TV round up:Utopia(C4),Ripper Street(BBC1)

久々にテレビ話です……と言っても今回紹介するドラマはいずれも本放映された時期はずいぶん前で、既にDVD化もされている。取り上げるタイミングとしてはトホホなわけですが、英産テレビ•ドラマが日本で放映される可能性はアメリカのそれに較べると低いだろうし、どちらもプロダクションの質が英テレビにしては立派=志が高い&個性があって面白く観たドラマなので触れておこうかと。ネタバレのないように気をつけますが、前知識を持ちたくない方は以下はスルーください。

まずは、リベラルなノリが売りな民放チャンネル4が送り出した「Utopia」。ケーブル、衛星やデジタルの普及でイギリスも相当な数のチャンネルが存在するが、いわゆる全国区の地上波は今も5つしかない(うち2つはBBC)。その中でC4は唯一見る率の高い民放局とはいえ、ここしばらくリアリティ番組や低俗なノリに堕していてシカト気味だった。
批判も大きいもののBBCの存在はまだ巨大だし、ニュース/ドキュメンタリー/教養番組、オリジナル•ドラマ等意欲的なプログラムも多くなってきてやはりメインはここ、という感じ? それでも「Homeland」英放映権はC4が獲得したので久々に見たんだけど、民放はコマーシャルの存在がいちいちうざったい……と改めて実感。コマーシャルのブレイクが入るたびにミュートにして、お茶を入れに立ち上がったり、屈伸したりと無視に徹しました。

何度も見たくなるほど秀逸なコマーシャルなんて滅多にないし、B級タレントがギャーギャー商品名&口上をわめくだけの映像や分かりきった広告映像言語だけで成り立つクリシェなコマーシャルの垂れ流しなんて、今どき誰が喜ぶんだろう? むしろ逆効果では?と感じずにいられない。ネットのビデオやストリームなら少なくともコマーシャルを飛ばしたりクローズできるけど、テレビはそうはいかないわけで(それが不快で、わざわざ番組を録画してコマーシャルをスキップしながら見る人もいるらしい)。
この問題は「Utopia」を見ている間も感じたし、ドラマのメイン•スポンサーだったノキアの新製品コマーシャルが毎回しつこくブレイクで繰り返されたことで「絶対にこの携帯買わない!」と誓うことにもなった。イギリスの民放はコマーシャルの間はサウンドの音量が番組本体よりもアップするので、それが耳障りというのもあったかな。過剰広告は考えもの。
とはいえ、そもそも自分がこのドラマの存在に気づいたのは「新しいドラマがスタートします」の街頭広告を見かけたからだったわけで、矛盾してるっちゃ矛盾してるか。ただ、街頭広告のように街角のビルボードに静止した状態で、見る側が「何だ?(=見てみよう)」と好奇心をそそられるまで存在しないタイプの広告と、番組の途中でずかずか割り込んでくる広告とはちょっと違うと思う。ともあれ、ドラマの概要に話を戻しまして……。

6話から成る「Utopia」の主役は、漫画をめぐるコンスピラシー=大規模(なゆえに、一般人の目からは巧妙に隠されている)な陰謀説。このテーマ設定からして実に今風なパラノイアのドラマと言えるし、得てして「誇大妄想のたわごと」と片付けられがちなこういうニッチで異質なモチーフを看板ドラマに持ってきたC4の思い切り/30年以上前の「英テレビ界のオルタナ」的な立ち位置を挽回しようとする姿勢は評価に値する。
もっとも、「Utopia」のちょっと前にC4は「Secret State」というオリジナル•ドラマ(ガブリエル•バーンが主役だったので見ました)を放映していて、それも政界を舞台にしたパラノイアな内容だった。テクノロジーに支配された近未来社会を通じて現代を風刺する今風「Twilight Zone」と言えるチャーリー•ブルッカーの「Black Mirror」第2シリーズ(アイデアは悪くないしキャストもいいんだけど、演出•プロダクション他の質が低いので毎回「イマイチ」な後味が残るドラマなんですよね……)もオンエアされたし、局全体のノリが一時的にヤンチャに向かった結果なのかな、とも感じている。
「一時的」と書いたのは、民放は結局のところ(なんだかんだ言っても)広告主&株主の言いなりになるしかないので、若いクリエイターが何か冒険的で面白いことをやろうとしても視聴率が低迷すればスポンサーが撤退→番組制作が成り立たなくなるものなんで。

