Ryan Adams/27October2011@Union Chapel

*****以下のライヴ評は先月ロッキング•オンのブログに掲載されたものと同内容です。ちなみに、このショウは写真撮影禁止だったのでライヴ•スナップはありません。残念ながら、悪しからず〜*****

街路を彩るハロウィーン・デコレーションも、心なしかくすんで見える秋雨の宵。しかし、新作『アッシェズ&ファイア』を携えての今夜のショウの会場:ユニオン・チャペルの前には、しのつく雨をものともせず、開場待ちのファン達が長い長い列を作っている。北ロンドンにある英国ゴシック様式が美しいこのチャペルは、雰囲気はもちろん音響が良いため、数多くのアコースティック・ライヴに場を提供してきた。スパークルホース、スモッグ、マーク・コズレク、ジェフ・トウィーディー他、この会場で心に残る素晴らしいライヴを数々観てきたが、こんなに長い入場の列を見たのは初めてだ。
が、それもそのはずである。耳の病気を理由に、ライアン・アダムスがカーディナルズ解散、そしてライヴ活動からの一時撤退を表明したのは2009年春だった。2000年のソロ1作目から、その時点でフル・アルバムだけでも12枚を発表。所属レコード・レーベルですら持て余す多作ぶりな上に、ワイルドなロックンロール・ライフが喧伝され、しかも緘口令を敷けないアウトサイダーである彼のソロ曲線は、傍目には乱気流に入ったかのように見えた。生来の自己破壊的な資質も加えれば、その休息~スロー・ダウンは必然でもあっただろう。充電期間を経て、ライヴ・カムバックとなった6月のロンドン公演も大成功を収めた。ほぼ軒並み高い評価を受けている『アッシェズ&ファイア』のリリース後初となるこの晩のショウに、常以上に熱い期待が寄せられるのも納得である。

ドーム型の天蓋の下、ステンド・グラスを頭上にいただくステージにはピアノ、スツール、マイク・スタンドが設置されているのみ。赤・白・黄と照明もベーシックで、二階席の観覧サークルに並ぶロウソクのほのかな灯りを除くと、木製のベンチに腰掛けたオーディエンスは闇に包まれている。予定では9時開始だったが、「今夜のパフォーマンスの性質を鑑みて、携帯電話のスウィッチはお切りください/写真もご遠慮ください」の場内放送が流れ、8時45分には喝采の中、ソング・ブックのフォルダを手にライアン登場。開演が予定より遅れるのは慣れっことはいえ、早まるというのは珍しい。
ジャケットを椅子の背にかけ、ダース・ベイダーのプリントTシャツ姿のライアンがスツールに落ち着くと、場内は水を打ったように静まり返る。1曲目は〝Oh My Sweet Carolina〟で、静かでドラマチックな縁取りを廃したその透明な響きに、軽いショックを受ける。たとえば『ナッシュヴィル・スカイライン』や『血の轍』のボブ・ディランを思わせるこの曲のトーンは、もともと穏やかではある。が、明らかに出音量を1、2レベル下げたデリケートな歌とプレイに、ライアンの耳の状況を思いやらずにいられないのだ。と同時に、アコースティック・ギターと声だけのそぎ落とした演奏が、パフォーマーとしての力量と成熟を明確に伝え、優雅なメロディ&美声を一段と冴えたものにしていたのもまた事実。ジャーニー・マンの悲しみを宿す♪May You One Day Carry Me Home…のリフレインが浸透すると共に、「ライアン新章開始」の思いもまた、心に焼き付けられた。

