My Favourites–2012 edition

●●●My Favourites 2012●●●

明けましておめでとうございます……どころか松の内も過ぎた失笑な時期ですが、やっとまとまった昨年のベストを。前回(=2011年版)のようにサクッと済ませよう思っていたのに、ちょっと欲をかいて音楽ドキュなんかも盛り込み始めたところに年末の酒盛りモードが忍び込み、あえなく「晦日にアップ」の野望は挫折しました。冗長なので、一気に全部読むと疲れますよ〜と警告。
新人フォローへの熱意が年々薄れているので(でも、バズってる連中を実際に聴いてもピンとこない&なぜ騒がれてるのか理解できない!と感じる例がほとんどなので仕方ありません)ニューカマーは少なく、おなじみの名前が並んでます。が、リスニング•ライフをどこかしら豊かにするヒントになる作品を、このリストの中から1枚でも拾っていただけければ幸いです。

 **************(冒頭の3枚を除き、アルファベット順)**************

Scott Walker/Bisch Bosch(4AD)

寡作なスコット•ウォーカーの新作登場はそれだけでもイベントであり、ほぼ間違いなく「ベスト•アルバム指定席」行きではある。しかし70歳を目前にますます不可解さと実験性を増し、他にないサウンド•スケープを造営しつつプロダクション/ディレクションを研ぎ澄ましているのは見事としか言いようがない。
10分近いトラックが2曲、そして21分以上の大作も含む広がりのある構成は「The Drift」からの発展と言えるが、全体的に音数を絞りリズム面で多彩さを増したことで、この人にしてはモダンな雰囲気の漂うアルバムになっている。まずあり得ない話とは承知しているが、ライヴで聴きたくなる音なのだ。完璧なヴォーカル•コントロールとオーケストラのぶっ飛んだ使い方を聴いていると、「Tilt」から本格的に始まった旅路=3部作の最終章といった趣きもある。しかし前2作を踏まえた総合的なアルバムというのみならず、タイトルを始めとする不条理なユーモアのセンスがあちこちに顔を出しているのは新鮮。深遠で象徴性に富んだこの人の作品は、「アート」として深読みし分析しようとすればキリがない。ピッチフォーク型の論文めいたレヴュー•スタイルが人気の昨今では余計そうだろうし、スコット•ウォーカー自身も受け手による様々な解釈〜自由な説を楽しんでいるという。しかしオナラが楽器としてプーピー鳴る曲も含む本作は、彼のシュールな想像力を眉根にシワを寄せて読み解こうとする(のもまったくいいのだが)だけではなく、そこから生まれる言葉と音双方の根本的な「変さ」を楽しむのもありですよ、と感じさせる1枚でもある。
しかし17年前にリリースされた「Tilt」、そして6年前の「The Drift」が切り開いたサウンド&ダイナミクスが現在もスワンズやニック•ケイヴ&ザ•バッド•シーズ、ポーティスヘッドらの音に残響しているように、この人の音楽は未来に向けられている。ビッシュ•ボッシュならぬ大きく漆黒なエニグマ=ビッグ•ブラックとでも呼びたいこのチャレンジングなアルバムもまた、歳月を重ねるほどに聴き手にとっての意味合いを変えていくだろう。焦ることなく、折りに触れて聴き続けようと思う。
唯一残念だったのは、アナログのパッケージ。「The Drift」はレコードと同サイズのブックレット付きだったが、今回はCDサイズの厚いムックに縮小。スリーヴから落っこちやすいので、今後は一考願いたく思います。

Sun Araw with M.Geddes Gingras and The Congos/Icon Give Thank(RVNG)

振り返ると、2012年もっとも頻繁に聴いたのがこのアルバムだった。聴いたきっかけは、純粋に「この人は天才」と思っているSun Arawことキャメロン•スタローンズのニュー•プロジェクトだからトライしてみるべ〜……という程度のものだったが、おかげでジャマイカの秘宝:コンゴスのディープで歪んだ音世界に足を踏み入れることにもなった。リー•ペリー止まりのレゲエ初心者である自分にはすごい発見でした、サンクス!
ライヴでコンゴスの4人のコーラス•ワークの健在ぶり、ハーモニーの厚みとあたたかみに直に触れられたのも大きかったのかもしれないけど、過去の遺産に対する今の世代のリスペクト、そして双方のインタラクションが生んだ成果という意味でも、とにかく麗しい作品。

Fiona Apple/The Idler Wheel Is Wiser Than The Driver Of The Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do(Epic)

7年ぶりのオリジナル新作。インディ•レーベルでしか通用しないような活動ぶりをメジャーが許容している、その事実にはちょっと嬉しくなる。と同時に、本作を聴くと5年でも10年でも彼女の新たな音楽を待ち続ける忠実なファンがなぜ存在するのかがたちどころに理解できる。ピアノを中心とする(ニューヨーク発の女性SSWらしい)弾き語りスタイルは健在ながら、風変わりなサンプリングやパーカッション楽器が彩りを添える程度の剥き出しな音作りは「定型」に近づいたかと思えば離れと、奔放に聴き手の感性に挑んでくる。
前面に出ているのはヴォーカル•パフォーマンスで、美しくコケティッシュな一方で時に痛いほど自意識過剰、露骨で醜悪にもなり……と、その幅の広さと怖いもの知らずな表現(他者への遠慮といった、「大人」のガードがない人?)は、巷に跋扈する張り上げ&歌い上げ系(それが「エモーショナルでソウルフルだ」と勘違いしている)女性シンガーや、オートチューンまみれのお人形な歌い手達の多くに煎じて飲ませてやりたいほど。歌唱もブルータルでヘヴィだけど、歌詞にこめられた感情の複雑さや言葉が掻き立てるイメージのむせるようなリッチさゆえにカジュアルには聴けないレコードかもしれない。が、いったんはまったらえんえん聴き続ける、そういう作品/アーティストだと思う。

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Damon Albarn/Dr Dee(Parlophone)
●Rocket Juice&The Moon/S.T.(Honest John’s)
●Bobby Womack/The Bravest Man In The Universe(XL)