シニカルなマイ意見はさておき、「Utopia」の物語を牽引する「謎」を提供するのが「The Utopia Experiments」と題されたグラフィック•ノヴェル。作者は精神病院患者で、セラピーの一環としてこの作品を残したものの発狂して世を去った……というのが背景で、そのいわくつきの経緯はもちろんのこと「ファウスト博士のモダン版」とでも言えるフィクションにも関わらず、実際に起きた事件(狂牛病スキャンダル)を予言したとも言える内容が話題を呼び、コミック好きの間で伝説化/カルトなステイタスを維持している作品という設定だ。
グラフィック•ノヴェルに対する評価は、基本的に漫画カルチャーの裾野が狭くアーティスティックなレベルが低いイギリスでも徐々に上昇してきている――とはいえ、いまだに主流からは「オタクの領域」「子供向け」と軽んじられているフシがある。しかし知的で野心的•パワフルなコミック作品は増える一方だし、ヴィーの仮面が「Anonymous」の旗頭になったのも記憶に新しい。ここ数年マーヴェルやDCのフランチャイズ作品群が映画界でヒットしていることを考えても、こうしてコミックをメイン•モチーフに据えたドラマが(放映時間枠は非ゴールデン=夜10時以降とはいえ)登場したのは時代の変化を感じさせて興味深くもあった。コンスピラシーのモチーフ自体がそうだが、漫画のコマ割りを思わせるインパクトのある映像&色彩設計も含めドラマの随所にアラン•ムーア作品(特に「Watchmen」と「V For Vendetta」)への目配せが登場するのもファンにはたまらないはず。

その「The Utopia Experiments」に実は未発表の続編が存在し、その原稿を密かに入手したとあるコミック•マニアがファンのフォーラムを通じて同志の「Utopia」好き4人=ベッキー、イアン、グラント、ウィルソン•ウィルソンに「一緒にこのお宝をエンジョイしよう」と呼びかけ、ミーティングを企画したところからメイン•キャラとストーリーが転がっていく。
と同時に、この原稿を横取りすべく動き出した国際組織:The Networkの存在が浮上。官僚/政府機関も抱き込みメディアや情報操作もお手のものというザ•ネットワークは、この原稿入手のためなら非合法手段も厭わない冷血な影の集団。というわけで4人のでこぼこなコミック•ファン達は、原稿の向かう先々に待ち受ける不運と悲劇に巻き込まれ弄ばれ、いたぶられながら「Utopia」続編に隠された秘密&陰謀の全貌を解き明かしていくことになる。

諜報機関ばりの権力を行使しプロの殺し屋アービーを送り込んで来る「敵」に対し、まったく丸腰の民間人である4人組。彼らをサポートする存在が、個人的な因縁から原稿を追い続け、ネットワークからマークされつつも生き残ってきたスーパー•ヒロイン(ニキータと「Kill Bill」のベアトリクスが混じったようなキャラ。殺人マシーンとも言う):ジェシカ•ハイド。作品のキー•フレーズとも言える「Where is Jessica Hyde?」を筆頭に謎に包まれた彼女の生い立ちも深く絡んでくるこのメインのストーリーと共に、ネットワークが企てている「人体実験」遂行のため私生活を踏みにじられる小市民的な保健省の役人を主役にしたプロットも同時進行していく。
グラフィックな残酷描写の数々は視聴者からの批判を集めたし、カフカ的な不条理、あるいは「1984」のビッグ•ブラザーを思わせるディストピア話のバリエーションということで、パラノイアが高じた荒唐無稽なストーリーとの感は否めない。しかし裏切り•不信•連帯•秘密•トラウマ•個人の利益VS大多数の益……といったジレンマ&ひねりを次々に投じることで、矛盾やアラを指摘したくなるこちらの声は封じられる。ダークなだけではなく、シャープな台詞を筆頭にユーモアが利いているのは脚本を担当したデニス•ケリー(ロアルド•ダール原作のヒット•ミュージカル「Matilda」で有名)の腕前も大きいだろう。一転二転するプロットのエネルギーとテンポのいい編集もあいまって、1話ごとのスリル/緊張感の平均値(各ストーリー•ラインの不発件数はゼロではないけど)をほぼ保ったままシリーズのフィナーレにまで引っ張っていってくれたのは痛快だった。

