Hinterland/Y Gwyll(S4C/BBC)

今回はテレビねたです:この作品、放映のタイミングが近かったこともあって前テレビ•ポスト:「The Bridge SE2」と合わせ技で紹介するつもりだった――のだけど、「The Bridge SE2」が非常に良かったために文章が長くなってしまい、これは読む側には鬱陶しいだろうな……ということで、「じゃあ、この後に控えてる面白そうな作品とまとめて〝TVラウンドアップ〟として紹介すればいいかー」と保留にしていた。

しかし。「この後に控えてる作品」=①警察の内務調査班を主役とするBBC産刑事ドラマ「Line of Duty」のシリーズ2、そして②HBOが送り出したマシュー•マコノヒー×ウッディ•ハレルソン共演の刑事ドラマ「True Detective」がどちらも面白く(とりわけ②に関しては、第1話を観ただけだけど興奮&ハマりました!めちゃ面白いっ!やばい!)、これらのシリーズ完結を待っていると更に「Hinterland」の鮮度が落ちそうなので、本ポストで単独紹介することにいたします。

<「Line of Duty」予告編。BGMはメトリック=ナイス!>

<マコノヒー、ノってるなぁ。「Wolf of Wall Street」のカメオも抜群でしたが、初のアカデミー•ノミネートを射止めた「Dallas Buyers Club」はジャレッド•レトとワン•パッケージで名演に拍手を贈ります。ちなみに、「Dallas Buyers Club」はディアハンターのブラッドフォード•コックスがチョイ役で非常にいい味を出してるので、USインディ•ロック好きはお見逃し無く>

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「Hinterland」はウェルシュ/英語のバイリンガル放送を行う公共放送チャンネルであるS4C(Sianel Pedwar Cymru/Channel Four Walesの意)産の犯罪ドラマで、ウェールズ語の原題は「Y Gwyll」(英語に訳すと「The Dusk」=夕暮れ)。自分が観たのは英語版(一部にウェールズ語も混じります:英語とはまったく違う響きがなかなか面白い)だったけど、この作品はバイリンガル局制作らしく英語/ウェールズ語版の2本を同時制作(!)したんだそうです。スタッフの苦労が忍ばれますな〜。

S4C産のウェールズ語番組は英BBCでもイングリッシュ字幕付きでオン•エアされるものの、プログラム全体に占める割合は微々たるもの。ゲール語番組も同様にマイノリティだ。字幕な上に基本的にローカル向けな内容という事情もあるのだろうか、これらの番組を普段目にする機会は少ない。ウェールズ/スコットランド/アイルランドといった「イギリスに近くも違う」土地への好奇心•興味は割と強い方だと思うけど(比較すると面白いので)、言語学習といった「目的」でもない限りは、まあ積極的に自分がこれらの番組を追いかけることもないだろう。

そんな状況で「Hinterland」がメディアの注目を集めたのは、オン•エア前に「The Killing」、「Borgen」で知られるDR(:Danmarks Radioの略/デンマーク放送協会)が放映権を獲得した、というネタが大きかったようだ。前ポストでも触れたようにスカンジ•ドラマはイギリスにおいてそれなりの「ニッチ」を築いている(とはいえ「現象」としてはピークに達したか?とも感じますが)。そんな風にリスペクトされている局が、ウェールズ産の犯罪ドラマに手を伸ばした――それってある意味、「青い鳥は目の前にいた」な話?と思う。

地元ウェールズでのプレミア放映は昨年だったそうだけど、イギリスでは今年に入ってBBCでひっそりと限定放映されたのみ。その際の「これ」といった番組プロモーションも少なく、今のところ「Hinterland」は「カルトなドラマ」という括りに押し込まれている感がある。しかし、個人的には昨年の大ヒット•ドラマ「Broadchurch」より遥かに性に合うトーン&ペースの作品であり、プロダクション値の高さも含めてなかなか新鮮な作品だった。