2012年のお忙しアクトその1。多作さを称えりゃいいってもんじゃないだろ……の説もあるでしょうが、どのリリースにもきっちり聴くべきところがある3枚を送り出したのは立派。というか、この人の場合はブラーの新曲もありますね。
音楽ポリマスとして、また現代のルネッサンス人として「バンド」というくびきから離脱し様々な音楽的冒険を繰り広げているデーモンだが、その2012年最初の成果はトニー•アレン(フェラ•クティのドラマーとして名高い)×フリーとのジャム•コラボレーション=RJ&TM。「Mali Music」から実に10年、アフリカン•リズムの学徒としてデーモンが提出した最初の学術論文と言えるかもしれない。しかし堅苦しいところはなく、リズムとグルーヴの織りなす曼荼羅なマトリックスに身を任せればオッケー。そのシンプルな骨格を活かしつつポップなフックやモダンな肉付けを随所にちりばめる、デーモンのプロデュースも冴えてます。
プロデュースと言えば、ソウル•ミュージックの御大ボビー•ウーマックの久々のスタジオ新作(こちらはXLレコーディングスの首領リチャード•ラッセルとの共同プロデュース)。ゴリラズ「Stylo」で共演済みのボビー&デーモンだが、濃厚豊穣な低音ヴォイスの背景にモダン&ミニマルな英クラブ•ビートを配する作りは先達への愛情とリスペクトを感じさせ、これまたいい仕事ぶり。
しかし、個人的にもっとも聴きごたえがあるのが「Dr Dee」。16世紀の魔術師ジョン•ディー博士を扱った同タイトルの書き下ろしオペラからまとめられた1枚で、クラシック音楽の素養は彼のルーツにもともとあるとはいえ、欧州古楽器とアフリカの民族楽器が寄り添う古くも新しいサウンド•スケープとひなびたメロディの詩情は音楽的好奇心を刺激する。

Jherek Bischoff/Composed(Brassland)

シアトルを拠点とするプロデューサー/コンポーザー/オーケストラ•アレンジャーであり、パーレンセシカル•ガールズやシュウ•シュウへの参加、近年ではアマンダ•パーマーのツアー要員としても注目を集めているジェレク•ビショフ。いわば裏方さんだが、本作はインディ•ロックのエソスを通過したクラシカル•ポップ〜現代音楽という意味でオーウェン•パレットやパトリック•ウルフにも一脈通じる1枚になっている&ザ•ナショナルのデズナー兄弟が運営するブラスランドからリリースというのもしごくうなずける。
オケを雇う予算がなかったため、本人が演奏家のもとに趣き各パートを録り重ねていった……という労作(完成までに3、4年費やしたとか)だが、ウクレレから書き起こしたというコンポジションは遊び心に満ちていて、アリア調のラスト曲⑧を除きポップ色はきっちり維持されている。1曲ごとに異なるゲスト•シンガー/パフォーマー(マニアックな人選にもうなります)との相性も興味深く、独特な丸みのある歌声に癒されるカエターノ•ヴェローゾ、なぜか南国味が漂うデイヴィッド•バーン曲、ミラーの透き通った歌声、カーラ•ボズリックの強力なパフォーマンスが印象に残る。

Paul Buchanan/Mid Air(Newsroom)

グラスゴーと言えばオレンジ•ジュースやジョゼフK、近郊勢ジーザス•アンド•メリー•チェイン、ティーンエイジ•ファンクラブにベル&セバスチャン〜モグワイ……と大まかな「インディ伝説」の図式が引ける。が、筆者が初めてリアルタイムで接したグラスゴーという意味で、どうにも忘れられないのがロイド•コール&ザ•コモーションズ、そしてザ•ブルー•ナイルの2組。ポール•ブキャナンは、ブルー•ナイルの中心的なソングライター&シンガーだ。
ブルー•ナイルのもっかの最新作から数えれば8年ぶり、ソロ名義では初の作品になる本作は、ピアノの弾き語りを中心にストリングス他がかすかに色を添える程度のアコースティックかつホーム•メイドな作り(開けた窓から紛れ込んだとおぼしき、鳥のさえずりもちょっと聞こえる)。初期トム•ウェイツすら浮かぶ簡素な作りゆえ、ブルー•ナイルの緻密でシネマティックな音世界は期待しないでほしい。が、戸惑いつつも時の流れや変化を受け止めるしかないやるせなさがポツリ、ポツリとしたたる歌唱と観察眼に富んだ言葉のポエジーは、たとえば近年のエイダン•モファットの情趣にも重なる。北国の夜空のもと、密やかに年輪を重ねたメガ•ロマンチストの声。

Dirty Projectors/Swing Lo Magellan(Domino)

前々作のアクロバティックな造形、前作のパノラミックかつシュールな広がり&ゴージャスなフロウをこよなく愛する人間としては、本作のストイックな作りはちと物足りなかった。サウンド面での縁取りが絞り込まれたぶん「エモーションが直に伝わる」との評もあるが、全体として感情の中核が曖昧〜歌としての求心力が薄まったと感じるのは自分だけでしょうか? それでもデイヴ•ロングストレスのコンポーザーとしての特異なセンスは抗いがたい魅力を放っているし、それを受けとめるバンドの柔軟性もいい。今後の発展はやはり楽しみです。 

Dirty Three/Toward The Low Sun(Drag City)

ウォーレン•エリスがニック•ケイヴ仕事に引っ張られがちだからか(?)、これまた久々になったD3新作。そのニック仕事ではバッド•シーズ新作が待機中だが、もっかのところの最新プロジェクト:映画「Lawless」サントラは(映画そのものと同様)「アイデア/キャスティングはいいんだけど、作品そのものは疑問」な残念賞な内容だった。しかし「焼ける空」と題された1曲目から文字通り灼熱の演奏が吹き荒れる本作はこのユニットのエモーショナルな喚起力をたっぷり味わわせてくれる。ばきばきにロックな⑤もいいが、メランコリーとマスキュリンなロマンがむせぶ空間が美しい③⑦等、男じゃないのについ男泣き。

Bill Fay/Life Is People(Dead Oceans)

伝説のカルトSSWが復帰……というのは00年代以降ぽつぽつ続いている傾向であり、1970年と71年に「Bill Fay」、「Time Of The Last Persecution」の2枚をデラムに残しこつ然と消えた英国人ソングライター:ビル•フェイの約40年ぶり(!)のスタジオ新作もそのひとつと捉えることができる(2005年にもう1枚出ているが、この作品は「Time〜」に続く作品としてレコーディングされたもののお蔵入りになっていた音源を含む発掘リリース)。
「まさかの復活」という名目が大きいだけに、ありがたさという名の「箔」がいやおうなしに付きまといもする。が、それを取り払って聴くと、まず驚くのがビル•フェイの声。晩年期ジョニー•キャッシュの枯れがやや加わったものの、ピアノに向かう丸まった背中が思い浮かぶヒューマンで朴訥としたトーンは変わっていない(涙)。オープンなメロディが素晴らしい①、70年代当時の作品を彷彿させるランディ•ニューマンやデイヴィッド•アックルスを思わせるバロック調なストリング•アレンジやコーラスを伴う曲もいいが(⑪は圧巻)、個人的には彼のダークな感性と侘しさがしみる、抑えたプロダクションの曲が好きだ。
ビル•フェイの名曲〝Be Not So Fearful〟を長いことカヴァーしているファン:ジェフ•トウィーディーは④でデュエットを披露、またウィルコのお返しカヴァー⑧も含まれている。心情や意図は大いに理解できるのだが、アルバム全体の中ではやや唐突な印象を受ける2曲になっているのは残念。ビルの世界がそれだけ確固としたものということだろう。にしても、今回のジェフ(ジム•オルークもビル•フェイのファン)、ロイ•ハーパーのジョアンナ•ニューサム、バート•ヤンシュのデヴェンドラ〜ヴェティヴァー、ヴァシュティ•バニヤンのアニマル•コレクティヴ等々、若い世代のアメリカ人達のイングリッシュ•フォーク〜プログレ•フォークへの探究心には頭が下がります。先述の70年代作品2枚はぜひ聴いてもらいたいところ&ビルのインタヴューがこちらで読めるので、興味のある方はどうぞ。

