All Tomorrow’s Parties:curated by The National(7-9Dec/2012)@Camber Sands

カモメさんもご一緒に。メイン入り口の図

カモメさんもご一緒に。メイン入り口の図

前ポストに引き続き〜というわけで、昨年12月:シェラック回の一週間後に開催となったThe Nationalの仕切り人としては初!のATPレポです。出演者の顔ぶれや内容はもちろんのことキュレーター目当てのメインなオーディエンス層(コンサバな中年客が多かった〜)もまったく色合いの異なる、とても面白く刺激的な体験だった。

瞬く間に再びキャンバーに戻ることになったわけだが、シェラック回の時とシャレー•メイトの顔ぶれもほぼ同じな上に前回の教訓を随所で活かしたので移動/チェックイン他の行程はスムーズ。今回のオープニングを飾った(アーケード•ファイアのメンバーとしてもおなじみ)Richard Reed Parryのスペシャル•パフォーマンス「Drones/Revelations」にも間に合いました! 

RRパリーが織りなす自転車の群れ

RRパリーが織りなす自転車の群れ

メイン•ステージのフロアを使ってのこのパフォーマンスは、12台ほどの自転車とビデオ•アートをフィーチャーした野心的なマルチ•メディア•ショウだった。自転車の後部座席にはそれぞれスピーカーが据えられており、ミキシング卓を中心にぐるぐる周回し続けるサイクリスト達を観客が取り囲む。赤い照明が照らす中、車輪やスポークにあしらわれたライトがフラッシュしつつ次々に目の前を過る光景はそれだけでも幻想的でクラフトワークを思わせるヴィジュアル•アピールもたっぷりだったが、何より面白かったのが自転車と共に音が動き、重なり、離れていく様。簡単に言えば、踏切の前で列車が通過するのを待つ際に騒音が近づき/目の前を横切り/そして騒音が進行方向に向かって消えて行く、あの体験がもっと短いインターバルで続くようなもの――といちいち書いて説明するより、観ていただくのが早いでしょう:ビデオっす。

複数のレコーディング音源を再生し合奏するという意味ではフレイミング•リップスの「Boombox Experiment」も若干だぶるが、音源=スピーカーそのものが移動するこのパフォーマンスは同様のアイデアをサラウンドにアップグレードしたものと言えるだろうか。同行知人は「各スピーカーから違う音が出てる」と言い張っていたが、自分はたぶんどのスピーカーも同じひとつの抽象的なコンポジションを同タイミングで流していたと思う。が、もしかしたらリモコンあるいはWiFiで細かく各自転車の出音をライヴ•ミックスしているかも?と感じるくらい、緻密であると同時にローファイ(何せ自転車ですし。サイクリスト達はほぼノンストップで40分間ペダルをこぎ続けてました:お疲れ!)、知的かつエモーショナルなサウンド•パフォーマンスだった。セレモニーめいた演出や雰囲気も含め、フェスのオープニングにふさわしい素晴らしい内容にやんやの喝采が浴びせられた。
ちなみにリチャードは週末3日間を通じ趣向の異なる3パフォーマンスを繰り広げる皆勤賞アクト(ザ•ナショナルのライヴにも参加)だったが、ニコ•ムーリーやクロノス•クァルテットらも2回登場。そのぶん延べの出演者数は少なくなるのかもしれないが、コラボの面白さやアーティストとしての彼らの柔軟性/振れ幅を考えれば複数登板は大いにありだな、と納得させられました。

鮮やかな開幕にすっかり気分が上がったところで、Nico Muhly+Guests。ジュリアード学士のこの人は現代音楽のコンポーザーとして、またポップ/ロック勢のオケ•アレンジでも知られているだろう。ATP登板はこれで2回目だが、前回のサム•アミドン他を迎えた歌付きフォーク•コラボとは異なりこのショウはラップトップ/ヴァイオリン/ピアノのアンサンブル。繊細な編成ながらヴァイオリンの泣きが前面に出ていて、サン•サーンスあたりを思わせる情感たっぷりのメロディをしばし堪能しました。にしてもニコはいつ見てもファッション•センスがちょいエキセントリックな人で(あそこまで派手じゃないけど、ルーファス•ウェインライトのセンスに一脈通じる)、ハーレム•パンツに大きめのコート姿はペンギンみたいだった。