その「新鮮さ」の理由のひとつは、「手あかのついていない」キャストおよびロケーションの利だったと思う。有名俳優あるいはひいきな役者を観れるのは、ドラマの大きな吸引力=セールス•ポイントでもある。しかし「Hinterland」のキャストは自分にとっては初お目見えのアクターばかり(恐らくウェールズではセレブな人達なのだろうが)。なじみのない俳優がほとんど……というケースの多い、むしろ外国産ドラマを観るのに近い感覚がある。

これはUK全土的なネーム•ヴァリュー云々よりも「ウェールズ語をこなせるバイリンガルな俳優」――ウェールズ人すべてがウェールズ語を流暢に話すわけではないので――が優先されたという事情もあるんだろう。しかしそれが物足りなさに繫がらなかったのは、昔から優れた役者•演劇人の産地としても知られるウェールズの底力はもちろん、既存のスター•パワーに頼るのではなく、むしろドラマ/あるいは出演者をスターにしていく……という正攻法が本作のスピリットの根底にあるからだろう。

たとえばの話、現在BBCで放映中の「The Musketeers」(大デュマの剣劇「三銃士」の、何百回か目のドラマ化)は、大好きなピーター•キャパルディ(もちろんルシリュー役♥)と注目株トム•バーク(アトス)が出演する!というので楽しみにしていた。デュマ物は昔から好きなんですよね(「モンテ•クリスト伯」が一番好き)。しかし、第1話を観てまったくノれなかったので、以降はスルーしている次第……これはまあ、自分の中でのリチャード•レスター版のインパクトが大き過ぎるってのもあるんだろう。けども、どんなに「眺めていて楽しい」俳優が並んでいても、ドラマはやっぱり台本/演出/撮影/演技他の総合力がモノを言うメディアだってこと。

<これはこれで「コスチューム•ドラマのモダナイズ」としてファンがつくんでしょうが……映像やコスチュームの方向性は「GoT」を意識し過ぎでは?>

<リチャード•レスターの「三銃士」予告編。フェイ•ダナウェイ、オリヴァー•リード、リチャード•チェンバレン、クリストファー•リー、ジェラルディン•チャップリン、ジャン=ピエール•カッセル、マイケル•ヨーク、そしてチャールトン•へストン。こういう「英米欧オールスター•キャスト」映画はこの時期珍しくないとはいえ、彼らが寄ってたかっておバカな時代劇コメディを作ったという「軽さ」と「無駄遣いぶり」、今なかなか無い感覚で大好き>

ロケーションに関して言えば、これはなにげにここ数年の自分にとっての「魅力的なドラマ」の潜在的チェック要項になっている。「Breaking Bad」に登場するニュー•メキシコの砂漠/アルバカーキの空っぽで乾いた市街、「Game of Thrones」の欧州〜中東をまたぐ雄大なロケ&手のかかったセット、「The Bridge」がムーディに映し出すコペンハーゲン/マルモの夜景、「The Returned」を包むフレンチ•アルプスの自然と人工美とのクールな対比、等々。

都会が舞台のドラマにも優れたものはもちろんあるけれど、ごみごみしていて、かつグローバリゼーションの影響(?)でクリシェと化した個性に乏しい室内やストリート風景の登場するケースは多いし、作劇の都合上舞台が「(たとえば北米の)どこにでもありそうな街」と匿名化されていることもある。

しかし、ひとつの都市あるいは場所をクローズ•アップすることで人間ドラマだけではなく彼らの生きる社会の諸相を体感できるスケールの大きいドラマ作りは、徐々に増える傾向にあると思う。筆者にとってのこういうダイナミックなモダン•ドラマの洗礼的経験になったのが(もっと古い「Twin Peaks」を除けば)、HBOの傑作「The Wire」になると思う。あのドラマでは、ボルティモアという街がひとつのキャラクタ―として機能していた(同作のショウ•ランナーであるデイヴィッド•サイモンは、次作「Treme」でもこの志向をニュー•オーリンズを舞台に継続している)。