Field Music/Plumb(Memphis Industries)

英北東部サンダーランド出身のフィールド•ミュージック。共に曲を書き、歌えるマルチな才能を誇る兄弟が中心のバンドであり、2枚組の前作はいわばふたりの幅を反映したものだったと言えるが、いささか大作過ぎたかな。
本作は1枚に凝縮され、変拍子を始め動きに満ちたメロディ•ラインを特徴とする彼らの知的なソングライティングとクリア&リリカルなポップ•センス、細部へのこだわりとが存分に楽しめる。精神的に10CCの後継者に当たるバンドじゃないかと常々感じているのだけど、10CCが当時大人気バンドだったのに対し、彼らはまだブレイクしてない……ファストフードというのか、ふわふわのマシュマロみたいなポップが幅を利かせる、今という時代に不遇されてる音楽IQの高過ぎる人達なのかもしれません。

Bill Fox/One Thought Revealed(Jar Note)

エリオット•スミスを聴いたのがきっかけで、90年代後半にアメリカのコンテンポラリーなSSW作品を買いあさっていた時期があった。そこでたまたま出くわした作品の中でも、ビル•フォックスの2枚はなぜか頭の片隅に引っかかって離れなかった――という人はどうやら筆者だけではなかったようで、このお話からも伺えるように、「ビル•フォックスを探せ」作戦が地味に進展していたらしい(苦労人バンド:ナーダ•サーフも、2010年のカヴァー•アルバムで取り上げてます)。
当人は音楽からは一時的に足を洗っていたそうだが、カルト人気の静かな広まり&ファンの存在に応える形で近年活動を再開。本作をレコード通販サイトの新作入荷コーナーで見かけた時は、「まさかあのビル•フォックス?」とびっくりさせられたものです。かつてに較べると声はごま塩に嗄れていて、1曲目のダークなトーンといい、歳月の傷跡は避けられないかな……と思いきや、②以降は彼のディラン流なメロディ•センスとナチュラルな歌い回しが広がっていく。地味な小品だけど、いい曲を書き続けているのが分かってとても嬉しかった。

Goat/World Music(Rocket)

「こりゃなんじゃ?」と驚かされる、得体の知れない伏兵(キワモノ?)めいた作品に出くわすのは楽しくエキサイティングなもの。2012年の自分にとって、そんな1枚が友人の激賞で手に取ったこの作品だった。スウェーデン出身らしいのだが、バンド•メンバーの名前も内情も不明(ライヴではバケットヘッドみたいなお面被ってるし、ヴォーカルが女性という以外は謎多し)。「ワールド•ミュージック」という、いまや冗談でしかないタームをタイトルに持ってくるセンスも面白い。
しかしアフリカ風ポリリズムとチャントな歌唱、ハイライフ•ギターを軸に、60〜70年代英サイケ/ジャズ•ロック/プログレのドラマ性を強引に割り込ませていく楽曲は、どっちも好きな自分にはジャスト、かつ新鮮な配置の「コズミック混ぜご飯」と映る。同じスウェーデンで言えばDungenが思い浮かぶし、本リストの中ではタイ•シーガル、そしてテーム•インパラのレトロ理解とも思いっきり共振している。派手な打ち出しも含め、ファースト•インパクトが薄れれば終わりなバンドなのかもしれないし、1枚きりで消えても驚かない(そういうトリックスター的なところもまた魅力?)。が、デビュー作ならではの無茶なエネルギーと興奮とに出会えて良かった!と思う。

Godspeed You! Black Emperor/Allelujah! Don’t Bend! Ascend!(Constellation)

またも「久しぶり」が冠される作品ですが。2010年の再集合を経てツアーを行ってきた彼らだが、遂に登場したスタジオ新作。大作①(タイトルは国際戦犯ラトコ•ムラディッチの名にちなんでいるのでしょう)からして音の焼け野原〜トライバル&サイケデリックな地獄篇が隆起しながら20分以上にわたり展開していく様は圧巻だし、続くトラックに鳴り響くアブストラクトな荒涼の絵はさながら炎の後に残されたディストピアか。耳で聴く映画。

Grizzly Bear/Shields(Warp)

2009年は00年代を通じ発展•拡張してきたブルックリン•シーンを象徴するアクト:アニマル•コレクティヴ、ダーティ•プロジェクターズ、そしてこのグリズリー•ベアの3組が揃って素晴らしいアルバムをリリースした(個人的に)感慨深い年だった。別に申し合わせたわけじゃないにせよ、ああいう風に一気に出揃うと、「時代精神」なんてうさん臭い言葉もつい頭に浮かぶわけです。
その結果は自分的には上からDP、AC、GBの順番だったんだけど、そこから3年経って(奇しくも)再び同じ年に登場した、いわゆる「ブレイク•アルバム」に続くフォロー•アップ作はグリズリー•ベアが一歩先んじた。アニマル•コレクティヴはクオリティ•コントロールをうっちゃったことで本人達は気持ち良さそうだが、聴き手をサボタージュしかねない作品だし、ダーティ•プロジェクターズは足踏みの1枚。しかしグリズリー•ベアは(それまでの自分にとっての彼らの)ベスト作である「Yellow House」の精神的な延長線上に位置し、しかも「Veckatimist」のポップ性も兼ね備えたトータルな作品を達成してみせた。
陰影に富んだ音の細やかな塑像とオーガニックなダイナミズムのコントロールはもはや「若きマイスター」の域に達しているが、エド&ダンの2ソングライターがもっとも得意とするろうそくの炎、あるいは橙色の薄暮にじりじり炙られるごときスロー•バーンなエモーションの高まりについ涙がこぼれてしまう(アホか?)。なかなか乾かない洗濯物を希望のため息と共に眺めるようなウェットな音楽とも言えるし、避ける人もいるのかもしれない。しかし内側に留まるだけの価値がある、ディープな1枚だと思う。

Here We Go Magic/A Different Ship(Secretly Canadian)

