Record Store Day 2012

今年のRSDでお世話になったRat Records

開店直後の店内。新着コーナーは「えらいこっちゃ」で、近づけません

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土曜は年に一度のインディ•レコード店のお祭り:Record Store Dayでした。2007年にアメリカで発足、以降世界各地に飛び火してインターナショナル規模になり、イギリスもかなり盛り上がります。日本はどうですかね?
普段から(新品&中古)レコード店には行く方だし、気に入った新譜はなるべく現物で買うようにしている。ので、個人的には「別にこんな風に年に一度っきりの〝イベント化〟しなくたって、もうちょっとしょちゅうお客がショップに足を伸ばせばいいことじゃないのか?」と感じもする。しかし、そういう考え方は恐らく、古く偏狭で堅物なものなのだろう。

自分のように半分Crate Digger入った、レコードあるいはCD買うのが日常行為…という人間は少数派。普段、わざわざ専門店にまで足を運んでるヒマがないし、ネットやダウンロードで済ましてます〜、という人の方が多いと思う。そうした向きにとっては、インストア•イベントや限定リリースが目白押しなこの日は、大勢のお客に混じってフェス気分でレコード店をはしごしサンプルしてみる、いい機会でもあるのかもしれない。
そういう機会でもないと、インディのレコード店ってのは、お店のノリや店長/スタッフに慣れない人間には、大抵ちょっと敷居が高いもの(たとえばたくさんのメーカーやブランドの集合体であるデパートでは、そのぶん匿名性が高く気軽に買い物できるのに対して、個人経営のブティックやセレクト•ショップは「主張」があり「顔」があるので、そこに抵抗を感じる人もいると思う)。以下の「Record Shop Dude」(激おもろい!)は実在の西ラフトレ店員だそうなんだけど、彼みたいな人がカウンターの向こうに陣取っていたら、繊細な人間はお店に足を踏み入れるのすらビクビクものだろう。

ちなみに、自分が(祝いたいと思う気持ちと同時に)抱えているRSDに対するこうしたややアンビバレントな感慨/疑問に対して、今や英インディ界どころか世界的に注目されるインディの大リーグ組織と化したBeggars Group(4AD、XL、Rough Trade、Matador含む)の親玉:マーティン•ミルズが答えているので、興味のある方はこちらをどーぞ

ともあれ、土曜の朝は久々の快晴(ここんとこロンドンは大気が不安定で、冷えも戻り、突然の雷雨や霰まで降った)。天気に左右されやすい性向も手伝い、「ひねくれたこと言ってないで、今日はやっぱレコード店に行くべ」と思い直したわけです。ドールストンに少し前にオープンしたKristina Records(中古はちょい高ながら、他のロンドンのお店とちょっと違う品揃えのアングルは頼もしい)に、ハイプ•ウィリアムスの新譜買うついでに行くのもいいかな〜、それとも〜…と色々オプションを考えたが、結局地元:南ロンドンの数少ないレコード屋であるRat Recordsに行くことにした。
ここは中古屋なので、DJ Food他のインストア•イベントはあるものの、RSDの目玉とも言える限定リリースは扱わない。そっちにもそれなりに興味はあるのだけど、再びブラー「Fool’s Day」のような騒ぎになるのは分かりきっている&東ラフトレみたく「絵になりやすい」トレンディな旗艦店が一番多く枚数をゲットし売りさばく(→小さなショップや地方のお店には僅かしか流通しない)仕組みなのはマニアも承知していて、朝早くから行列系のすんごい争奪戦になる。そういうビッグな店に行くとただ疲れるだけなので、地味&ローカルに済ませたいなあ〜と。レコードを買うのってそもそも楽しみなわけで、そこに要らぬ気苦労は加えたくないわけです。
それもあるし、去年コーチェラに行ったついでに寄ったAmoebaで、前年•前々年のRSD限定盤がまだ地道に売られていたのに出くわして、「別に焦ることもないやん」と悟ったのも大きかったかな? もちろん、そこにはブラーの7インチはなかった(探してもいなかったけど)。が、自分にとってもっともっと大事なバンドのリリースは売れ残っていたので、結局、「自分個人にとって大切なもの」が何かをわきまえていれば、「大衆にとって大事なもの」に振り回される必要はないってこと。
だって、リップスやビーチ•ハウスのシングルをゲットしよう!といきりたって頑張っていて、ふと、「っていうかさー、自分の隣に立っていて、肘を突き出してきていちいちうざったいこの男は、ケイティ•ペリーのシングル目当てな輩やん」と気づいたら、かな〜り興ざめですよね? あとまあ、自分がいわゆるコンプ系のコレクターではないってのも、幸いかな。音源さえちゃんと聴ければオッケーで、レーベルがどうのとかスリーヴの質が云々、各国版を集めるのじゃ!とか、そこまで徹底したこだわりがない自堕落な人間なので。