作品の基盤になる脚本/筋の面白さに加え、「Utopia」は①プロダクション•デザイン②アンサンブル•キャストの2点も冴えている。①に関してもっとも大きいのは、この作品固有の絵と音を確立したところだと思う。
個性がはっきりした映像は、好き/嫌いが分かれるゆえにリスキーではある。しかし一般的な英テレビ•ドラマにつきもののフラットさやスタジオ感を避け、屋外ショットのワイドなアングル、スロー•モーション、インスタグラム風なレトロ感〜陰影のコントラスト、黄色と青をアクセントとして象徴的に使うなど、映画的なヴィジュアルは新鮮。作品のあちこちに「不思議の国のアリス」へのオマージュも見受けられるように、大人の童話=白昼の悪夢とでも言うべき雰囲気を強める結果になっていたと思う。
撮影はリヴァプール近辺を中心に行われたそうだけど、ネットワークのHQ(この部屋はほんとゴージャス!)、小麦畑、科学研究所、疫病発生で隔離されたスコットランドの小島、道路沿いのカフェ等々印象的な情景を見つけ出したこの撮影クルーのロケハンの努力には賞賛を惜しまない。

サウンドはエンド•ロールで流れるテーマ•ミュージック(Tapia de Veerというアーティストのオリジナルだそうです)がウォッチャー達の間で話題になったけど、劇中でも怪しいエレクトロなアンビエント•ノイズや不可解なサウンド•コラージュがさりげなく紛れ込まされているのはモダンなホラー映画の感性。ぎりぎりのところで「かっこつけ」に陥ることなく、テンションやスリルを増していたのは上手いなと思った。

②に関しては、若い役者とテレビ界においては比較的認知の低い個性派を揃えたのがポイントだろう。メインの4人では紅一点ベッキー役のアレクサンドラ•ローチ(「The Iron Lady」で若い頃のサッチャーを演じた女優さん)が愛らしいウェールズ訛りと現代的に気の強い、しかし複雑なキャラでムード•セッターとして機能。彼女の敷いたベースの上にスパイスを利かせるのが、はみ出し者グループの中でももっともエキセントリックかつオタクなウィルソン•ウィルソンと「恐るべき子供」を地でいく問題児グラントだ。
ウィルソン役のアディール•アクターはアジア系コメディアン/俳優で、「Four Lions」での光るチョイ役やカルトなコメディ番組の常連として親しんできたが、ストレートなドラマ出演はこれが初だったはず。しかしお笑いだけではなく意外なことに重いシーンもばっちりこなす演技力もある人で、バイ•プレイヤーを効果的に使った素晴らしい例だったと思う。

大人を食う子役はどうしても分がいい……とはいえ、地方都市の母子家庭で育った非行少年グラントの抱くストリートなタフさとまだまだお母さんが恋しい11歳の脆さの両方をニュアンス豊かに演じたオリヴァー•ウールフォードはこれまた適役。ドラマの中盤から登場する少女アリスの演技も光っていたし、そこは「Matilda」で子役の演出に長けたデニス•ケリーの手腕もあるのだろう。ともあれ、シェーン•メドウズ映画にそのまま移送されてもおかしくないグラント君でありました。

しかし、メインの4人を取り巻くキャラ達も曲者俳優を並べていて手抜きなし。ジェシカ役:フィオナ•オショーネシーが振りまくシュールな美(ティルダ•スウィントンとかもそうですが、ケルトのアンドロジナスな魅力は新鮮ですな〜)はもちろんだが、個人的にもっとも嬉しかったのは、ベン•ウィートリーのカルト•ホラー「Kill List」で主役を張った俳優ニール•マスケルの起用だった。彼は番宣ヴィジュアルのメイン•キャラとしても大きく露出していたけど、中年で肥満気味の「子供大人」な体躯と独特な台詞回しとで現代版フランケンシュタインと言える殺し屋:アービーを見事に造形。この印象が強過ぎて今後犯罪映画にタイプキャストされないことを祈るが(ホーム•ドラマやコメディもこなせる人だと思うので)、「Kill List」がらみではニールの相棒役&ベン•ウィートリー映画の半常連とも言えるマイケル•スマイリー(これまたいいコメディアン/俳優)も登場するのでお見逃しなく。
そのニール•マスケルに匹敵するくらい面白かったのがポール•ヒギンズ。スコットランド人俳優の彼は、BBCの名政治風刺コメディ劇「The Thick Of It」で絨毯爆撃な毒舌&辣腕な有力政党の広報担当官ジェイミー役でおなじみ。その彼が「Utopia」では実直でしがない小市民的役人を演じるというギャップに、彼が画面に登場するたび笑いを禁じ得なかった(でも演技は上手い)。