ヒア•ウィ•ゴー•マジックのサードは、何かにつけて「ナイジェル•ゴドリッチ」の2単語がつきまとう作品になってしまった気がする。スター•プロデューサーだから仕方ないとはいえ、バンドのファンであるナイジェル側から「プロデュースさせてほしい」と申し出たわけで。ファーストからこのバンドを追っかけていた身としては、本末転倒気味な多くのメディアの反応にブー!な思いもあった。
しかしプロダクションは文句無しに美しくて、さすがです(ブーたれてすみません)。ルーク•テンプルの書くアウトラインに全員で曲を肉付けしていくというこのバンドのジャム志向は、イコール過剰にもなりがち。その多層な作りは前2作に独特な浮遊感とアトモスフィアを生み出してもいたわけだが、普遍的な「歌」に焦点を絞りつつ――全曲素晴らしいです――クリアな視界と叙情的な音の重なり/釉薬とがエレガントに押し引きし輪舞していく様は、HWGMポップの新境地だと思う。まだ発展中のバンドなので、今回のストイックでトータル•アルバムな志向が今後も続くのかは分からない。しかしナイジェルという抑止力と理性の介入は彼らにとっても学習だっただろうし、2010年代のイーノとトーキング•ヘッズとでも言うべき関係になっていったらとても面白い。グルーヴ感だけではなくスケールが加わったライヴ•パフォーマンスも含め、今最高のバンド……と言いたいところだが、ライヴの華としてルークに拮抗する磁場を形成し、プロデュースも行っていた才媛:ジェン•ターナー(B/Keys)が脱退してしまったのは非常に残念。彼女は現在クリブスのライアンと新ユニットを画策中です。

Japandroids/Celebration Rock(Polyvinyl)

祝賀の打ち上げ花火SEで始まり終わる、そしてタイトルからして頼もしい、カナダ発:はっちゃけロック•デュオの新作。オバハンな感想なのを重々承知で書くと、ほんと、こういう「エモ」に汗臭いロックって今なかなか見当たらないんですよね〜……とつい嬉し泣きもしてしまうわけですが。
リプレイスメンツ〜ハスカー•ドゥから始まり、昨今ではザ•ホールド•ステディ、ファックト•アップ、タイタス•アンドロニカスらに至るブルーカラー•ロックの血筋を感じる1枚。コーラスはとかく「♪オー•オー•オー」あるいは「♪アー•アー•アー」で済ませてしまう安易さを、作曲面での脇の甘さと指摘することもできる。が、言葉にならないブラスターな勢い=若さってのもあるんですよね。

Neil Youngwith Crazy Horse/Americana&Psychedelic Pill(Reprise)

フル•アルバム2枚ということで、「お忙し報賞アクト」に含めても良かったかもしれませんね?ニール爺。クレイジー•ホースと久々の顔合わせで、前者はトラディショナル曲〜古謡他アメリカン•ライフの布地に浸透している楽曲のリアレンジ集、後者はオリジナル•アルバム。前者は評判が悪いようだが、最高のガレージ•バンドとも言えるクレイジー•ホースとノリノリでプレイするニールのロッキンな勢いと解放された表情は素直に楽しめるし、原曲を留めないアレンジの数々も面白い。
「Psychedelic〜」はパーティ•モードではなくニール節が前面に出ているいわば王道ニールな出来だが、60年代を中心に過去を回顧する視点も含め重層的な内容を(グレイトフル•デッドばりの)サイケデリックなジャムに刻んでいく様はこれまた聴きごたえ充分。ベテランの力作と言えばディランもスプリングスティーンもレナード•コーエンあった年なわけだけど、ニールのランダムさというか、自然体ぶりにはやはり惹かれる。

Thee Oh Sees/Purtrifiers Ⅱ(In The Red)

聴き過ぎると耳から脳蓋までジンジン焼け焦げるのでご注意!な溶剤サイケデリック•バンドことジー•オー•シーズ。ライヴといいレコードといい天下一品な人達だが、本作はフランジャー/ディストーション/リヴァーブまみれの電撃ギター•ロック一辺倒ではなく(ご機嫌にスリージィなブギー曲やVU系曲もあるが)、時にフルートやサックスも顔を出す比較的フォーキィで80年代英インディ•ポップすら思わせる作りになっているのが新鮮だった。歌心も備えたバンド=振れ幅の広さを感じると共に、基本的にレッド•ゾーン超過しっぱなしの彼らのディスコグラフィの中でも聴きやすい「入門篇」になることを祈ります――というのも、「一生に一度は観てもらいたい」グレイトなバンドのひとつなので。

Ty Segall/Twins(Drag City)
●Ty Segall Band/Slaughterhouse(In The Red)
●Ty Segall and White Fence/Hair(Drag City)

2012年のお忙しアクトその2。前出のジー•オー•シーズを核に、サンフランシスコ〜西海岸に広がり続けるサイケ•ガレージのネットワーク。その中でもここ数年めきめき伸びてきたサーファー•ボーイ=タイ•シーガルにとって、アルバム3枚を送り出した2012年はブレイクスルーの年だったと言えるだろう(基本的に多作な人なので、3枚でも驚きはしないが)。
盟友ホワイト•フェンスとのコラボ「Hair」は両者の音楽的な電極がランダムにオン/オフするサイキックな1枚、タイ•シーガル•バンド名義での「Slaughterhouse」は「Raw Power」期ストゥージズばりの頭が痛くなるノイズ•ロック……と2枚はそれぞれ異なる魅力を放つが、決定打はやはり「Twins」。60〜70年代ロック好きにはたまらないファズり、泣くギター•プレイも抜群だが、1曲ごとに個性の立った的確なアレンジ、メロディ•センスの良さは「正解」ボタンを次々に押していく。ローファイ&インディなまま突き進むのか、ここからカート•ヴァイルのように王道に向かうのか、次のステップが気になるところ。

Patti Smith/Banga(Columbia)

パンクのゴッドマザー:パティの新譜は、彼女の近年の作品中でもベストの内容だと思う。タイトル曲や日本に捧げた③に流れる鼓舞のパワー、詩人の霊感を見せつけるアルバム後半も素晴らしいが、軽やかなポップ•チューンやニール•ヤングのカヴァーににじむ果てしない慈愛の表情に、愛し、闘い、生み、傷つき、育んできたひとりのたくましい女性の年輪を感じずにいられない。

Sun Kil Moon/Among The Leaves(Cardo Verde)