Hayden and his band

Hayden and his band

お次は個人的にとても楽しみにしていたアクトのひとつ=Hayden。90年代に登場したカナダ人カルトSSWで、ルー•バーロウを思わせる宅録センシビリティとローファイ•ロックの独特なブレンドがなんとも好き……なんだけど、ここしばらくツアーやメディア露出が地味だったのでここで観れるのは嬉しい限り(ありがとうザ•ナショナル!)。

ソロかと思いきやバンド編成で、ヘイデンのやや粘っこくコブシのある歌声+ぐいっぐいっと引っ張っていくギター•プレイがもたらす重みをリズム隊が引っ張り上げる形になっていたのはいいバランスだった。レナード•コーエンばりにRAWでアコースティックな陰りもいいのだけれど、バンド•マンとしての鼓動と楽曲にあるグルーヴ感がちゃんと伝わるこういう演奏は彼の本領だろう。正直なところ集客は寂しかったが――よく感じることだけど、イギリスではグランジ以降のメジャー発90年代北米勢があまりプロモートされてなかったのかなぁ〜と勘ぐってしまうくらい彼らの認知度は低い。やはり当時はブリットポップ最優先だったんでしょうか?――「ヘイデン健在」でした。
デビュー期は(当時まったく流行ってなかった)坊主刈りがちょっとした話題になったこの人だが、実はとても男前なのを今回間近で目撃して確認。ボタン•ダウン•シャツの似合うオルタナ•ロッカーとして、サーストン•ムーア、スティーヴ•マルクマスらと肩を並べていいと思います。ちなみに新作アルバムはArts&Craftsからリリース。楽しみです。

Hauschkaの端整なピアノ独奏に続き、モダンな弦楽四重奏アンサンブルの重鎮Kronos Quartet。クラシック、前衛、ジャズ、ロック、ワールド•ミュージック……とボーダーフリーな活動ぶりで知られる彼らをフェスに引っ張って来たのはこれまたザ•ナショナルの英断だが、カフェ•タクバ曲他を含むセットはリズミカルにダンスする弦を始めとする表情豊かな演奏で素晴らしかった。メロディの基本トーンは哀感なのだが、最後の曲のフィナーレのヴァースで4者が不協和音の限界へと突き進んでいき、シガー•ロスあるいはGYBE!ばりの爆音に昇華していったのには圧倒された。管弦楽カルテット、恐るべし。

The Kronos Quartet

The Kronos Quartet

しかし爆音と言えば次に観たTim Heckerが今回のベストだった。カナダ出身のサウンド•スケープ•アーティストとして高い評価を受けているこの人を観るのは初めてだったが、アンビエント/ロック/エレクトロがトロトロに混じり合い蒸留された音はある意味一周回って根源的な響きになっていて、耳を聾するだけではなく骨から徹底的にクレンジングされるサウンドに全身金縛り。使ったことはないが、パルスでマッサージするという超音波美顔器を体内に入れたらこんな感覚を受け取るのかもしれない。
盤ではイーノとケヴィン•シールズが共演したタル•ベーラ(Bela Tarr)の映画サントラ……とでも称したい端整かつアブストラクトな世界も聞こえるのだが、この晩のパフォーマンスで何より印象的だったのは音の重さと暗さだった。こんなに黙示録的で真っ暗なサウンド、なかなかないと思います&多くの人に一度は生で味わってもらいたいところ。

熱演のKurt Vile

熱演のKurt Vile

そのままBorisの轟音に繋げるのも一興だったが、これ以上耳がジンジンするのは怖いので裏のKurt Vile&The Violatorsに移動。ギターがひとり減った編成ながら冒頭からストゥージズ型ノイズ•パンク(ジェイ•マスキスの影響か?)が炸裂したのは新鮮だった……もののすぐに彼の常態モード:70年代風ヴィンテージ•サウンドが復興する。
グラムからブルース、カントリー、パワー•ポップまで自然にブレンドしたロック•ソングライティングの腕前はますますニール•ヤング〜トム•ペティ路線に向かっている。泣きの名曲「Baby’s Arms」でシメという嬉しいセットだったが、中盤に挟まれたバンドを排してのソロ篇をもうちょっと長くやってほしかったというのも本音。以前ATPで彼を観た時も感じたんだけど、バッキングをミニマルに絞っても歌と声で充分成り立つ人だと思うのだが。

