そういうメディア・ハイプに安直に動かされやすいミーハー体質な上に、プリマを演じる主演はナタリー・ポートマン、助演にフランスが誇るDUDE=ヴァンサン・カッセルと来たら、これは観たいよね~。
そう書きつつ、実は「The Wrestler」はまだ観てなかったりするのです・・・友達にも「スプリングスティーンが流れたところで絶対泣くからっ!」と激賞されたし、いわゆる「観ておかないとトレンドに乗り遅れる」類いのトピカルな1作、話も面白そうだから観なくちゃと思いつつ、ビフテキみたいなミッキーのスチル写真がハードルになって、どうもDVDに手が伸びない。それとも、先に「Iron Man 2」を観てしまったのが間違いだったのかしら?ロバート・ダウニー・ジュニアとサム・ロックウェルの男前2人にばかり目が釘付けで、悪役ミッキー(しかもすごい飛躍!なロシア人役:笑)がタチの悪い漫画にしか見えなかった。てか、もともと漫画なんだけど、「Iron Man」。
アクセル・ローズかミッキーか?って感じじゃないすか、今や。もちろん、そうしたいわば「落ちた偶像」が、映画というフィクショナルな世界において、そして現実においてもセカンド・チャンスを与えられ、這い上がる・・・ってところがアメリカン・ドリームのロマンであり、かつミソなんだろうけど、肉と整形にうずもれたミッキーの身体と顔からは、ニュアンスが伝わってこなさそうなのです。

なんで、アロノフスキー作品という意味ではあまり深い話はできない。彼の作品でちゃんと観たのは「Pi」と「Requiem For The Dreams」くらいだし、「Requiem」にしても、①原作がハーバート・セルビー・ジュニア②ジェニファー・コネリーを拝みたいって2点が大きかったしな。要は、あまりこの監督のことは分かっちゃいません。つうか、寡作じゃありませんか、この人? その上で、でも敢えて書くと、うーん・・・、アロノフスキーというのは、映像のスタイリストではあるけれど、クリストファー・ノーラン、パオロ・ソレンティーノ、ジャック・オディアールあたりに較べると、話法や心理描写は甘いと思った。

夜に染まったネオ・ゴシックで壮麗な(ゴッサム・シティとしての)ニューヨーク、鏡とガラス・蛍光灯とつややかな黒壁=冷たい色彩が主調のバレエ団稽古場、無機質で危険な地下鉄やクラブ、病院の風景など、「Black Swan」の物語のメインになる環境は、暗く血の通わない、人間を疎外するトーンで統一されている。その対比として、主人公ニーナの部屋は、ぬいぐるみとオルゴール、ほわほわとしたパステル・カラーで覆われた、いわば「純潔で過保護なお姫様」のとりで、と分かりやすい。そのとりでをかたくなに守る女官にしてお局が、ニーナを慈しみ育ててきた片親の母という設定である。
ちなみに、この母はもとバレリーナという設定で、娘ニーナをみごもったためにプリマとしての道を絶たれた、というプロットの伏線がある。故に、自らの過ちを娘に繰り返させず、彼女をバレリーナとして大成させたい・・・という、親の願望&コントロール・フリークなオブセッションも根底にチラつく。バーバラ・ハーシーがこの母を演じているのだけど、実は、ここはジェシカ・ハーパーに演じてもらいたかったんじゃないだろうか?なんて勝手な妄想も浮かんだ。
バレエ団の独裁者的なカリスマ監督(ヴァンサン・カッセル)に、女として、パフォーマーとして、搾取されていく若く美しい娘。華やかなアートという名の下、抑圧された肉体や嫉妬がどろどろと渦巻く環境の中で様々なホラーを体験する、若きバレリーナ――前者は「Phantom of the Paradise」のスワン&フェニックスの図式であり、後者は「Susperia」。その2作の主演であるジェシカ・ハーパーの登板は、なんとなく期待したくなるじゃないですか。