自分にとって、マーク•コズレクはたとえばヨ•ラ•テンゴやビル•キャラハン、ロウのように「新作が出たらとりあえず聴いてしまう」アーティストのひとり。言い換えれば一種の精神安定剤のように聴けるアーティストというわけで、バッキングにかすかなドラム他が混じる以外は大半がスローなアコギ弾き語りの本作も、コッザの夢中遊行な歌声のファンなら安心して聴けるはず。
とはいえ本作で耳を引くのは歌詞。この人のメランコリックな作詞はそもそも好きというセンチな人間だが、今回はアメリカ/ヨーロッパ他でのツアー生活の断片、(熱心なファンはいるものの)あまり売れない中年ミュージシャンの日常/ぱっとしない現実etcが淡々と綴られている。ドラッグやグルーピーも登場するトラジコメディなモノローグの数々には、ウィル•オールダムのあけすけさも浮かぶほど。旅するシンガー=ジャーニー•マンの弱さや哀しさを描いた曲と言えばラウドン•ウェインライトの「Motel Blues」がとても好きだが、あの曲に漂うロマンチックさが「旧き良き時代」に聞こえるくらい、リアルでほろ苦いダイアリーだ。「Track Number Eight」という曲の「Songwriting costs Doesn’t come for free/Ask Elliott Smith/Ask Richie Lee/Ask Mark Linkous/Ask Shannon Hoon」なる一節には思わず涙がこぼれたが(エリオットとマークはもちろんだけど、アセトンのリッチーの名前がとどめだった……号泣)、それでも歌い、旅を続けるしかない人なのだろう、マーク•コズレクは。

John Talabot/Fin(Permanent Vacation)

昔に較べるといわゆる「今のロック」を聴く率は減る傾向にある昨今だが、スペイン人DJ/プロデューサーというこの人は、タヒチ80のリミックスで名前が頭に残っていた。で、試しに聴いたらハマった次第(リンドストーム以来?)。グザヴィエさんの耳はやっぱり頼りになりますね〜。
クラブ音楽界での評価とか立ち位置までは、基本的にダンス•ミュージック門外漢である自分には詳しく分からない。だけど、エモーショナルに引き込みつつ盛り上げていく手法の巧みさ&80年代とオーガニックとのバランスがいい音の選び方は素直に気持ちよいし、自宅リスニングにもばっちり対応するアルバムになっている。

Tame Impala/Lonerism(Modular)
●Pond/Beard,Wives,Denim(Modular)/
●Melody’s Echo Chamber/S.T. (Weird World)

2012年のお忙しアクトその3は、豪州パース発のサイケデリック•ロッカーズ:テーム•インパラの主犯格ケヴィン•パーカーちゃん。テーム•インパラのメンバーも複数含むコラボ•ユニットであるポンドのアルバム(ケヴィンは演奏の他にミックスも担当)は2010年にレコーディングされていたそうで、純粋に「新音源」とは言いがたいのだけど。
とはいえ2010年はテーム•インパラのブレイク作「Innerspeaker」が発表された年でもあり、「Lonerism」がキーボード/シンセに音の重点を移した作品であるのを思うと、「Beard,Wives〜」はその中間〜過渡期に位置すると捉えていいのかも? 友人連中が農家に集まってレコーディングしただけあって趣味的/60〜70年代ロック臭(とハッパの煙)むんむんな内容だが、たとえば出色な⑦に顕著なMGMTばりのポップ•チューンとしての意匠と折衷性も備わっている。
メロディーズ•エコー•チェンバーは、ケヴィンがプロデュースしたフランス人シンガー:メロディ•プロシェのプロジェクト。メロディ•ネルソンがつい浮かぶ名前(本名だったらすごい)にふさわしい揮発性が高く線の細いヴォーカルと曇り空なメロディ、アナログ•シンセの融合はドリーム•ポップのお手本だが、ケヴィンのグルーヴィなギターが背骨を通している。しかしアルバム後半でアイデアが息切れしたのか、曲のクオリティが落ちるのは残念。EPでも良かった気がします。
「Lonerism」はNMEアルバム•オブ•ジ•イヤーという(色んな意味で)驚きの高評価を集めた作品。トータルなアルバムという意味ではムラもあるので自分としてはこのユニットのベストとは思わないが、①③⑤⑥⑦⑪といった楽曲はケヴィンのメロディメイカーとしての才覚が冴える文句無しの美しさで、今年のベスト•ポップ•アルバムの1枚であるのは間違いない。フェーズ•シフターやディストーション他にどっぷり浸かったシンセにループ/コラージュ等、入り組んだスタジオ•ワークがモノをいう内容(ライヴではバンドとして機能しているものの、基本的に作品はケヴィン•パーカーがひとりで作っている「トッド•ラングレン」「プリンス」型なアーティストなので当然っちゃ当然だが)だが、密室系アーティストにありがちなテクニックや完璧さの追求ではなくフィーリング重視で、ローファイなサウンドでも、ヴォーカルのピッチが少々ずれていてもゴーしてしまうところが今っぽい。本人撮影というジャケ写真(パリのリュクサンブール公園を写したもの)のインスタグラムっぽさ同様、「現在のテクノロジーで過去のイメージを再生する」感覚というところか。しかしそのほころびを補って余りあるのがベース&ドラムの爆裂なダイナミズムで、それっぽくいじって一丁あがり〜なサイケではなく、ビートルズやピンク•フロイド作品がどうして今も有効なのかを体で理解している人なのが伺える。テーム•インパラが多くのモダン•サイケと一線を画す理由はそこだろう。

Teen/In Limbo(Carpark)

ティーンといっても別に10代のバンドというわけではなくて、バンド名はメイン•パーソンの名前(Kristina “Teeny” Lieberson)にちなんでいる。彼女は以前ヒア•ウィ•ゴー•マジックでキーボードをプレイ(「Pigeons」の頃)していた経歴の持ち主だが、メンバーではなく主犯=ソロをやりたくなって脱退〜自分の姉妹や友人と共にこのユニットを始動させたのだそう。
フィルターを通したヴォーカル、アイス•クールなクラウト•ビート〜80S風シンセ&エフェクトがホップするサウンドは、定則を無視するガーリィな気まぐれに揺れる軽さがとでも新鮮。そこから、共に脱力したESGとリズ•フレイザーとがポスト•パンクをプレイしているごときご機嫌なサウンドが生まれていて、テーム•インパラ、HWGMに並ぶ今年のマイ•ベスト•ポップとして愛聴した。ビーチ•ハウスを失ったカーパークにとっての新たなドリーム•ポップ•アクトとも言えるし、プロデュース&ミックスがソニック•ブーム様というのもポイント高いです。

Sidi Toure/Koima(Thrill Jockey)