なんだか早くも暑苦しくなってきたので、話を戻します。今住んでるエリアからRat Recordsまでは、自転車で30分ほどの距離。一見どうってことないお店なんだけど、根本的にはジャンル•フリーな方針で、ヴァイナルを中心に(中古CDもあり)、レア盤〜ミント盤にあまり固執しすぎない品揃えと良心的な価格設定を武器に、商品の回転が早いのが人気の秘密ではないかと。
要するに、「千載一遇のコレクターや観光客が来店するのを期待して、誰も手を出せない商品を強気で売ろうとする」のではなく(場所柄、観光客はほとんど来ないだろう)、「誰かにどこかでヒットする」であろう作品を手広く扱うスタイル。クラブ、インディ、メタルなど、特化したジャンル専門店に較べて一見ランダムかもしれないけど、お店そのものの寿命という意味では、こっちの方が案外長いのでは?と。ロックが根本にありつつ、南ロンドンのDJにうけるレゲエやクラブ•シングル、12インチも幅広く置いてあるので、「何かめっけものがあるかも」と、入荷日の土曜に通い詰める常連客も多いお店です。

しかし、この日はさすがRSDっていうのか、ちょっと事情が違った。定刻の開店時間は10時半なんだけど、10時の段階で既に10人近くがお店の前に結集している。常連の中には初めて見る顔もちらほら混じっていたが、シャッターが上がった頃までにはその数20人近く。他の有名ショップに較べれば少ないかもしれないが、その全員がいっさんにお宝を求めて「新着入荷中古アナログ」コーナーにダッシュし、営業開始から30分ほどはそのエリアに近づけないほどだったのにはびっくりだった。
その押し合いへし合いの中に割り込むほどガッツのない自分(=根性なし)は、他のコーナーを一通りあさりながら盛り上がりが沈静化するのを待つことにしたが、知人のひとりは既に得意気にワイアーやペイヴメント、クリームのアナログを小脇に抱えている。うーむ。
仕方ないので辛抱強くラックの脇に待機し、やっと「サクサク」の流れに乗ることができた…ものの、自分的に「今これを買いたい」と感じるような作品には出くわさなかった。既にめぼしい商品は他のお客の手に握られてしまった後だったのかもしれないけど、レコード買い、特に中古の場合は、究極的に出会いはその時/場の運なので、「これだ」と感じるものがなければ、次のチャンスを待てばよし:無理に博打買いまでする必要はない。

と思っていたものの、「自分は手ぶら、でも他者は何か買っている」という、バーゲンにも似たシチュエーションになんとなく漂う「何か自分も買わないと!」という根拠のない競争心/焦りは、いつの間にか心の中に忍び込んでいた模様。カウンターの奥に、先日観て素晴らしかったホワイト•ヒルズのライヴ盤が飾ってあるのを発見してしまったのが運の尽きだった…別に、アナログにくっついてくるTシャツに興味はなかったのだが、店員に「これはいい内容のライヴだよー。100枚限定、しかもバンドから直で買い付けたんだ」と説明を受けるうち、ついふらふらと「く、ください」を発してしまった。
通販サイト他なら、同作品の盤だけで20ポンドちょっとで買える。が、このTシャツ(たぶん着ない)がセットなせいで、お値段49ポンド。この日のマイRSD予算がすべて吹っ飛んでしまったではないか。アホや〜。と同時に、自分がますます「50quid man」に近づいている気にもなり、素敵なレコードをゲットした嬉しさと共に若干の苦さが襲ってきたのでした。
50quid man、すなわち「50ポンド男」というのは、月に一度くらいの頻度でレコード店にやって来て、50ポンド前後の範囲で、めぼしい新譜や話題の作品をいちどきにまとめて買っていく手合いを指す。毎週こまめにお店に来るヒマはないけど、MOJOやUNCUTをガイドに「これはチェックしたい」作品をリスト•アップし、一気に「大人買い」するタイプとも言えますかね。「小金にモノを言わせて」な雰囲気で、あまりいいイメージではない形容です。
一方で、こういう独特な罪悪感を抱くのは、「たかがレコード1枚に、50ポンドもはたいてしまった(=それだけあれば、他に色々できるでしょ?)」とちくちく考えずにいられない、おのれの小市民ぶりの現れに過ぎないのかも、とも思う。コレクターの間でン百ポンドの価格で取引されるアナログは世の中にいくらでも存在するんで、たかが50ポンドでびびっている自分に、そもそもレコード買いって向いてないのかも??