準主役連以外も、画面に登場する時間こそ長くないものの力のある役者が脇を締めていたのはなにげに豪華だった。その①はスティーヴン•レイ。ニール•ジョーダン映画で有名だろうが、ここしばらくテレビでもちょくちょく見かけるようになった(例:BBCの「The Shadow Line」)。その②はジェームズ•フォックス。「Performance」で知られるベテランですが、出演作「The Servant」でのダーク•ボガートを思わせる不気味な存在感をアピールしていてひねりが利いていた。両者とも話術/表情/立ち居振る舞いなどニュアンスのある演技はさすが!とうならされたし、映画とテレビの異なる役者生態系をまたぐこういう「客演」は重みを添えるものです。
とまあ色々書いたけど、「Utopia」については放映中から「で、第2シリーズは制作されるの?」とファンが騒いでいた。気の早い話と笑うこともできるが、キャラがいずれも粒ぞろいで感情移入させられた上に、ストーリーそのものもまだまだ広げる余地多数。6話というのはあまりに短いし、ドラマにハマった人々が続編を期待するのは当然の話だろう。絡まったストーリーの糸に各々それなりの(しかしかなり半端な)決着をつけたところで第1シリーズは完結したが、どうやら第2シリーズの制作が決定した模様。ハードルは高いけど、欲張って話の本筋を無意味に広げることなくクオリティを維持してもらいたいものです。

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もうひとつ取り上げるのは、BBC発の「CSI:東ロンドン」の異名もとる「Ripper Street」。このタイトルだけでピンと来た人は……きっとイギリス好きな方ですね。ハイ、Jack The Ripperこと切り裂きジャックの出没した東ロンドン:ホワイトチャペルをメインの舞台にした刑事ドラマです――と言ってもジャックは登場しないので、永遠の謎に包まれた悪名高い娼婦連続殺人事件の再現は期待しないでくださいまし。
ストーリー&時代の設定としてはヴィクトリア朝の1889年ロンドン、ジャック事件から半年後のホワイトチャペルのリーマン•ストリートにある警察H分署に行き来する犯罪と人間模様とが軸になる。メインのキャラは①切り裂きジャックがロンドン下層階級の市井心理に落とした暗い影を追う一方で、個人的な罪悪感を背負い続ける警部エドムンド•リード(マシュー•マクファディン)、②リードの腹心であるH分署きっての強者にして「忠犬」:ベネット•ドレイク(ジェローム•フリン)、③謎に包まれた腕の立つアメリカ人医師(にして銃器他の扱いも達者な)ホーマー•ジャクソン(アダム•ローゼンバーグ)の3人。いずれも男前で、かつ一筋縄ではいかない奥行きのある役柄です。

基本的には1話ごとに犯罪が発生→3人が「レッツゴー三匹」とばかりに捜査に乗り出し犯罪を究明していくというパターンで、日本で言えば町方奉行と同心/与力が活躍する時代劇に当たるかもしれない。その時代背景も含め、古くささに敬遠する人もいるだろう。「Downton Abbey」のヒット以降コスチューム•ドラマは安定した人気だし、ディケンズやジェーン•オースティンを繰り返し扱い続けるようにイギリスはノスタルジアが好きですしね。

しかし「Ripper Street」の山高帽&コルセット着用の婦人連という表層をめくると、そのテーマやモチーフは現代的だったりする。第1話からして切り裂きジャックを真似た偽装殺人&ポルノ密売網(と言っても19世紀のそれで大人しいものですが)が登場し、以後も疫病パニック、都市開発、テロリズム……と、時代こそ違え根本的には変わらない人間の悪徳や欲、富裕層の支配と搾取される貧民層といった縮図が浮かんで来る。
こういう「過去を通じての現代社会批判」は、やりすぎるとミエミエにモラリストで説教くさくもなってくる。しかしその大テーマを維持しつつ、もうひとつの隠しモチーフとして「科学発明や文化変動の連続だった19世紀」という状況の描写にも(フィクショナルではあるが)力が注がれている。電報、写真や映画、ロンドン地下鉄網の基礎、法医学、精神分析/精神病院、フェミニズムの芽生えなど、各エピソードにちりばめられる「黎明」の数々はそれらの存在が当たり前になった現代の視点から見るとなかなかチャーミング。特にホーマー•ジャクソン医師とリード警部を中心とする科学的な見地に立った捜査場面の数々は、「CSI」との比較が出て来る所以でもある。