ともあれ、童話やメルヘンのような「内」と、そこかしこに潜んだ魔がイノセンスを脅かし、陥落せんと手招きする、恐ろしい「外」という図式を土台に、話は進む。「白鳥の湖」新バージョンで、有名な主演二役――悪の王の手で白鳥に変えられ、夜の間しか人間の姿になれない悲しいオデット姫。真の愛でしか解けないその呪いに、オデットに惚れた王子が挑むものの、悪魔の手下であるオデットと瓜二つの妖艶なオディール(黒鳥)にたぶらかされ魅了された王子は、オデットへの忠誠と愛を裏切ってしまう――に抜擢されたニーナは、徐々に、これまで母に固く禁じられてきた「外」に向かい始める。
役のため殻を破ろう、脱皮しようと四苦八苦する彼女を新たな世界へと手招きするのは、箱入り娘でお堅いニーナとは対照的な、セクシーで奔放な新入りダンサー(ミラ・クーニス。かわいいねぇ)と、バレエ団の支配者である監督のふたり。この両者の立ち位置が、「白鳥の湖」の誘惑者であるオディール(黒鳥)と、その仕掛け人である悪魔にそれぞれだぶることで、劇の物語というフィクションと、現実との境界線がぼけていく。それまでニーナを守ってきたはずの「内」すら、安全な逃げ場として機能しなくなる。
体型を維持するための厳しいダイエット(朝ごはんはグレープフルーツ半分。ひゃ~)、トゥシューズの責め苦、母親からの期待というプレッシャー、品位を保たなければ・・・バレエがすべて、とピキピキ張り詰めてきた主人公の世界と精神的なバランスは、異物を受け入れることによって破綻し始める。ひとり歩きを始めたドッペルゲンガー=分身に翻弄され、ニーナのダウンワード・スパイラルはエスカレートしていく。

幻覚とパラノイアに壊れていく繊細な女性というのは、たとえばアロノフスキーが本作のインスピレーションのひとつに上げているポランスキーの「Repulsion(反撥)」や「Rosemary’s Baby」のテーマでもあるし、そういや「Requiem」でも、エレン・バースティン演じる母親の、痩せ薬乱用からくる錯乱~崩壊が描かれていた。ジェニファー・コネリーの落ちっぷりも悲惨の一語に尽きたし、アロノフスキーは、女性をいたぶるのが好きらしい。
しかし、「反撥」の主人公:キャロルの神経症(=男性恐怖症)と内面の変容を閉所恐怖症的なセットに反映させ、フェティッシュな小道具やニューロティックな撮影、音を執拗に積み重ね、細かく追いつめたポランスキーに較べると、どうも大味感がいなめない。それは、ポランスキーの描く女性が、ある意味カメラの反対側に立つポランスキー自身の延長/分身であり、だからこそ彼女達の目に浮かぶ恐れ、あるいは震える神経の糸が皮膚レベルで伝わるのに対し、アロノフスキーが追う女性というのは、あくまで研究室での観察、ハイテクな顕微鏡
の下に置かれた「対象」だからかなと思う。
もうひとつ、連想したのがパウエル=プレスバーガー作品。バレエ映画というジャンルの括りで「The Red Shoes」が繋がるのはもちろん、ヒマラヤ奥地の僧院で働く修道女達を通じ、性的・肉体的に抑圧された女性の心理をメロドラマ調に描いた「Black Narcissus」も上がるだろう。「Black~」では、女性の嫉妬とパラノイアの怖さが爆発する有名なシークエンスがあるんだけど、その押し殺したテンションの高さとタイトな演出、ヘビのように忍び寄るサスペンス、狂気の中の優雅さみたいなものは、アロノフスキーももうちょっと学んでよかったんじゃないだろうか。割とすぐに、ヒステリックなアクションだのホラー調のショック、特撮の目くらましに逃げちゃうんだもん。そうやってストーリーのテンポを速くし、カラフルにした方が、今の観客には向いているんだろうけども。