マリ人ギタリスト/シンガー•ソングライターによる、スリル•ジョッキーからの第2弾アルバム。清明なギター•プレイと緻密なリズムの絡みを軸に、アフリカン•フィドルや女性コーラスが軽やかに舞う。息の合ったアンサンブルが繰り出す絶妙なグルーヴに思わず足腰も揺れ始めるし、ブルージィな曲での歌唱も聴かせてくれる。ライヴも素晴らしいそうなので、次回ロンドンにショウをやりに来た時はぜひ体験したいものです。よりシンプルな作りで、静かな宵の似合うメロディが味わい深いフォーク色の濃い前作もおすすめ。にしても、ますます意欲的なリリースを続けるスリル•ジョッキーは頼もしい限り。

Sharon Van Etten/Tramp(Jagjaguwar)

「USインディ界2012年のイット•ガール」――なんて形容はいささか安っぽいかもしれない。しかしキップ•マローン(TVOTR)、ジャスティン•ヴァーノン、アーロン•デズナー(ザ•ナショナル)、ザック•コンドン(ベイルート)を始め多くのミュージシャン•シンパを抱えるこの人は、若い世代にとってのキャット•パワー的存在になっていく可能性充分だろう。
キャット•パワーとの比較は、シャイさや根無し草なバックグラウンド〜自信欠如/自己卑下といった本人の(つい手を差し伸べたくなる)性向はもちろん、フォーク〜ブルース系のシンプルなギター•プレイを軸とするタイムレスなソングライティング、パーソナルな葛藤に満ちた歌詞から来ている。しかしショーンのアーシーさや重い情念とは異なり、歌声とメロディ曲線は宙を目指すエピックかつ優雅なメランコリーに包まれている。繊細でフェミニンな魅力を本作(=3枚目)でうまく引き出した、アーロン•デズナーのロック(たとえば③はリズ•フェアーらポスト•グランジな90年代女性アクト風な作り)からクラシックの広がり(ルーファス•ウェインライトが浮かぶ⑪)までこなすプロデュースぶりも聴きどころだ。その一方で、シンガーとしてのいい意味でのお行儀の良さ〜エモーショナルな周波数の低さに物足りなさも感じていたところ、ライヴでは保護のくびきを破るような表現を見せてくれたのが頼もしい! 本作への高い評価は今後プレッシャーになっていくだろうが、オーディエンスとの交流やバンドとの演奏他を通じ今後どう変化•成長していくかが非常に楽しみな人。

Jack White/Blunderbuss(Columbia)

WSが(少なくともしばらくは)動かないであろう点を鑑みても、やっとソロに踏み切ってくれて良かったな〜と心底感じた。「(天然で)メグ以外に自分の特異さと才能のスケールを普通に受け入れられる人間は、どうも余りいないようだ」と本人も悟ったのでしょうか? 脚本•撮影•監督•主演までこなしてしまう(コントロール•フリークとも言う)人なので、それでいいと思います。ブルース•ロック/フォークといったソングライティングの基本をちゃんと抑えることで名作の重みも保ちつつ、この人のエキセントリックで奔放な音楽直観がぼっこんぼっこん随所に落雷しているのも実に嬉しい1枚。

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**Reissue**

CAN/The Lost Tapes:1968-1975(Mute)

パッケージも含め、文句なしに2012年のモンスター級なベスト再発――と言いつつ、未発表音源集なので新作と捉えていいかもしれない。いやー、カンの新作が聴けるなんて、長生きはするもんですなぁ。
イルミン•シュミットが指揮を取った内容は、CD3枚組(アナログは5枚):トータル3時間以上のボリューム。リハーサルやジャム、ライヴ音源をメインとする録音期間のスパンは7年で、ゆえに内容にはバラつきもある。しかし、恐らく史上もっとも影響力のある&重要なバンドのひとつであるカンの無限大にフリー•フォームな音の工房で何が起こっていたかをこうして体験することができるのは、喜びに他ならない。彼らのカタログ同様、リスナーにとってもミュージシャンにとっても、尽きないインスピレーションの新たな源になっていくはず。「これ以上のお蔵出しはないよ」とイルミン先生は語っているので、間違いなくゲットください。

Sleep/Dopesmoker(Southern Lord)

伝説化していたこの作品、廃盤でちょいと入手困難だったところにありがたいリマスター再発です。オリジナル•リリース時に複雑な経緯をたどり、ブートも出回ったいわくつきの1枚――60分以上の1曲のみ収録という型破りなアルバムを、メジャー•レーベルが「はいよ!」とそのまま発売するわけもないのだが――とはいえ、アート•ワーク(ロジャー•ディーン?)も含め今回でメンバー側も納得のいくヴァージョンになったとのこと。めちゃくちゃ重く広大な、しかし不思議に美しいサウンド•スケープ。

Paul McCartney and Linda McCartney/Ram DX Remaster(Hear Music)

ポールの人の良さそうなキャラ&そのサニーで警戒させない表層の下に潜む音楽家としてのしたたかさというのはたまに鼻につくのだが(はい、ダメ子やルーザーが好きな、所詮はみみっちいシニカルな人間です)、本作の伸びやかなムードとキメ細かいソングライティング、一聴シンプルながら実は濃い、豊かな音楽性には降伏せざるを得ない。天与の才能が必要としていた、リフレッシュ休暇から生まれたみずみずしいポップ•ジェム。この高価なデラックス再発をわざわざ買う……ってところまでいかないとしても、まずはオリジナル作にトライしてみてくださいませ。

The Trypes/Music For Neighbors(Acute Records)

「フィーリーズの兄弟バンド」とも言われる、ニュージャージー•ポップのミッシング•リンク=トライプスの音源/未発表デモ/ライヴ音源他を集めたありがたい1枚。付随のライナー•ノーツ(ファンのアイラ•カプランも執筆してます)によれば、カヴァーやジャムを主旨とするゆるいユニットから始まったトライプスに、彼らの友人連(ファースト後一時的に解散状態になっていたフィーリーズのグレンとビル、デイヴ•ウェッカーマンやブレンダ•ソウターも含む)が加わる形でバンドは発展。ウィリーズ、ユン•ウーも混じってのライヴ•シリーズを企画するなど、短い期間ながらもNJガレージ•シーンを照らしたバンドの記録と言えるだろう。後にフィーリーズがレコーディングする「The Undertow」のオリジナル•ヴァージョン、ビートルズやストーンズのカヴァー等も興味深いし、ヤング•マーブル•ジャイアンツやトーキング•ヘッズに通じるミニマリズムからペイズリー•アンダーグラウンド系のサイケデリアまで、アイデアの実験室としても機能していたのが伺える。

Annette Peacock/I’m The One(Light In The Attic)