プロット装置や基本テーマを抑えたところで、しかし観る側の感情移入を司る人間ドラマの部分を力のある役者が固めているのがこのドラマの強みだろう。主演級3人のうち、日本でも「Pride And Prejudice」他の出演作でおなじみな俳優はリード警部役:マシュー•マクファディンだけじゃないかと思う。このキャラはルックスは恰幅のいいおっさんだし、人柄も生真面目過ぎ&責任に金縛りされた仕事人でミーハーな自分はまったく触手が動かない。しかしマシュー•マクファディンの声の良さと正統な演技力には無視しようのない説得力があり、当たり役。仕事と家庭の板挟みになりつつ、ホワイトチャペルの良心を体現する存在と言える。

リード警部の懐刀であるドレイクは、元兵隊の経歴にモノを言わせる腕力派。やくざな忠僕として危険な場面では前面に立つが、情にもろくピュアな心の持ち主であることがエピソードを重ねるごとにあぶり出されて来て、個人的に第1シリーズのベストである第5話「The Weight Of One Man’s Heart」(つい泣いてしまいました。アホですね……)をみごとに引っ張ってくれた。ドレイクを演じる俳優ジェローム•フリンは、90年代に一瞬UKポップ界を風靡したロブソン&ジェロームの片割れだったりする。「X Factor」に象徴されるカラオケ•ポップ文化の走りとして笑いの種にしてきた人だが、「Game Of Thrones(ゲーム•オブ•スローンズ)」のブロン役のハマりっぷりで見直していたところにこのキャスティングで、俳優としてのルネッサンスを迎えているかも? 

メイン3者のラストは、アメリカ人のジャクソン医師。演ずるアダム•ローゼンバーグは自分にとっては初お目見えだったが、娼館に入り浸り酒にアヘンもお手の物というアンチ•ヒーローなアウトローという、ある意味いちばん美味しい役どころをヴィンセント•ギャロとジョン•ホークスの間の子のような軽みとアクとでばっちりモノにしている。彼のアメリカにおける前歴をめぐる秘密はシリーズ後半のエンジンになっていくのだけど、いくつもの罪の影を引きずったこのキャラがリード警部の信頼と導きとで「善」に向かっていく展開は――自明とはいえ――やはりナイス。また3者はそれぞれに心/体/頭を象徴していると言えるし、その三つが力を合わせることで事件が解決に向かうという面も全体のカタルシスに貢献している。

しかしメイン以外の役者も周到に組まれているのが、安っぽいTVドラマとは異なる点であり自分的には(先述の「Utopia」同様)ツボ。主役俳優3人のエモーショナルな拠りどころである女性陣の中では、ジャクソンの愛人である娼館のおかみ:ロング•スーザンを演じるマイアンナ•バーリング(スウェーデン人らしい高いほお骨がセクシー)が光る。女性の社会的地位が低く抑えられている時代背景ゆえにビジネス•ウーマンとしての手腕/知性や女傑ぶりが魅力的に映るというのは大きいだろうが、この女優さんも「Kill List」の卒業生だったりするのはくすぐられる。
「Kill List」がらみでは第2話でマイケル•スマイリー(引っ張りだこですなぁ)も好演しているし、しかもこの回は「This Is England」でおなじみのジョー•ギルガンもゲスト出演のダブル•ファン。やや戯画的な役どころだったとはいえ、民放でしか通用しなさそうな非正統派俳優であるジョー•ギルガンがBBCに登場したのはとても嬉しかった。というわけで以下に、タイアード•ポニーのPVに起用されたジョーさんの姿を。

もうひとつナイスだったのが、第5話でドレイクの元上司:マドック•フォークナー大佐を演じたのがイアン•グレンだった点。この俳優も「Game Of Thrones」のジョナー•モーモント役で近年株を上げている人で、ドレイク役のジェローム•フリンが演ずるブロンとのからみこそないものの、「GoT」好きならニヤリとせずにいられないキャスティングだろう。にしても舞台系の優雅な台詞回しが魅力でもある伝奇ファンタジー:「GoT」のジョナー役が抜けきらないのでしょうか(笑)、ここでもイアン•グレンがシェイクスピア俳優調のモノローグを滔々と繰り広げるくだりは見所だった。今後もこういった「おおっ!」と思わせるゲスト出演を仕掛けていってほしいものです。