などと考えてもいたが、おまけにホーム•メイドのRSDクッキーをもらい、居合わせた知人達とカフェに移動、コーヒーを飲んでレコードや音楽談義に花を咲かせているうち、気も晴れてきた。微々たるものながら、こうして好きなお店に貢献もできたわけだし、めっけもんの中古5、6枚とはいかなくても、家に帰って真っ先に聴きたい音楽は手に入れたわけで。結果オーライっす。その知人のひとりは、「これから午後に西ラフトレに行くぜ」と元気いっぱいだったが、予算マックスな自分はそのまま家に直帰したのでありました(=アゲイン根性なし)。

White Hillsのアナログをゲット。右下に映ってるのが特製「RSDクッキー」(ジンジャー味:美味しかった)

さて、今年のマイRSDのシメは、昨年のRSDオフィシャル映画であり、先頃DVD化されたばかりのドキュメンタリー:「Sound It Out」鑑賞。ヨークとニューキャッスルの間に位置する英北東部の都市ストックトンで、唯一生きながらえている最後の「街のレコード屋さん」Sound It Outの姿を追ったドキュメンタリーであります。

一部にある現行のヴァイナル•ブーム(=デジタル音楽への反動)に乗じ、アナログを主眼とするお店が新たにオープンする傾向もある…ものの、レコード/CDショップ、特に地方のそれは年々閉鎖に追い込まれている、というのがイギリスの基本的な現状だと思う。インディ店に限った話ではなく、HMVといった大手チェーンもスーパー•マーケット、通販、デジタル•ミュージック•ストアに深刻な打撃を受け、今やゲーム、オーディオ•アクセサリー、アパレル、書籍、菓子など、「音楽以外」の商品も売り場面積を多く占めている。
本作の主人公Sound It Outは、こうした時代の波に揉まれ失われつつある、「地方のレコード屋さん」のまさに典型と言える存在だろう。その荒波を必死に食い止めながらお店を守っている店長のトムが「レコードには思い出が宿るんだよ」と語るように、消えゆく何かに対するロマン〜悲劇の感覚は、ややもすれば映画の視界を涙でかすませることになる。
が、この作品はレコード店が象徴する音楽と個人のロマンチックかつパーソナルな結びつきにも光を当てつつ、店長トムとスタッフ、Sound It Outを支える常連客など、それぞれに味のあるカラフルなキャラ達とその生態をあぶり出すことで、全体をほのかなユーモアで包んでいる。浪花節でもなく、またシリアスな糾弾でもシニカルな変化球でもない、いわばトラジコメディ。その話法の人肌なトーンとクリーンな映像感覚は、近年の米インディ映画や「Burn To Shine」シリーズを思わせるものでもある。

ストックトンに行ったことはないけれど、経済不況で痩せたその侘しい光景は、イギリスの多くの地方都市で見受けられる。Sound It Outのカウンターを彩る常連客にしても、ヤング層はいずれも職にあぶれ、それでも音楽が好きでたまならいというタイプだ。その代表としてトラッシーなトランス系ダンス音楽のファン(自分達で音楽も作っているがお金がないので、レコードを何枚も取り置きしている)、そしてスラッシュからクラストまで「うるさいものなら何でも」なメタル•ヘッズが登場するのだが、メタラー二人組は実に性格良さそうで、お店と音楽、ひいては地元ストックトンへの愛情は実にピュア。
にしても、地方に行けば行くほど、メタル/ハード•ロック、あるいはダンス音楽が人気というのは、日本でも同じ傾向じゃないか?と思う。退屈で鬱憤を抱えた若い子にとっては、耳が痛くなる爆音あるいは我を忘れて踊りまくれるガバな高速ビートなど、フィジカルでダイレクトな刺激じゃないと、タフな現実からの逃避にならないのかもしれない。