あとまあ、これは日本人しか感じないであろうマイナーな意見だとは思うけど「・・・少女漫画の方がすごくないか?」という点。この作品、観ているうちに「SWAN」「アラベスク」他のバレエ漫画古典が甦ってきたんだけど、漫画は絵なぶん、実写よりも遥かにイメージは豊かで自由、かつ理想のてんこもり(10頭身のキャラ、現実的に無理そうな衣装デザイン、舞台演出、感情やムードのヴィジュアライゼーション他)。ああいうハイパーな視覚体験が子供時代の根幹に植えつけられてる人間には、「Black Swan」のきらびやかさも、あまり通用しないのだ。
また、ストーリー面でのホラー度=華麗な表層の裏に渦巻く、ライバル蹴落とし、ビッチーないがみ合いetcとのえぐい対比にしても、昔の少女漫画――バレエやスポーツものはもちろん、「ガラスの仮面」とか、ファッションが題材のトンデモ漫画「蝶よ美しく舞え!」とかね――の方が、もっとおっかなく、過剰に華美でグロ、策謀と情念が絡み合って、陰湿だった気が。「Black Swan」の話をしていて、知人の英人男性が「・・・てか、女だけの閉じた世界って、あんなに陰険なの?」と、タフなバレエ界の描写に引いていたが、日本漫画のエクストリームなノリからすれば、そんなに驚くに値しない世界観じゃないだろうか。山岸涼子の漫画とか、外人に読ませてみたい。

色々書いたが、アート映画的な装いで、実は普通・・・というこの作品も、ナタリー・ポートマンの熱演のおかげで、とりあえず自分は、最後まで観れた。ロムコムを除くと、概して女性主演の映画は多くないハリウッドにおいて、こういうニッチなストーリー&役を射止めたのは「女優冥利につきる」ってものだろう。役柄としては王道なヒロイン~ドラマチックで情に訴えるパフォーマンスでいっぱいなのはもちろん、バレリーナ体型のためのダイエット、ダンスの稽古他、役作りの準備に1年近くかけたという。しかも全男子喝采!のレズでポルノなラヴ・シーンもあって、文字通り「身体を張って」ます。アメリカ人は、そういう自己犠牲と分かりやすい努力の図に弱い。

賞獲得が指標ではないにせよ、賞効果の威力は無視できない。この作品の成功がメインストリームにも認められたら、保守的なメジャーも、女性主演のジャンル映画企画に対してもっとゴー・サインを出す可能性も増えるだろうしね。でも、そうした思いと同時に、今は熱く迎えられ、評価もおおむね高いこの作品、もしかしたら、いつか逆「Showgirls」になるんじゃないか?という倒錯した期待も抱いている。
ポール・バーホーベンのこの作品、公開時ケチョンケチョンにけなされたものの、15年の歳月を経て、いまやカルト・シネマとみなされている。ホワイト・トラッシュから成り上がろうと、ラス・ヴェガスを目指す蓮っ葉なストリッパー、かたや上品でアカデミックなニューヨークのウェスト・サイド育ちのバレリーナ。一見ぜんぜん違うストーリー&設定なんだけど、スターを目指す彼女らが結末に向かって経る過程は、①現況からの脱出②既に成功した者との対立/追う者と追われる側のライバル図式③煮詰まりを打破するための、セックスあるいは暴力の触媒④セックスを搾取する権力者・・・と、根底は案外と大差ない気がする。キャラや描写は異なるが、それは「Showgirls」の話の力学が、基本的に下から上に向かうのに対し、「Black Swan」は上から下へ、下降していくからだろう。その意味で、光と影みたいなこの2作が、いつかミッドナイト・シネマ2本立てで上映される日がきたら面白いなあ・・・なんて。

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映画ネタでもうひとつ。リチャード・アイオーデの初長編劇映画「Submarine」の英公開が3月18日に決定しました!予告編はもちろん、宣伝ポスターなんかも徐々に目に付くようになってきて、その「英版ウェス・アンダーソン」とでも言うべきオフビートでレトロなノリに、うー、すごく観たいぃぃぃっ!劇場でちゃんと観たい!とそそられている。この作品はベン・スティラーがプロデュースに一役買ってて、既にアメリカでも配給権が買われているので、いずれ日本にも流れてくると思います。