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食べ物ネタが尽きずにすみません、でも美味しかったフィッシュ&チップス

食べ物ネタが尽きずにすみません、でも美味しかったフィッシュ&チップス

翌日はライでレコ屋チェック&パブ•ランチからスタート。時節柄もありこの日は街を上げてのショッピング•デーで、駐車場も無料開放されていたのはラッキーだった。年末チャリティやクリスマス•デコレーションの屋台、子供向けの簡易遊園地なども設置されていて人通りも多く、その賑やかなノリにつられてナイスなヴィンテージ•ショップやデリ(ここで知人が買ったウェールズ産チリ入りチーズが激美味だった〜)も発見できてホクホク。しかしこの日の目標は、先週行けなくてほぞを噛んだYpres Castle Inn。その名の通り城趾に近い高台にあるパブで、料理(フィッシュ&チップスが特に優秀)はもちろんくつろげる室内の雰囲気といい地ビールの管理ぶりといいおすすめです。この時は知人のはからいで「宿舎酒」として近隣の醸造所から直接樽ビールを買い込んで全員でシェアしたのでお酒には事欠かなかったとはいえ、ここで飲んだクリスマス向けの熱燗スパイス•サイダー(Mulled Wineのサイダー版)はめちゃ美味しかった。

飲みやすいもののサイダーはアルコール分が高く、Kronos Quartet&Bryce Dessnerを観るべく会場に戻った時もまだほろ酔い気分。しかし前日に続きテンションの高い演奏に触れ、酔いも即座に吹き飛びました。セットはクロノス•クァルテットのレパートリーの幅を見せつけるような内容で、オマー•スレイマンの曲にニューヨークの現代音楽家の書き下ろし曲……といった具合にエスニック/フォーク/バロック/サントラ風等々曲ごとに色彩を変えていく様には魅了されずにいられない。
その歓喜は多くのオーディエンスに共有されていたようで、アンコールの喝采に応えジミ•ヘンドリックス「Purple Haze」のカヴァーでロック/ポップ寄りなATP客にアピールしてくれたのはなんともチャーミング。しかし4つの古典的な弦楽器から生まれるサウンド&リズムの豊かさ、下手なロック•バンドの比ではない。このパフォーマンスで個人的にもっとも釘付けにさせられたエピックな曲「WTC9/11」(スティーヴ•ライヒのコンポジション)、ビデオでどーぞ。

この日の以降の出演者はThe Antlers、Dark Dark Dark、Menomena、Suunsと、いわゆるピッチフォークな人々=良心的な今どきのUSインディ•ファンのアンテナにヒットしそうな顔ぶれが並んでいたが、自分はあまり食指が動かないので後半戦を開幕するSharon Ven Ettenまではつまみ食い程度。初日にみごとな前奏で幕を開けてくれたリチャード•リード•パリーのフォーキィなセット、This Is The Kitは侘びのある女性シンガーをフィーチャーした余韻たっぷりの音で見せ、これまた連打組:ニコ•ムーリーはゲストに男性シンガーを迎えてのセットで沈没(このシンガーの声が弱過ぎてイマイチ)といった感じでランダムに流していったのだが、全体的に穏やかでアコースティックなノリだったところにMichael Rotherがニヒルかつアッパーなクラウト•ビートを打ち鳴らしてくれたのは痛快だった。ラストはたぶんハルモニアのトラック。
と同時に前ATP:シェラック回で個人的に不満だったのはこの幅の欠如だったのだなぁ……と改めて感じた。ハードコア&アングラもいいけれど、3日間にわたるATP体験がほぼそれ一色というのはトゥーマッチだし、現在の広範なインディ•シーンの実像を反映するものではないだろう。もちろん、シェラックはそのコアさに徹してくれるからこそシェラック。が、実際にフェスを体験するオーディエンス=ユーザーの視点から言えば、ザ•ナショナルの硬軟自在できめ細かな配慮がありがたかったわけです。そういや、アーロン&ブライスのデズナー双子は会期中お客に混じってライヴを観ているところを何度も見かけたっけ(ファンのサインにもニコニコ応えていてナイスな感じでしたよ)。