セットの前半は、旧作からも取り混ぜつつ、『アッシェズ』曲を中心に進んでいった。子守唄のように揺らす〝Ashes&Fire〟の安らかさ。控えめだった歌唱も、ギターの深い響きに息を呑む4曲目〝Dirty Rain〟のソウルフルなシャウトから通常値を刻み出したし、〝Invisible Riverside〟のブルージィな風が吹くモノローグといい、痺れるほど完璧な出来ばえだ。タウンズ・ヴァン・ザントの域に達した、と言っても過言ではない。一方で、昔ながらのファン達を歓喜させる名曲も惜しみなく披露されていく。この晩、『アッシェズ』曲と並んでもっとも多くプレイされた『ハートブレイカー』からの〝My Winding Wheel〟は、歌声だけで長いハイウェイと車窓を飛び去る景色を脳裏に描き出してしまう、ライアンの天与の表現力で魅了。他の曲でも何度かその感慨に襲われたが、ギター(あるいはピアノ)の弾き語りという余白が多いプレイ・スタイルにも拘らず、ひなびたオルガン、スネアのさざなみ、コーラスなど、「そこにない音」までこんな風に耳に喚起させるシンガー・ソングライターは、なかなか多くないだろう。
ソリッドな演奏がストライクを次々に決めていき、全身を耳にして聴きほれるオーディエンスも、1曲終わるごとに割れんばかりの喝采を送っている。しかしライアンのジョーク混じりな客席とのやりとりは健在で、うっかり四文字言葉を吐いて「神様、ごめんなさい」と教会に謝ったり、シュールな空想を語って笑わせ、曲をリクエストするファンをからかう等々、彼の天然なチャームがなごやかな雰囲気を生み出してみせる。この人の過去のライヴでは、たとえばオーディエンスからの野次で険悪な空気が生まれたり、無愛想さと皮肉がきつすぎたり、ライヴの途中で突如ステージ袖に引っ込んでしまうなど、「どう転ぶか予測がつかない」ハラハラものの不確定要素が常にあった。こんなに安心してショウを楽しめるのは、もしかしたら初めてかもしれない。
その新たな安定感が、単調なライヴに繋がることはなかった。本人も「スロー・テンポな曲ばっかりだね」と苦笑混じりに認めていたように、普遍的なソウル・サーチングに基づくアコースティック楽曲が中心のセットではあった。しかし、ハーモニカで鋭く切り裂く〝Firecracker〟、〝Crossed Out Name〟、〝English Girls Approximately〟等、ロックンロールでアーシーなグルーヴ感は随所にスリルを与えていた。かと思えば、ピアノを伴っての〝Sylvia Plath〟、〝New York,New York〟にはローラ・ニーロやキャロル・キングらシティ派ソングライターのセンシティヴな洗練、そしてクラシック音楽への理解がにじみ・・・と、「カントリー」「フォーク」を軸に、柔軟な感性と間口の広さはアメリカン・ポップ~ロックの諸相にリーチしていく。ルーツ・ロック、オルタナ、フォーク、更にはメタル・アルバムと、ライアン・アダムスの多作ぶり・様々な作風に、聴き手は翻弄すらされてきた。しかし、不断のクリエイティヴィティの核にある、彼のソングライター/琴線に触れるメロディ・メイカーとしての確固たる資質と才覚が、今夜ほどナチュラルに、明瞭に響いた時はなかったと思う。

歓声もひときわ大きかったウィスキータウンの3曲で本編を締めくくり、2時間のソング・マラソンを淀みなく、パーフェクトに走り抜けたライアンに、熱狂的なスタンディング・オベイションの雨が注がれる。リクエストに応えての〝Dear Chicago〟、ピュア・フォークなギターのピッキングがあまりに繊細だった〝Halloween〟と、アンコールも観客の興奮を抑えるどころか、「もっと!」の思いにますます油を注いでいく。住宅街のど真ん中に位置する会場ゆえ、終演時間(既に11時近い)をリマインドされるものの、「でも、あと1曲だけ、ね?」とスタッフをなだめすかし、来ました~~っ!エンディングは〝Come Pick Me Up〟。これを聴かないと収まりがつかない・・・というほど個人的に好きな曲のひとつなのはもちろん、ある意味ライアンの世界観が凝縮されたシグネチャー・ソングでもあり、それにふさわしいエモーショナルな熱唱には心がわなないた。
「今夜は来てくれてありがとう。僕にとっても本当に大きな意味のあるショウだよ」の丁寧な挨拶とお辞儀&合掌ポーズを繰り返した後、ソング・ブックのフォルダを小脇に抱え、ライアンは去った。夜の街路にこぼれ出した観客達の興奮冷めやらぬ表情、そして耳に飛び込んでくる「とんでもなかった!」「すごい」の声を聞くまでもない――『アッシェズ』に響くシンプリシティ、そして自明の美は、「ひとりぼっち」の振り出しに戻ることでライアンが得た恵みだった。それは、バンドの解散や闘病、レコード会社との決別など、痛みも伴うものではあった。だが、灰燼からフェニックスが再生するように、クリーンに刷新された視野とフォーカスは、この人が本気を出した時の光に更なる輝きを与えていた。名作『ハートブレイカー』から11年、ひとつのサイクルを終え、彼が新たな季節に踏み出したのを確信させてくれるライヴだった。この絶好のタイミングでぜひ、来日公演が実現することを切に願う。

Setlist
1.Oh My Sweet Carolina…HEARTBREAKER
2.Ashes&Fire…Ashes&Fire
3.If I Am A Stranger…COLD ROSES
4.Dirty Rain…A&F
5.My Winding Wheel…HEARTBREAKER
6.Sylvia Plath…GOLD
7.Firecracker …GOLD
8.Invisible Riverside…A&F
9.Everybody Knows…EASY TIGER
10.Lucky Now…A&F
11.Please Do Not Let Me Go…LOVE IS HELL
12.Rocks…A&F
13.New York,New York…GOLD
14.Crossed Out Name…CARDINOLOGY
15.Two…EASY TIGER
16.When Will You Come Back Home…COLD ROSES
17.Why Do They Leave?…HEARTBREAKER
18.English Girls Approximately…LOVE IS HELL
19.Houses On The Hill(Whiskeytown/STRANGERS ALMANAC)
20.Avenues(Whiskeytown/same above)
21.Jacksonville Skyline(Whiskeytown/PNEUMONIA)

Encore
22.In My Time Of Need…HEARTBREAKER
23.Dear Chicago…DEMOLITION
24.(brief impro)
25.Halloween…LOVE IS HELL session
26.Come Pick Me Up…HEARTBREAKER

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Mariko Sakamoto について

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