<「The Wire」シーズン1:第1話。このテーマ•ソングを聴くだけで、また見返したくなります>

「Hinterland」もまた、そういったモダン•ドラマのハイ•コンセプトなDNAを受け継いでいると思う。「(都市や港の)後背地/田舎/奥地」を意味する英題からしてその狙いは感じられるけど、ドラマの舞台になるのはウェールズ西部にある海辺の街:アバリストウィス(Aberystwith)。地図で見るとウェールズのほぼ中間にあたるけど、キャラ達はカーディフを「South」と称しているので感覚的には「North」なのだろう。

ちなみに:ウェールズ語というのは、都会であるカーディフやニューポートのある南部よりも以北の土地で多く使われているらしい。なのでこのドラマも、①南部から異動してきた主役刑事との会話は英語ながら、②ローカル•スタッフや民間人同士との会話だと自然にウェールズ語に転じる場面が多い。そういや、ウェールズ語を大事にしているアーティストのひとりであるグリフ•リース(SFA)も、生まれは北部スノードニアのあたりでしたね。

<グリフたんが、パタゴニアに伝わったウェールズ文化(!)を探すロード•ムーヴィーの予告編>

ともあれ。このドラマを観るまで、自分はこのアバリストウィスの存在すら知らなかった。実際は大学のある街で、ネイチャー•ウォーク他のレジャー観光も盛んらしい――が、メイン舞台のひとつである警察署が位置する中心地こそ型通りな「海辺のイギリス」風な佇まい(埠頭、沿岸を縁取るややポッシュな住宅、ビーチに隣接する歓楽街etc)ながら、そこからもうひとつの舞台(=事件の現場)になる「後背地」に一歩引けば、起伏に富んだカンブリア山地、羊以外は見当たらない丘陵地帯(馬もまだ交通手段に使われている)、強風にねじ曲がった樹々、閑散としたムードを増すだけのウィンド•ファームの風車、原生林、広大な湿原といった手つかずの景観が広がっていく。

実際にそこで暮らす人間にとっては、タフな環境だと思う。そのタフさは、何かにつけて子供だの非行少女が犯罪の犠牲になるケースの多いモダン犯罪ドラマ――グラフィックな暴力描写は、対象が子供や女性であるほど観る側にエモーショナルに訴えるものなので――においては珍しいくらい、「Hinterland」では年配者や男性が被害者になる割合の高い点にも反映されている。それくらい、子供や若者の少ない過疎地ということなのだろう。

しかしドラマを通じてのヴィジターに過ぎない自分からすれば、画面に広がるある種「非イギリス的な光景」はたとえばスコットランド高地やアイルランドの荒涼たる風土を目にした時に感じる一種神秘的な魅力をたたえている。「文明」と「基本的に痩せた/荒れた、人間の介入をはねつける自然」が隣り合わせという図式は、「Wallander」他の北欧ドラマの世界観にもちょっと近いだろうか?このドラマの撮影は冬に行われたそうで、その常に寒そうで薄曇った映像感覚も、主眼は犯罪捜査と謎解きにあるミステリ•ドラマながら――全体に「自然(土地)VS人間」の拮抗を基底音に添えていると思う。

4話(各エピソード:1時間)から成る本シリーズは、カーディフからアバリストウィス署に着任したトム•マサイアス警部(リチャード•ハリントン)を中心に、彼が出会う様々な事件とその捜査とを1話完結式で追っていく。

割と古典的なシリーズ構成ながら、マサイアスの造形はモダンな刑事ドラマのそれだ。辺鄙な海辺のキャラヴァンに隠遁者のように暮らすローナーである彼は、劇中一度として笑顔を見せない。その無愛想な偏屈ぶりと捜査へのコミット/執着ぶりに「The Killing」のサラ•ルンドがだぶるわけだけど、家族を失った悲しみが彼の人生に影を落としているらしい……という点は、何度か示唆される。

そのストイックさを観ているとマサイアス(Mathias)なるネーミング、新約聖書に登場する使途のひとり:聖マッティア(Matthias)が由来かしらん?とも感じます。勘ぐり過ぎかも……ですが、自己を罰するごとき生き方は、彼を取り巻く一種シュールな自然景観と相まって、どこか宗教的な雰囲気を本作に醸している。