ロンドンで300回以上ライヴを観たと豪語するステイタス•クォーの熱狂的なファンで、「もう中毒だよ」と言い切る男性。「俺が死んだら、大事に扱ってくれるか分からないから、コレクションは人には遺さない。葬儀屋に訊いたら、レコードを溶かして棺桶を作ってくれる業者がいるそうだから、そこに頼むかも」と語るこの人は、ステイタス•クォーという、まあダサさの権化みたいなバンドのファンである点になんのコンプレックスも抱いていない。その清々しさは、たとえば「これを今聴くのがオシャレ」みたいなノリであっちこっちに浮遊する「自称音楽好き」より、自分には遥かに好感がもてる。
ふらりと店に現れては、古いアルバムの再発やミート•ローフなど、自分の好みに忠実にCDを買っていく気ままな老人。専用の「アナログ•リスニング部屋」を構えるほどヴァイナル好きないわば「上客」で、ストーンズからボーズ•オブ•カナダまで聴くシリアスな(でもとても内気そうな)リスナー青年。盗品とおぼしきターンテーブルを「買い取ってくれないか」と持ち込むうさんくさい連中。唯一の店員であるおとなしそうな若者(かつてはHMV勤務)は、週末になるとゲイ•クラブのDJに…といった具合に、好みも人間性もごたまぜな人々の交差点として、この店が機能している様が浮かび上がる。

彼らに分け隔てなく接し、ダイアー•ストレイツからホワイト•レーベルのクラブ12インチまで問い合わせにはなんでもはきはき、親切に対応し、「店のどこに何があるか、ストックはすべて覚えてる」と話す音楽マニアの店長トム――入荷した新譜はすべて聴くそうです――は、でこぼこな彼ら顧客にとって頼りになる音楽の水先案内人であるのはもちろん、他に持って行く場のない音楽への過度な愛を理解してくれる/シェアできる友でもあるのだろう。
かといって彼とて商売人、チャリティでやっているわけではない。不要になった古いレコードを買い取りで持ち込んだ老カップルに、たとえビートルズでも、傷が多すぎて売れないからと正直に断る。家賃は安い店舗ながら、再開発のあおりで立ち退きの危機を経験したこともあるそうだし、そもそも今の時代にアナログを扱うこと自体がリスキー。ギリギリのところで踏ん張っているのは明らかなわけだが、アナログへの信念、そして音楽好きのハブを守りたいという真摯な思いがにじむ姿は、「天職ですね」という形容を捧げたくもなる。
それはまあ、この店長トムさんが、(専門店オーナーにしては珍しく)気難しく内側がねじれた雰囲気だの近寄りがたい空気皆無のナイスな人柄だから、というのもあるかもしれない。今みたいにレコード店が厳しい時代に、愛想のない店員なんてマイナス要因に他ならないと思うけど、まだまだいるんですよねー、「俺はお前より音楽に詳しいぜ」型の、うざったい輩。

本作の公開でSound It Outに注目が集まり、この愛すべきお店そのものも多少息を吹き返しているらしい。良かったなあ。いつか、ストックトンに足を伸ばす機会があったら、必ず立ち寄りたいと思っております。

もうひとつ、本作は女性監督の映画という意味でも貴重。完全なるインディ映画、しかも観る層が限られる内容だけに資金繰りは大変だったそうだが、寄付他の協力で成り立ったというから、これまたいい話ですね〜。ちなみに「女性」というのは、この映画の隠れたテーマのひとつでもあるだろう。女性というか、その不在ですね。そこは劇中でも疑問が呈されるんだけど、「専門音楽ショップ文化の9割は男性に占められている(売り手も買い手も)」というのは、インストア•イベントのシーンを除くと、このドキュメンタリーの画面に若い女性がほとんど現れない点からも明らかである。
そこで感じるのが、本作に流れるナイス•フィールの背景に、その「女性の欠如」も(多少)作用しているかな?という側面。もちろん、監督のジーニー•フィンリーがその効果をあらかじめ狙った、とまでは思わない。しかし、男性が圧倒的多数を占めるこの不思議に歪んだオタク世界にカメラを持った女性が現れ、誠実な興味を抱いて男達の話に耳を傾けてくれたら? それはたぶん、彼らにとっては喜びなんじゃないかと思う。
事実かどうかは知らないが、よく賢い女友達から注意されるのが、「男は誉めてあげないとダメよ」という説。全員がそうじゃないだろうけども、どうやら男性というのは、常にちやほやされたり「すごい!」と言われないと不満がある生き物みたいなんですね。やっぱある意味、子供なのかもしれん。なわけで、カメラを前に思いを赤裸々に吐露し、プライヴェートな表情を見せる彼らの健気で純な姿を観ているうちに、ついつい「これが男監督相手だったら、ここまで素直になれたのかな?」なんて考えも浮かんだわけです。
ともあれ、イギリスの片隅にあるレコ屋文化のとある現状を切り取り映し出すことで、人間群像、そして日常に息づくカルチャーの記録にもなっているこの作品、ぜひ多くの方に観てもらえたら、と思います。

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Mariko Sakamoto について

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