Beat of My Own Drum:11. Muscle Shoals

オリジナル•ドラマetcももちろんだけど、BBCの番組でなにげにありがたいのが世界各国の秀作ドキュメンタリーを紹介する「Storyville」シリーズだったりする。このシリーズをきっかけに知った興味深い作品は「The Queen of Versailles」(ヴェルサイユ宮殿を模した、アメリカ最大の個人宅を構えようとした百万長者ファミリーの栄華と衰退を追った作品)、「The House I Live In」(アメリカにおけるドラッグ撲滅政策の歴史と、その有効性に疑問を投げかけるスリリングな作品)など結構多いのでマメにチェックしているけど、またも「キた!」という感じで魅了されたのが「Muscle Shoals」。米南部アラバマ州にあるスワンプ•ランドに在する小さな田舎町:マッスル•ショールズを世界的な名前にのし上げたとも言える、ふたつのスタジオ:FAMEおよびMuscle Shoals Soundと、彼の地の音楽シーンの歴史を辿ったドキュメンタリーです。

作品の概要は、サム•フィリップスのSun、あるいはレナード&フィル•チェスのChess等々による戦後アメリカにおけるインディ/ローカル発のブルース〜ロックンロール•ブームに触発される形で、マッスル•ショールズで始まったDIYなレコード産業の成り立ちを追う……というもの。こういった起業ストーリーは他にもMotown(デトロイト)、Stax(メンフィス)等色々とあるだろうけど、ソウル〜R&Bのみならずロック好きにとってもレジェンダリーかつアイコニックな存在として、中でもマッスル•ショールズはちょっとユニークな光を放っている。

作品の主軸になるのは「マッスル•ショールズ•サウンド」の生みの親とも言える、FAMEスタジオの設立者にしてプロデューサー:リック•ホール。自らソングライターでもある彼のミュージシャンおよびシンガーへの嗅覚は、後のマッスル•ショールズ•リズム•セクションに繫がる優れたスタジオ(セッション)•ミュージシャンとパフォーマー達の発掘=ヒット•レコード〜サザン•ソウル人気への貢献に繫がっていく。リック•ホールの一徹なヴィジョンと強烈なドライヴは昔ながらの「エキセントリックな職人音楽屋」のそれだが、インタヴューで語られるパーソナルな悲劇の連続を見ているとそれらの悲劇が彼を強くしたのが分かる。

時代の変遷を追いつつ、FAMEスタジオと(故ジェリー•ウェクスラーが立役者になった)Muscle Shoals Soundスタジオとのライバル関係〜確執、そこから生まれた名作の数々が関係者の証言を元に描かれていく。中でも重点が置かれているのは公民権運動におけるネガなシンボルともなったアラバマの存在で、アラバマ州知事ジョージ•ウォレスが人種隔離を掲げるというタフな状況を背景に、しかしスタジオの中では白人と黒人が難なくブレンドしながら共に音楽を作っていた……という面には泣かされる。

ジェリー•ウェクスラーやウィルソン•ピケットといった故人の貴重なインタヴュー映像も混じるし、リック•ホールはもちろんのことロジャー•ホーキンス/ジミー•ジョンソン、スプーナー•オールダム/ダン•ペンといったスタジオ側の当事者達の証言、そして彼らとファンキィな名作を生み出した面々(パーシー•スレッジ、アリーサ•フランクリン、エッタ•ジェイムス、クラレンス•カーター、キャンディ•ステイトン他)も登場。

一方、マッスル•ショールズというエニグマに惹かれて海を渡った面々もトリビュートを捧げていて、〝南部サウンドのメッカへの巡礼〟とばかりに「Sticky Fingers」の一部をここで録ったミック&キーフも愛着たっぷりにマッスル•ショールズへの思いを語っているし、ジミー•クリフの成功を受けてトラフィック時代にマッスル•ショールズを訪れたスティーヴ•ウィンウッドの述懐もナイス。しかし、ボノが「サザン•サウンドの権威」とばかりに偉そうに何度も画面に出て来て陳腐なクリシェなコメントを吐く場面は――彼とアリシア•キーズは、本作をもう少し若いオーディエンスにも引き寄せるために配置された「客寄せパンダ」なコメンテーターなのだろうとは承知しているけど――あまりにうざったくて、早送りしたくなる。

ともあれ、米南部という「秘境」を知る意味でも、また「音楽とそれが育まれた土地」という今や消えつつあるリンクに思いを馳せる意味でも、とても面白いドキュメンタリーだった。もちろん、ヒッピーとかニューエイジ勢みたいに「この土地にはマジック/ソウルがある」とまでのたまうつもりはない。スピリチュアルな経験とは無縁な都会暮らしの人間である自分に、そのディープな大地と魂とのコネクションを云々するのは、どだい無理なのだから。

しかし、人口8千という小さな町とその近隣エリアから、優れたミュージシャンが何人も育まれ、スタジオという工房で独自の錬金術=マッスル•ショールズ•サウンドを生み出したのは間違いない。その、時代と場所とがマッチした不思議さを垣間みることのできるこの作品は、音楽好きな方にはチャンスがあったらぜひトライしてもらいたいドキュメンタリーだと思います。

というわけでちょい長くなりましたが、「Muscle Shoals」を彩る素晴らしい楽曲のクリップを。

<リック•ホールがプロデュースした、アーサー•アレキサンダーの古典……>

<……を、ストーンズがすかさずカヴァー>

<マッスル•ショールズのミュージシャンシップの高さを見抜いたジェリー•ウェクスラーが、アラバマに連れて来たのがアリーサ•フランクリン。この曲はアトランティックから放ったキャリア復帰曲になりました。チューンッ!>

<チェスの歌姫エッタ•ジェイムスもマッスル•ショールズの洗礼を受けました。これまたチューンッ!!>

<ウィルソン•ピケットによる〝Hey Jude〟のダイナマイトなカヴァー。バンド活動の挫折を経て、マッスル•ショールズでセッション•プレイヤーとして糊口をしのいでいたデュエイン•オールマン――その後オールマン•ブラザーズ•バンドを結成します――の名演はカウント:2分50秒あたりから炸裂>

<Muscle Shoalsで「Wild Horses」他をレコーディングしたストーンズ。プレイバックを聴きながら、静かに歌うキースの姿がラヴリーです。サウンドはもちろんだけど、ミックの歌唱はほんと、シカゴ•ブルースやサザン•ソウル•シンガーの作品をお手本にしてますね>

<シメは、Muscle Shoals Soundからキャリアをスタートさせた、「Sweet Home Alabama」でおなじみ:レイナード•スキナード。ニール•ヤングのロジック、そのすべてが正しかったわけではありません>

広告

Mariko Sakamoto について

Hi.My name is Mariko.Welcome to my blog,thanks for reading.坂本麻里子と言います。ブログを読んでくれてありがとう。
カテゴリー: beat of my own drum, music タグ: パーマリンク