そんな彼を最初のうちは「厄介なよそ者/都会人がやって来たわい」とばかりに冷ややかに観察していたものの、徐々にカリスマと推理力に納得し受け入れていく地元署勢との連携〜インタラクションもナイス。たとえば「Broadchurch」ではこのクッション=いわば「スーパー刑事」と現実とのコネクション役をオリヴィア•コールマンが1人で担当していたわけだけど、「Hinterland」では女性2名(子持ちで安定感のあるマーレッド&都会派のシアン)、男性1名(オタクで実直なロイド)という部下に当たる捜査官達が分担していて、それぞれがトム•マサイアスに「欠けた」人間的な部分をさりげなく提示する構成になっているのはより自然かつ納得がいく。

とはいえ一見平穏で自然に恵まれたカントリー•サイドが舞台にも関わらず、各話の発端となる殺人事件は毎回かなり陰惨。「夕暮れ」というタイトルだけあってグレイや薄いブルー他の中間色に抑えたクールな映像表現で中和されているものの、血の量だけでも実は結構グロくてびっくり&こんなに残酷な重大犯罪がひとつのエリアで次々と起こるものかいな〜?という現実的な疑問は確かに湧く(オフ•シーズンの冬に撮影されたから余計に暗鬱さが増したんだろうし、夏はきっと美しいエリアだとは思う……けど、アバリストウィス観光協会には痛し痒しな作品な気もします:笑)。

しかし、エピソードのいくつかは実在する景勝地(Devil’s Bridge他)とそれにまつわる民話、宗教、第二次大戦の歴史から生まれた都市伝説、伝承他も絡めてあるので、現代ドラマでありながらゴシックなトーンが終始つきまとう。刻々と変化するコスモポリタンな大都市ではなく、歴史•過去(因縁)•因習を引きずり続ける面がいまだ残るひなびた風土〜閉鎖的なコミュニティならではのストーリー•テリングと言えるし、人間の業や秘密だけではなくトポロジーそのものに備わった力/マジックに捜査側がチャレンジする構図は、フーダニット/プロシージュアルものに留まらない独特な味わいを「Hinterland」に添えている。

第4話がコンセプト重視なのが若干鼻についたものの(悪い話じゃないんだけど、「美しい死体」というアイデアがロマンチック過ぎて他から浮いた印象があった)、よくできたミニ•シリーズだと思う。主役:マサイアス警部の謎めいた過去、地元権力者達の暗部といった面白そうな「伏線」は本シリーズで敷かれているし、脇役達のストーリーもいじりがいがありそう。4エピソードという(比較的)タイトなシリーズであり、ゆえに1話1話が丁寧に――「短い映画」と言っても過言ではない――作られていた利点を維持したまま、続編が生まれれば嬉しい話だと思います。

もちろん日本での放映なんてまずもってあり得ないだろう(「売り」になる著名なキャストもゼロだし「ウェールズもの」なんてジャンルもまだ無いし、恐らくDVDでしか鑑賞できないでしょう)。しかし、何かにつけてメインストリームから「後進」扱いされがちな地方メディア(=言い換えれば非ロンドンのチャンネル)から、ソープやシットコムという妥当な安全牌ではなく、こういう風に野心のある/力のあるプロダクションが生まれたのは頼もしい。

******追伸*******

本ブログでも何度か取り上げてきたヴィクトリア朝犯罪ドラマ「Ripper Street」ですが、シリーズ2で打ち切り……の憂き目にあったものの、救いの手が差し伸べられて第3シリーズが現実化しそうです。これはBBCとネット通販の王者:アマゾンの新オン•デマンド•ヴィデオ•サーヴィスとの共同戦線だそうで、Netflixに負けじ!とばかりに彼らもオリジナル•コンテンツに触手を広げている模様。ともあれ、シリーズ更新の報にニッコリです。

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Mariko Sakamoto について

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