ともあれ、そのマイ熱気をぼんぼん激しく煽っているのが、主演のクレイグ・ロバーツだったりする。ウェールズ生まれのこの俳優、20歳・・・なんだけど、まだ幼児体型が残ってて、見た目は中高生でもじゅうぶん通じる。しかし、彼を観ているだけで色んなストーリーや役柄が浮かんでくる、独特なオーラとスター性が既に備わっていて、カルト役者として、今後伸びていくんじゃないかと思うのだ。
ギョロギョロした大きい目、日に当たってないUKならではの肌色、70~80年代の男の子を想起させる重苦しい前髪がなんともナイスな髪形、ダサさスレスレのトラッドなダッフル・コート。早熟で考えすぎな性向ゆえに、同世代のノリから脱落してしまった、ギークな一匹狼=クラスにたいていひとりはいる、昔で言えば根暗なオタク君、今風に言えば(オタクの進化型)ゴスとカテゴライズされるの男の子像がみるみる脳裏に像を結ぶ。アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーに弟がいたら、こんな感じじゃないだろうか・・・っていうか、「Submarine」のサントラは、例のコンサート映画の縁もあり、そのアレックスさんが手がけてるんですが。

クレイグ・ロバーツに魅了されるのは――いやまあ、単に顔と声が好み!ってのも大きいんですが――、今人気の20~30代の英若手俳優の現代的な端整さ&アンドロジナスですらある甘くフォトジェニックな雰囲気と、性格俳優に大事なリアルなキャラ&クセとキャラとを併せ持っている点だと思う。要するに、奥が深い。
前者の例としては、ジェイムス・マケヴォイ(デイヴィッド・テナントと双璧を成す、愛しのスコティッシュ俳優。文芸大作「Atonement」とかが代表作になるんだろうけど、シットコム「Shameless」他テレビ仕事がナイス!)、サム・ライリー(「Control」、「Brighton Rock」)、ロバート・パティソン(「Twilight」)、ニコラス・ホールト(「About A Boy」、「Skins」、「A Single Man」)などがあがる。ジェイムスとニコラスは演技も上手いから大好きなんだけど、美しいアメ細工を眺めるようでもあり、やはり鑑賞向けかも。顔立ちは整ってるし、造形そのものは美しいな~とは感じるものの、ブラッド・ピットとかジョニー・デップ、ジュード・ロウに対して、自分のメーターの針がピクリとも動かないのに、少し似ている(でも、ザック・エフロンは「面白い」と思う)。
後者の例は、同世代で言えばトーマス・タルグース(「This Is England」)、歳はずっと上だけどベネディクト・カンバーバッチ(BBCの「Sherlock」)、もっと前の世代で言えばティム・ロスやギャリー・オールドマン、更に遡ればトム・コートネイあたり。古典的で王道な映画スター美の尺度からは外れているけど「味のあるイイ顔」で、彼らがスクリーンやTV画面に投影するキャラにはのめりこめる・・・という役者が多いイギリスらしいと言えるかも?彼らがいてこそ成り立つ映画、あるいは「こいつ以外ない」と思わせる、ハマリ役(サイコな役が多いけど)を生み出せるタイプでもある。

今の時点ではやや小太り~ホルモン・バランスが悪いせいなのか、お肌の荒れも気になるクレイグ・ロバーツは、たとえば「Hobbit」にキャスティングされてもおかしくない。しかし、2、3年経っていったん、今の「子供のあいまいな肉」さえ落ちてくれれば、その下に隠れた、それこそブロンテものやトマス・ハーディといった文芸作品でも通用しそうな、彼のユニークな美が見えてくるんじゃないかと思う。
その決定的なトランスフォーメイション、少年から男へのシフトが起きる前の10代の時点で、もしかしたら――あくまで、もしかしたら、だけども――英版「Rushmore」、「Harold&Maude」、あるいは「Donnie Darko」的存在(あくまで存在であって、お話そのものが似ているわけではありませんよ~)になるかも?と観る前から勝手に妄想が暴走、期待させられている(笑)「Submarine」を撮ったのは、すごく運のいい話。