ジャズ/エレクトロ/ロック/ファンク/前衛を自在に横断し、ミュージシャン(ミック•ロンソン、クリス•スペディング、ビル•ブラッフォード他、自分好みのプレイヤーと共演していて憎い!)を魅了した音の魔女:アネット•ピーコックのセカンド。フリー•ジャズの構造に官能的なグルーヴ、ムーグ•シンセサイザーが混交した今聴いても新鮮なサウンド(録音は1971年)は、ボウイ(本作に参加したマイケル•ガーソンを「Aladdin Sane」に引き込んでいる)やイーノ、ローリー•アンダーソンへの影響も指摘されている。決して聴きやすい作品ではないが、彼女のベースにあるブリル•ビルディング的なソングライティングのセンスにフィオナ•アップルとの共振も感じる。本人のレーベルからも再発されていたが、メジャー流通網に乗った今リイシューでより入手しやすくなったはず。

Donnie&Joe Emerson/Dreamin’ Wild(Light In The Attic)

1979年リリース作品の再発――とはいえエマーソン家の自主制作アルバムである本作は発売当時通常のレコード流通網に乗ることがなかったため、ローカル•レベルで終わった。クレート•ディガーやアウトサイダー•ミュージシャン好きなマニア達が「幻の1枚」と話題にしたことで再発と相成ったわけだが、(筆者も含め)9割方の人間にとっては幻も何も「発見」に他ならないだろう。
聴くきっかけはDCFCのベン•ギバードがトウィッターで本作について盛り上がっていたからだったが、ほどなくしてドニー&ジョーのファンというアリエル•ピンクが「Mature Themes」で彼らの「Baby」をカヴァーで取り上げるなど、音楽ファンの間に波紋が広がっていった。
作品の主役は、ワシントン州の小さな農業地帯(シアトルから車で5時間)に生まれ育った〝Rock’n Roll Farmers〟ことエマーソン兄弟。音楽作りや演奏に夢中な息子達のために父親は一家の敷地にスタジオを建て、更にはライヴ会場(!)まで作ってやったというから驚きである(近隣にライヴをやれるクラブがないくらい、文化的に隔離された生活だったらしい)。そこからレコード作りへ夢が発展するのは時間の問題だったわけだが、自主レーベル発売&ローカルなレコード店に直接持ち込んだというDIYぶりで作品が売れるわけもなく、ドニー&ジョーは1枚で消えることに(バンドの推進力だった当時17歳のドニーはその後も音楽活動を続けた)。録音機材購入費&アルバム制作資金を丸ごと失った形のパパ•エマーソンは、借金返済のために農地のほとんどを売り払う羽目になったという(涙)。
シャッグスをちょっと思わせる親子話だし、衝撃的とすら言えるジャケット写真(フィンガー5か?)や拙い演奏&録音技術からも分かるように、素人作品と言えばそれまで。万人におすすめするつもりはない。しかしホール&オーツやバリー•ホワイトらR&B〜ディスコの影響も混じる親しみやすいパワー•ポップ•メロディとドニーの歌声はナイーヴな魅力と野心に満ちているし、下手とか上手いを越えたサムシング=パッションの存在に心を揺らされずにいられないレコードだったりする。

**Live**

●Low,Sun Ra Arkestra(@All Tomorrow’s Parties curated by Jeff Mangum)/March
●The Sadies(Brighton)/May
●Here We Go Magic(London)/May
●The Congos+Sun Araw+M Geddes Gengras(London)/June
●Kronos Quartet,Stars Of The Lid(@All Tomorrow’s Parties curated by The National)/December

**Music Documentary/Film**

Searching For Sugar Man(Dir:Malik Bendjelloul)

デトロイト生まれ、70年代に2枚のアルバム「Cold Facts」、「Coming From Reality」の2枚を残したカルトなシンガー•ソングライター、〝ロドリゲス〟ことシスト•ロドリゲスの数奇な半生を追った秀作。彼の音楽に触れたのは本リストのリイシュー篇でも顔を出しているレーベル:Light In The Atticからの再発がきっかけだったが、ディランの影響下にある独特な歌い回しと社会派のパワフルな歌詞、曲とプロダクションのクオリティの高さには驚かされたもの。それ以上に驚いたのは本人が存命中という事実で、2009年にグリーン•マン•フェスティヴァルで彼の演奏を拝めたのは3日間のハイライトのひとつでもあった。
とはいえメディアにはあまり登場せず、ミステリアスな存在のままだったロドリゲスのヒストリーと、彼を探し出したファン達のパッションとに本作は光を当てていく。アルバムのプロデューサーを始めとする関係者や知人達の証言から、少しずつ浮かび上がるロドリゲス像。その誰もが彼の才能を認めているものの、アルバムは当時英米でまったくといっていいほど売れなかったという。しかし海を越えて南アフリカに流れ着いたロドリゲスの作品は、かの地でアパルトヘイト政策に反抗する若い世代の心情を代弁するレコードとして愛され、聴き継がれるミリオン•セラーになっていった(ファンは、「ロドリゲスはエルヴィスよりビッグだ」とすら語る)。その事実を本人がまったく知らないまま、プロの音楽家としての活動から身を引いたのは残酷な運命のいたずらとしか言いようがない。しかしインターネットの発展で状況は変化。根も葉もない自殺説も流布するほど謎に包まれ、本名さえ不明なヒーローの最期を追って南アのファンやジャーナリスト達がキャンペーンを展開していく。意外な事実が明かされ、苦労と失意の数十年を経てやっと栄光が訪れる様は、「The Story Of Anvil」に勝るとも劣らない感動だ。
ロッキュメンタリーは昨今続々登場しているが、本作は「音楽マニア向け」に留まらないサムシングを備えている。ひとつは、映画そのものの志の高さ。予算が尽き、途中で制作が一時期中断したというインディ作品でありながら、カメラ•ワークを始めロケ中心の映像は美しい。また、(古いプロモ写真他を除き)70年代当時の資料やアーカイヴ映像が皆無に等しい逆境に対し、アニメーション等々クリエイティヴな手法を用いているのもクレバー。必要は発明の母なわけです。
もうひとつは、ロドリゲス本人の人間性。この手の作品では当人の回顧インタヴュー場面は必須ながら、シャイでメディア慣れしていない彼はカメラの力に屈することなく当人のまま:スター的に振る舞うことがない。これまた監督にとっては難関だっただろうが、トークを無理強いすることなく日常の姿や彼の生活環境を映し出すことで多くが語られている(実に作品の半分近くまで「現ロドリゲス」が画面に登場しない構成もカメラ嫌いで映像が乏しかったらじゃないかと思うが、そのぶん「ロドリゲスって誰?」「ロドリゲスを探せ!」のくだりはフィクション顔負けにサスペンスフル)。その環境から浮かび上がるのは――筆者にとってもっとも衝撃的だった場面も、ここで出てきます――成功と縁遠かった苦労人の苦さあるいは負け犬のロマンでもなく、また「発見」されて以降のプチ•セレブ状況に翻弄されるわけでもない、俗世を超越した生き様だ。もしかしたら、それはロドリゲスが編み出した自己神話なのかもしれない。ミステリーを残したままの方がファンは引きつけられるわけだし、映画そのものも撮影終了後の彼の状況の変化(たとえばLight In The Attic再発により高まった注目)をオミットしていて、ドキュメンタリーとして疑問は残る。しかし、2枚のアルバムとその音楽に打たれた人々の心以外に、目に見える/手に取れる「これ」といった財産は何も持たずつましく生きる本作における彼の姿は、資本主義の矛盾〜マテリアリズムの汚泥への静かな、しかし力強い反抗でもある。