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可愛過ぎ!シャロンたん

可愛過ぎ!シャロンたん

そしていよいよこの晩の自分的なハイライトの開始だ〜というわけで、序曲は若き歌姫Sharon Van Ettenから。以前のライヴが良かったので期待充分だったし、ATPの直前に行われたロンドン単独公演評も軒並み絶賛。何よりザ•ナショナルのアーロンがプロデュースした最新作「Tramp」の評価が高く注目度が尻上がりに上昇していたこともあり、ほぼフル•ハウス。キュレーター&トリのザ•ナショナルを除くと、恐らくこの週末で最高の集客率だったと思う。
しかし機材のトラブルがあったようで、開演が遅れ待たされたオーディエンスはやや苛立ち気味。アルバム•ジャケットとは異なり髪をロングに伸ばし、黒いドレスに深紅のルージュが美しいシャロンが登場し雰囲気を和らげようとジョークを飛ばすも、フロアの反応が冷たいのは観ていて痛かった。
彼女のファンも多くいただろうが、「なにかと話題のアーティストをチェックしてみるべ」という物見のフェス客も当然多く混じる状況はプレッシャーも大きいだろうし、繊細そうなこの人は大丈夫だろうか?と心配になったくらいなのだが、その不安は的中した(涙)。冒頭に影を落としたモニター他機材の不調はバンドをギクシャクさせていたし、PA音量の不足も相まって不発気味。PJハーヴェイ、ひいてはカート•コバーンばりにロックできる人なのに、発火までに時間がかかるのはこういうショウではマイナス。もともと声量やカリスマに富んだシンガーではないので、メイン•ステージでお客のアテンションを捕らえるにはちょっと厳しいのだ。本人も風邪気味で体調が悪かったらしいが、タフな状況に萎縮してしまった印象。逆に言えば彼女のパフォーマーとしての現時点での限界が見えたということだし、アップ/ダウンがあるのはそれはそれで人間っぽいということで自分は好きだ。が、メディアや音楽通の高評価が聴き手の期待をいたずらに煽ることで完璧さを求めるファン層が増え、当人のパフォーマーとしての準備/フレキシビリティが整わないうちに大会場でプレイすることになり音楽性をきっちり伝え損ねることにもなる……というのはちょっと悲しい話じゃないかと思う。

ともあれ、(これからもライヴを観るチャンスはいくらでもあるだろう)シャロン以上に自分的には必見!だった元Miracle Regionの伝説=Mark Mulcahyが既に始まっていたので慌ててセカンド•ステージに走る。だんだん増えていったものの、ショウ前半に集まったお客は50人くらい(!)しかいなくて、ごっつ寂しい限りである――けど、集客の少なさをものともせずにチアフルな演奏を畳み掛けるトリオ編成バンドの演奏はタイトかつパンチが効いていて(キーボード兼任のベーシストさんは実に芸達者でした)とにかく気持ちよしっ。

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マーク•マルケイヒーの勇姿

マーク•マルケイヒーの勇姿

飄々としたMCといい人なつこいメロディからしたたるラヴリーな滋味といい聴いてるだけで笑みが浮かばずにいられなかったし、オーディエンスの数こそ少なかったもののステージとフロアの一体感は最高だったんじゃないだろうか。マーク•マルケイヒーの歌声に宿る独特なフラジャイルさ〜哀感がペーソスの奥行きを添えていたのも泣けました。
ミラクル•リージョンはREMからも支持されたバンドだったが、たとえばヨ•ラ•テンゴ、マシュー•スウィート、ザ•シンズ、ケリー•ストルツあたりが好きな人なら確実にグッとくるカレッジ•ロック〜パワー•コンボの魅力を凝縮したライヴにノックアウトされた次第。ミラクル•リージョン、ポラリス他に続きソロ名義での活動も活発化してきて嬉しい限りだが、2009年に彼の音楽活動をサポートすべくトリビュート/ベネフィット•アルバム「Ciao My Shining Star」(トム•ヨーク、ザ•ナショナル、マイケル•スタイプ他ナイスなアクトが多数参加してます)も出ているので、ミラクル•リージョン未体験の方はここから入るのもいいかもしれません。