この作品についてはITV制作ドラマ「Whitechapel」、あるいはガイ•リッチー版「Sherlock Holmes」(第1話の拳闘シーンはモロにそれでしょう)の影響も指摘されているし、時代設定が近いこともありヴィジュアルや映像〜テーマ音楽に「Deadwood」を思い起こしもする。19世紀後半のロンドンにまつわるフィクションは映画からテレビまでかなりの数制作されているわけで、オリジナリティは弱いのかもしれない。
しかし暴力やエロの描写はBBCのコスチューム•ドラマにしてはかなり大胆&現代的だし、BBCアメリカを通じて英放映からあまり間を置かずに米オン•エアされた点も含め、より普遍的なエンタメを意図して制作された「対外輸出用」ドラマという意味で新鮮だった。プロダクションやデザインにもなにげにお金がかかっているし(ダブリンに組まれたという屋外セットはよく出来てます)、既に第2シリーズの制作も決定している。「BBCの命運を賭ける」とまでは言わないけど、このドラマがどこまで世界のオーディエンスに通用するかは興味深かったりする。

長々と書きましたが――ここ最近何かにつけて目にする「これからは映画よりもテレビ」論を象徴するような2ドラマだったな、というのが結論。映画界も3Dだのメディア•ミックスで盛り返しているとはいえ、テレビ•シリーズには長くて登場人物も多い、スケールの大きいストーリーを語れるという利点がある。たとえばここしばらく劇場で観たヒット映画にしても2時間以上はザラになってきたし(「Dark Knight Rises」、「Django Unchained」他)、シリーズ化が前提の作品や続編待機中の作品も多数。1作で収まりきらないアイデアやストーリーがますます当たり前になってきているということだろう(と同時に、安全牌のヒット作にあやかるスタジオ側の弱さも感じますが)。

とはいえ、「映画の方がテレビよりもメディアとして上」という見方は昔も今も根強い。その常識をくつがえした業界リーダー的存在が昨年で開始から40年を迎えた米HBOで、視聴料を払って契約する有料チャンネルだけに、まずもってここの作品は制作費レベル/プロダクション•ヴァリューが普通のテレビとは桁違い。質の高い脚本家や監督が参加し、人気俳優にブレイクのきっかけをもたらすことにもなった「The Sopranos」、「The Wire」といったモダン•スタンダード作の影響と野心はクリエイター側にも浸透しているし、視聴者側にも「DVDボックス•セットで全シリーズ一気に制覇」という新しいヴューイング•スタイルを提供。以前当ブログで取り上げた「The Killing」、「The Bridge」といった北欧作品にしても、①本放映をエンジョイし②ボックスで見返して更に深く味わうという、HBOの切り開いた視聴者層の地平に登場した高品質テレビ•ドラマと言えるんじゃないだろうか。
「Eastenders」といった定番ソープや長寿ドラマ、シットコムを除くとイギリスのテレビ•ドラマは単発やミニ•シリーズに偏りがちだったが、今回紹介した2作の他にもここ数年では「Silk」(いい女優マキシン•ピークが主役の法廷ドラマ)、「The Hour」(ベン•ウィショーが最高だったのに……どうやらシーズン2で終了の模様:涙)、「Line Of Duty」(ジョー•デンプシーマーティン•コンプストンとヴィッキー•マクルーアの警察タッグがナイス!)、「Broadchurch」(10代目ドクターことデイヴィッド•テナントと演技派オリヴィア•コールマンが主役のミステリー)など、スター役者とプロダクション値の合わさった力作が登場している。すぐにHBOのレベルに達するのは無理な注文かもしれないが、イギリスならではの個性を放つテレビ•ルネッサンスがこれからも続くことを期待したい。

……というわけで上手い具合にHBOに繋げたところで、次のテレビ話では現在第3シリーズ絶賛放映中!ますます病みつき!!のHBOヒット作:「Game Of Thrones」(日本でも今年やっと第1シリーズが放映されたみたいですね。素晴らしい!)について触れようかと思います。

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Mariko Sakamoto について

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