Big Star:Nothing Can Hurt Me(Dir:Drew DeNicola)

バイオ本、キャリアを俯瞰するボックス「Keep An Eye On The Sky」リリースといった回顧作業が00年代も続いてきたビッグなカルト:ビッグ•スターは、ドキュメンタリーの格好の題材だろう。その意味で待望の一作だが、同時に好きなバンドがどう描かれるのか?と不安でいっぱいでもあった――んだけど、制作サイドや関係者の愛情が伝わる細やかな作りに涙ぐむ出来でした〜〜。
ビッグ•スターの物語は、何度も語られてきたのでここでは繰り返さない。敢えて言えば、希望と熱意と挫折、狂気と死とに縁取られた悲劇が本編で、再発見&再評価の続編がコーダを刻む。しかし文字や写真でなじんできたはずの物語が映像で語られる、その興奮は素直に大きかった。もっとも前出のロドリゲス作品と同様、この映画も当時の記録映像の不足は感じる。ライヴ映像他の「動くビッグ•スター」を期待する向きにはやや物足りないかもしれないが、アーデント•スタジオが全面的に協力しているだけあって未公開写真、当時の記事の切り抜き、インタヴュー音源といった資料は豊富。それらを活かし、アニメ等で過去が肉付けされていく。
ビッグ•スター好きは著名ミュージシャンにも多いので、インタヴューに応えたい=ビッグ•スター愛を語りたいという人間はいくらでもいただろう。しかし本作はメンバーはもちろん――アレックス•チルトンはやはり登場しないが――実際にバンドに触れた人物に的を絞っており、アーデントの創設者ジョン•フライを始めとするレーベル•スタッフ、ジム•ディッキンソンらキー•パーソンはほぼ網羅。中でも嬉しいのはウィリアム•エグルストンで、彼が1974年に撮影したメンフィス•アンダーグラウンドのクレイジーぶり(ウォーホルのファクトリーすら思わせる)を描いた映画:「Stranded In Canton」映像も一部使用されている。ビッグ•スターと彼の写真は切っても切れない関係にあるが、映画全体のカラーリングやトーンもエグルストン調に整えてあるのは監督の愛情を感じるし、同時にエキセントリックな才能の数々を引き寄せた70年代初期メンフィスという土地の不思議さにも思いが至る。この映画を観て、メンフィスを訪れたいと思わない人間はいないだろう。
ビッグ•スターが解散した後のアレックスとクリス•ベルの足取りもフォローされているが(クリスの遺族が今も悲しみを引きずっている姿に涙&クランプスやタヴ•ファルコらと絡んでいた「パンク」期アレックスは素敵)、リプレイスメンツ、REMらも含むファン達の中でビッグ•スターと彼らが残した3枚は神格化していった。1993年にはまさかの再結成、テレビ•ドラマへの楽曲起用、新作リリース、不定期にツアーも行われ……と、「Forgotten Band」とも称されるビッグ•スターの物語は一応の「めでたしめでたし」を迎えたと言える。しかし、この映画の完成を待たずにジム•ディッキンソン(2009年)、アレックス•チルトンとアンディ•ハメル(共に2010年)が世を去ったことでほんとにほんとの終止符が打たれたのは、切なくもどこかビッグ•スターらしいエピローグとも思う。ファンがもっとも知りたい「Sister Lovers」制作背景はもっと突っ込んでほしかったし、リサ•アルドリッジの不参加は残念ではある。しかし本作を通じてこのバンドの物語に触れる人が増えたら嬉しいし、何より素晴らしい音質で大スクリーンから溢れ出すビッグ•スターの音楽には、今もそしてこれからも、エヴァーグリーンに光り続ける響きがある。
本作はたぶん今年本格公開だが、昨年10月のロンドン映画祭でのワールド•プレミアで一足先に観れたのは幸い(でも、また観たいのでDVD買います)。ゲストとして登場したジョン•フライに熱い喝采が注がれ、ビッグ•スター•マニアが多いイギリスらしく大盛況だったが、予約したチケットをボックス•オフィスで受け取るべく行列に並んでいた時、自分の後ろに立っていたのがジョー•ボイド様だったのはびっくり。

The Rolling Stones:Charlie Is My Darling-Ireland 1965(Dir:Peter Whitehead)

デビュー50周年ということで、再び動き始めたストーンズという名の巨大な歯車。その記念イヤーを記す最新のドキュメンタリーとしては「Crossfire Hurricane」が話題だったが(実は観てません)、こちらはこれまで正式にリリースされたことのなかったという1965年撮影のドキュメンタリー。60年代ロンドンのサイケデリック•シーン〜アンダーグラウンド•カルチャーの混沌を映したシネマ•ヴェリテ「Tonite Lets All Make LOVE in London」でおなじみ、ピーター•ホワイトヘッドが監督です。
いわゆる「Fly on the wall」型作品で、アイルランド•ツアーに張り付いてホテルや楽屋、移動中のメンバー(と同じくらいアンドリュー•オールダムも顔を出すが)のプライヴェートな表情を中心に、ライヴのとんでもない喧騒ぶりとファン達の熱狂が挟み込まれていく。モノクロ画面の雰囲気もいいし、「現象」を間近で体験する興奮に飲み込まれたかのごとく(?)ラフな撮影や編集も、逆に今っぽい。タイミングとしては「Satisfaction」が大ヒットした頃で、ブルース•バンドからロック•スターへとストーンズが変化し、メンバー間の関係も微妙に変わりつつあるのが伺えるのも興味深い。

Mariko Sakamoto について

Hi.My name is Mariko.Welcome to my blog,thanks for reading.坂本麻里子と言います。ブログを読んでくれてありがとう。
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My Favourites–2012 edition への2件のフィードバック

  1. 酒井 洋 より:

    坂本麻里子さま。始めてのコメです。今年も頑張ってください。ヨラテンゴの新譜はどうしようかと思ったものの、購入しませんでした。代わりにバンドオブホーセズ買いました。

    • Mariko Sakamoto より:

      酒井 洋さま:コメントありがとうございました。バンド•オブ•ホーセズ、まだ聴いてないのでチェックしなくちゃですね…ともあれお元気で。

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