この晩のハイライト:オーラスに控えるは、Wild Beastsによる「Smother」全曲披露のショウ。「過去の名盤」再演は最近よくある話ではあるが、リリースからまだ1年ちょっとしか経っていないアルバムがこういう扱いを受けるのは珍しい(ATP出演だけではなく、このパフォーマンスで英数ヶ所をツアーしてもいる)。が、「Smother」は「1枚丸ごと聴きたい/浸りたい」と思わせる不思議なサムシングのある特別な作品であり、ツアーが成り立ったということ自体、その思いを共有する人々がある程度の数存在する証しでもあるだろう。以前も書いたけど、今後カルト名盤になっていくのは間違いなさそうです。
非常に端整な作品なので再演しきれるのかいな?と少々心配でもあったが、キーボード奏者を加え5人編成で挑んだ演奏は気合いもテンションも充分で、芳醇なメロディと雨を孕んだ雲を思わせる質感〜空間性の豊かさが丁寧に緻密にトレースされていたのはみごとだった。演奏集団としてこういう息の合い方が生じるのは実はレアなので、今後も見逃せないアクトとしてご注目。

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最終日の幕開けはスパニッシュ•ギターの名手Pedro Soler and Gasper Clausから。ペドロは73歳、チェロを伴奏するギャスパルはその息子というファミリー•ユニットで、哀歓にむせぶフラメンコ•ギターのエモーショナルな響きと張りつめたマスターフルな演奏にはため息が出た。セカンド•ステージの早い時間の登場だったこともあったからか、フロアに椅子が並べられたチラックスした雰囲気の中でしばしラテンの陰影を堪能しました。

Perfume Genius

Perfume Genius

この日のリチャード•リード•パリーはヴァイオリンやトロンボーンも加えたチェンバー•ミュージックがテーマの内容で、ミニマルな秋のソナタとでも呼びたい美しい世界を広げてくれた。ニコ•ムーリーもピアノ連弾でゲスト参加。楽しみにしていたPerfume Geniusは、しかし編成にドラムが加わり安定感を増したことでかつてのあやうさみたいなものが薄れていてちょっと残念。CSN&Yの「Helpless」をカヴァーする場面もあったし、意外と王道なSSWに向かっていくのかもしれない……が、そこに向かうのならヴォーカルの強化およびライヴ•サウンドのコントロール/把握が今後の課題だろう。天性のメロディの才がある人なので、音楽そのものも鍛えてください。

Stars Of The Lid

Stars Of The Lid

Owen PallettやDeerhoofも盛り上げていたようだが、自分的なハイライトはStars Of The Lid。テキサスを拠点とするデュオを軸とするドローン〜アンビエント•ユニットである彼らの、実に3年ぶりのライヴ•パフォーマンスという意味でも期待は大だったのだが、メンバー2名(ギター)がステージ両端に構え中央にゲスト=9人編成のストリングス•オーケストラ〜ビデオ•プロジェクション付きという構成で至福のサウンド•スケープを展開してくれた。
その布陣からも近年のGYBE!が連想されるわけだが、あちらがロック的ドラマツルギーを軸にしているのに対しドラムレスのSOTLは弦を折り重ねながらひたすら天上を目指していく恍惚の音楽というか。イーノ「Apollo」ばりの優雅な浮遊感でたゆたう楽曲も良かったが、奏者全開の振動がハーモニックにわななき羽虫の群れのように飛翔したフィナーレ曲はカタルシスの一言。クロノス•クァルテットと並び今ATPの個人的なベスト•パフォーマンスだった。