興味を抱いた方は、BBCThreeの人気ドラマ「Being Human」最新第3シリーズでの、クレイグ君の勇姿をおすすめ。「Being Human」は現代社会に生息する吸血鬼&狼人間&幽霊が主役のファンタジー/オカルト/コメディで、「Twilight」サーガのティーン人気に思いっきり便乗した(?)作品と言えるかも。たとえば、「日中も行動できて、ニンニクや十字架を恐れない吸血鬼」という基本設定に違和感があまり生じないのは、ヒット作「Twilight」の影響だろうし、その意味でポスト・モダンだと思う。まあ、テレビなんで、ハリウッド大作に較べれば、さすがにスペクタクルやアクション度は低い。が、非人間達のアブノーマルな日常を淡々と、かつキッチン・シンク的なリアリズム&ドタバタで追う様は、イギリスらしくてなかなか楽しい。
クレイグはシリーズ3の1話「Adam’s Family」にゲスト出演したんだけど、80年代に吸血鬼になり、以来、身体も心も16歳のまま・・・というヘンな子:アダム役は非常にハマっていた。ルービック・キューブの小道具とか、「Twilight」だけではなく「Let The Right One In」の影響も・・・という感じで、これは映画以上にフレキシブルにトレンドを取り入れることのできる、テレビの強みかもしれない。
日本で「Being Human」をウェブ経由で見れるかは分からないが、その番外編である「Becoming Human」は、たぶんBBCのウェブでチェックできるはず。これはアダムが主役のウェブオンリーの短編で、「Being Human」での出演エピソードの後日談。転校先の学校を舞台に、彼と狼女の女の子(ゴスです)のでこぼこコンビが、いじめの末に殺され、ユーレイになって校内をさまよう生徒のあだ討ちを助ける・・・という探偵&オカルトが主筋。話は他愛ないけど、クレイグたんの可愛さをチェックできるので文句は言わない。まあ、こういう「根暗な少年」役が集中して、タイプキャストにならないことを祈ってもいるのだけど。

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ジョアンナ・ニューサム「Have One On Me」のアレンジャーとしても知られるマルチ・インストゥルメンタリスト:ライアン・フランチェスコーニが、ソロ・インスト作「Parables」をリリースしたのは昨年のこと。ギター・インストといえばジョン・フェイヒィ、ロビー・バショー、最近だとベン・チャズニーやジェイムス・ブラックショウなどが思い浮かぶが、彼らのようなサイケデリックなラーガ系ではなく、もっと端整で清明、クラシック音楽を思わせるトーンが特徴だ。愛聴してます。

会場は東ロンドンのジャズ・クラブ:Vortex。もっともジャズ限定の会場ではなく、アヴァンギャルド、フォークやエレクトロニカ、ワールド・ミュージックと、ラインナップは幅広い。目と鼻の先にあるCafé Otoの、いわば姉妹のような存在と言っていいだろう(この近くにあるバーも、ダイブな感じでなかなかいいですよ)。
「すごく小さい会場だよ~、驚かないでね」と前もって聞かされてはいたのだが・・・ほんと、マックスでも80人くらいのキャパじゃないだろうか。しかも立ち見ではなくテーブル&椅子つきで(後方のバー・エリアでは立ち見客も少し入れる)、東京だと下北沢ラ・カーニャな感じかな。しかし、予約されていた席はステージのドまん前。文字通り、隣の客とひじをこすり合うような近さだし、ドリンク買いに立ち上がり、動くのもいちいち大変そうなので、ドア近くの席に変えてもらう。
スタッフは皆フレンドリー、応対も丁寧で気持ちいいが、バー係りを始め、すべてボランティアなんだそう。売れ線のコマーシャルなアクトでわいわい盛り上げる類いのヴェニューではないから、音楽好きな有志の協力でもない限り、成り立たないんだろうな。ちょっと泣けました。

オープニング・アクトは、西アフリカ:セネガル出身のコーラ奏者=カディアリー・コウイェーテ。コーラというのは、アフリカ版ハープとでもいうべき楽器。ハープほど大きくはないし、また持ち運びできるサイズでもあるのだが、巨大なダチョウの卵からネックが突き出ているような、独特な形状が面白い・・・ってまあ、書き方が野暮なんでイメージが良くないかもしれませんが、ボディ部には美しい装飾が施され、インド他アジアの民族楽器の優美な官能性と複雑さとを感じさせる。
インスト独奏がメインのアコースティック・パフォーマンス(スピーカーも使ってなかった)だったが、琴とハープシコード、シタールが混ざったような音色、めくるめく指さばきから滔々とこぼれ出すメロディの動き、精緻な和音には心洗われた。MCによれば彼の家族は代々コーラ奏者だそうで、自らのオリジナル曲だけではなく、親から伝えられた古い曲なども披露してくれた。世襲的な伝統音楽なのだろうし、そのせいか、聴いているうちに、サハラの宮廷あるいは神殿で、じゅうたんの上に胡坐をかいて、コーラを一心に演奏する彼の姿が脳裏に浮かんできた。王や神に捧げる音楽とでも言おうか。そのスピリチュアルなヴァイブに、お客も割れんばかりの喝采を送っていた。