いよいよクロージング•アクト:トリのThe National。新作も順調に進行中という彼らだがこのATP登板は2012年唯一のUKパフォーマンスというだけあって、場内はものすごい人だかりだ。英フェスでトリを務めたこともありロンドン大会場もなんなくソールド•アウトできる人達だけに、ファンにとっても肉眼視可能な規模の会場で彼らを観れるのはラッキーということだろう。
ホーン隊を従えてのおなじみの構成に、今回はオーウェン•パレットやリチャード•リード•パリーもゲストで参加する趣向。「Boxer」「High Violet」を中心に人気•代表曲をちりばめたファンには嬉しい2時間のセットは鉄壁で、(数曲披露された新曲で盛り上がりがややしぼんだのを除けば)演奏の真摯さ&音楽への情熱&それに見合うエモーティヴな曲を書いているという意味で昨今稀な「本当にちゃんとしたバンド」の面目躍如である。

しょぼい写真ですんません、The National

しょぼい写真ですんません、The National

しかし今回興味深く観察したのが、ヴォーカルのマット•バーニンジャー。この人は時に「……もしかしたらアル中では?」と訝しんでしまうほど起伏が激しいシンガーなんだけど、この晩も不発ジョークで自爆したり微妙にバンドとずれた間が生まれる場面など、居心地の悪さが爆発。「Mr. November」での(恒例と化した感もある)フロアに飛び降りて観客の中を走り回る場面こそなかったものの、可燃性燃料のように不安定さを秘めた彼の存在はザ•ナショナルの生々しい鼓動であると同時にアキレス腱にもなるのかな、とふと感じた。
しかし男性ファンが圧倒的に優位を占めるオーディエンスは、そんなマットの体現する男の弱さ/悲しさ/脆さ/ダメさ/慚愧の念を胸いっぱいに受け止め、共感し、謳歌していたと思う――殿方は概してそういった感情の捌け口に乏しいからなのでしょうか? いわゆる「マッチョなバンド」ではないのだが、ザ•ナショナルのライヴが常に男臭いのはそのせいかもしれない。その図式に、たとえばモリッシーからマニックス、更にはオアシスに至るイギリスのアンセム型バンドのコアである「情」の共通項を感じたのは発見だった(男性客連は涙&鼻水まじりに大合唱しっぱなしで、「バンドの音が聞こえないから黙っててくれっ!」といちゃもん付けたくなったくらい)。本国アメリカでの愛され方はもうちょっとドライなのだろうけど、イギリスにおける彼らは今後、アンセム演歌の欠落を埋める存在としても需要が上がっていくのかもしれない。

最後まで見守りたいのは山々だったが、場内の暖房がマックスで立っているだけで汗ばむ状況があまりにうっとうしく、アンコールの「Terrible Love」でギヴアップし宿舎に戻り、ATPTV(こちらも映画セレクションの担当はザ•ナショナル。コーエン兄弟の他にはウッディ•アレン、タランティーノ、ポール•トーマス•アンダーソンが多かったですね)で展開中だったコーエン兄弟映画連打を観ながら眠りに就いた。
以前も書いたと思うが、このザ•ナショナルのATPキュレーター抜擢は当初若干の「役不足」感を否めなかった。生意気な物言いと思われても仕方ないが、ATP常連客の感覚で言えば彼らはカリスマ/ミステリー/ヒストリー/チャレンジ/サプライズに欠けるのだ(彼らのようないわゆる「若手」アクトも過去に起用されてきたが、それは3日間ではなく1日ごとにキュレートのパターン)。そういうリスキーさという意味では2008年のExplosions In The Skyキュレート回がつい思い浮かぶのだけど、この回が結果としては素晴らしいラインナップになった&バンドの趣味の良さにうならされたように(行けなかったので大いに後悔しました)、ザ•ナショナル回もフェスとしての総合的なバランスという意味では秀逸だった。
今年春に控える次ATPはTVOTRにディアハンター、I’ll Be Your Mirrorはグリズリー•ベアにYYYズ……といった具合に若返り計画はもりもり進行中。ヘッドラインが年々欠乏しているフェス状況においてはそういう「賭け」も必要なのだろうが、彼らのバディやファミリーや傍系だけではなく、すごい「大物」を引っ張り出してくれたら嬉しいなと思います。

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Mariko Sakamoto について

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