続いて登場したライアン・フランチェスコーニも、開口一番「仲のいい友人にコーラ奏者がいるのでよく承知してるんですが、あの楽器の後に演奏するのは、ほんと分が悪いんですよね~」と苦笑。比較はフェアではないけれど、コーラが描き出す多彩で滑らかな音の網目を味わった後では、彼の理知的なギター・プレイはややシンプルに響いた。特に、ブルガリアのフォーク・ソングをアレンジしたトラックは、バルカン音楽の情感がもうちょっと欲しかった。しかし、最後にプレイされた「Parables」は、雨上がりの森を散策するような清々しさに満ちていて、安らぎの調べに我知らず頬が緩んだ。とはいえ、外に出たら小ぬか雨が吹き降る冬の夜のロンドンで、そのぬくもりもすぐ消し飛びましたが。

このギグの影響か、最近は(柄にもなく)ジャズとかインストをよく聴いている。マイルス・デイヴィスの「ESP」や「Filles De Kilimanjaro」、アリス・コルトレーン、ECMもの、アンビエント、ヒプノゴギック等。あ、少し前にボートラ付きで再発されたビル・オーカットの「A New Way To Pay Old Debts」も、すごくよかった。たまに暖かい日もあるので久々にパンを焼いてるんだけど、生地をこねる時に、なんかはまる音楽です。

他に愛聴・・・つーか、ターンテーブルから離せなくなってるのは:

●PJハーヴェイの「Let England Shake」。これは、彼女の代表作のひとつになると確信している傑作。歌の心と音楽の創造性、ともに素晴らしい。
●シスター・ロゼッタ・スロープ。ゴスペル・ブルース・ロックンロールのすごい歌い手で、黒人でバイセクシャルという、あまりにも早すぎた=ラディカルな人。ジャック・ホワイトも真っ青のギター・プレイがかっこよすぎだし、晩年の演奏なんて、ニーナ・シモンみたいにエモーションが超越してる。やばい。
●ペイパーカッツの新シングル「Do What You Will」!いつの間にかサブ・ポップに移籍してましたが・・・相変わらずドリーミィなサイケ・ポップでなごむ。この春は、クリスタル・スティルツ新作と、彼らのニュー・アルバムを心待ちだ。
●60年代ロック。なんかの拍子で(たぶん酔ってた)久々にドキュメンタリー「Festival Express」を観返したんだけど、①デッドの演奏のすごさ②ジャニスのソウル(女オーティス・レディング!)③リック・ダンコの優男ぶりを再確認。いちばん好きなのは、長らくリチャード・マニュエル(悲劇に弱いので・・・)、次が同点2位でリーヴォン&ガース、ロビーとリックは割りと思い入れが薄かったんだけど、あの映画を観るとつい、リックが好きになってしまう。にしても、ザ・バンドは、やっぱスーパーなグループだな。タイムマシンに乗れたら、真っ先にライヴを体験したいバンドの筆頭:その1。
●ティム・バックリィ&スコット・ウォーカー。新しく創刊される雑誌に「ゴス」をテーマに寄稿したんだけど、そのルーツとして、彼らの作品を聴き返した。ティム・バックリィの「Blue Afternoon」、「Lorca」、「Starsailor」の3作は、歳をとるごとに好きさが増している。特に「Lorca」は、目ウロコもの。スコット・ウォーカーは、60年代のソロ作評価の方が今は高い気がするけど(それはそれで大好きですが)、「Tilt」と「The Drift」は、これ以上暗く重くなれないよ~という、モノリスみたいな作品。

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Mariko Sakamoto について

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