Line of Duty:Series 2 (BBC)

<以前も本ブログで使ったトレイラー映像ですが、これしか見つからなかった…>

目下の最新篇であるシリーズ2放映終了からちょっと時間が経ってしまいましたが、今回はBBC発の人気テレビ•ドラマ:「Line of Duty」についてのポストをお送りします。

……と書きつつ我ながら意外なのが、「LoD」を〝人気ドラマ〟と形容している事実だったりする。この作品のシリーズ1放映は約2年前のことで、キャスティングが良い上に原案•脚本家/ショウランナーであるジェッド•マーキュリオへの評価も高く、警察内部の不祥事や腐敗を捜査•摘発する部署:ACー12(Anti Corruption=「対汚職」を目的とする内部捜査ユニット)を描くというユニークな設定にも興味を惹かれ、フォローしていた。

特にキャストは、スコットランド出身:インディ系映画を中心に少年系のフレッシュさでユニークな存在感を醸し続けるマーティン•コンプストン、「This Is England」のロル役で強い印象を残す演技派ヴィッキー•マクルーア(彼女にとっては初のBBC登板)のふたりを中心に、彼らの上司としてアイルランド出身のベテラン:エイドリアン•ダンバーらも共演……と、「テレビの人気常連アクター」枠から外れた硬派なセレクションはそれだけでも意欲的。興味をそそられずにいられなかった。

とはいえ期待と共に観たものの、①エピソード数の少なさゆえに生じるフラストレーション(序盤から複雑に入り組むプロットや謎につり込まれるものの、ラスト2話くらいから結末に向かって慌ただしく筋にカタがつけられる……という運びで満足感に欠ける)、②もう一方の「主役」(捜査される側)である警部(名優レニー•ジェームスが好演)のキャラ造型の薄さ、彼絡みのプロットと筋書きに「荒唐無稽」とすら映る無理が見受けられ、リアリティを重視する全体のトーンに対し説得力に欠ける③現代イギリス警察の抱える様々な問題や苦悩をワン•シリーズ内に盛り込もうとする「欲張りさ」他のポイントが気になり、最終的には「プロダクションは大いに買うものの、ストーリーは散漫」という印象を受けた。

それはまあ、これがシリーズ•プレミアであり、次作への続投が決定するか否か?は放映後の成績•評価次第という背景もあったのだろう。キャラクター達を観る側の頭に刷り込みつつ、しかし一方で「ワン•シリーズで打ち切り」の結果になったら「単発ドラマ」としても受け入れられる幅を持たせなくちゃいけないわけで、その曖昧さはスリリングな作劇&演技の質の高さとの生み出すダイナミズムと、「せっかくのこの機会に、これだけはオーディエンスに伝えないと」とでも言うべき作者の本音/メッセージとの間に生じる、妙なギャップ〜消化不良感に繫がっていた気がする。

<シリーズ1の予告編>

そんなわけで、個人的にはやや尻すぼみに終わった観があって残念だった「LoD」SE1であり、かつ内部汚職というシリアス&地味なテーマ(もちろん犯罪に上も下もないけど、ドラマという意味では「連続殺人鬼」とか「ドラッグ王の仕切る犯罪組織」、「ギャング抗争」といった、ミステリやドンパチ主軸な方が社会派な視点よりも一般的には人気があるだろう)とリアリティ重視な法手続きetcが多い硬めな描写のせいか、メディアでもそんなに話題にならなかった。……と思っていたものの―—たとえば、ドラマとしては「LoD」より遥かに自分内評価の低い「Broadchurch」が放映当時軽い現象と化したのに較べると、温度は低かった気がする―—実際は視聴率良好だったらしく、シリーズ2がこうして登場することになった次第。

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今回のポストのメインになるのはSE2ながら、まずは軽く「Line of Duty」の主なキャラや背景設定を紹介しておきます(ネタバレは回避!で進めます)。

ドラマの舞台になるのは、イギリスの(ロンドンではない)どこにでもありそうな地方都市。その意図した匿名性ゆえに、ゴージャスなロケーション撮影を軸とする「風土性」の魅力には欠ける。しかし作品の8割を占める主眼は室内劇とキャラの心理的な葛藤〜インタラクションであり、その意味では古典的な人間ドラマのバリエーションになるだろう。

そのドラマを引っ張るのが、警察内に属する警察不祥事や内部汚職を捜査する特別セクション:ACー12。昔気質なテッド•ヘイスティングス警視(エイドリアン•ダンバー)をリーダーとするこのチームは、賄賂•買収他に応じることのないキャリアの浅い若い捜査官――権力を持てば持つほどその人間のモラルは下がるもの、という基本コードなのだろう――2名を擁する。

パートナーを組むことになるそのふたりは、スティーヴ•アーノット(マーティン•コンプストン)とケイト•フレミング(ヴィッキー•マクルーア)。残念ながらケイトがACー12配属になった経緯はまだちゃんと明かされていないのだが、スティーヴに関しては元は対テロリスト部隊の要員であり、テロ摘発捜査の中で起きた市民誤射事件とその隠蔽工作を内部告発した……という複雑な前歴がシリーズ1で明かされる(ちなみに、イギリスでは実際にこれに近い事件が起きて大きなスキャンダルになった)。「仲間/同胞を裏切ったバカ野郎」としてスティーヴは嫌われ者になる〜トラウマを負うことになるわけだけど、「捨てる神あれば拾う神あり」とでも言うか、ACー12という特殊な部署に求められる倫理観の高さを買われて引き抜かれ、ヘイスティングスの庇護のもとに捜査官として新たなスタートを切った、という設定だ。

<「TIE’88」で英フィルム&テレビ•アカデミー賞を受賞した際のヴィッキー♥>

<マーティン•コンプストン主演の青春ダンス映画「SoulBoy」のクリップ。70年代イギリス北部のノーザン•ソウル•ブームを背景にした作品で、「LoD」の共演者であるクレイグ•パーキンソンも顔を出しているのがミソ>

ちなみにSE2がオン•エアされた頃合いですら、マーティン•コンプストンを「ミスキャスト」と称する声はネットで見かけた。なるほど、彼の童顔が重い犯罪を扱うテーマ〜悪人の丁々発止な戦術が入り組むプロットにそぐわない……という考えもなんとなく分かる。けど、若さゆえの率直さと傲慢、ナイーヴさをうまく体現したキャスティングだと自分は思うし、彼のそうした美徳が現実の壁――手続き重視な役所仕事の迷路、組織内のヒエラルキー、年齢差別etc――にブチ当たるたび、理想はシニシズムと諦めに屈するか否か?のジレンマが生まれる。もっと世慣れした感じの俳優、あるいはタフなルックスの役者を起用することもできたかもしれないが、マーティン•コンプストンのルーキーな佇まいは、本作における希望の象徴でもある気がするのだ。

前シリーズはこの3者を配置すると共に、ACー12という(あまり表には出ない)部署の「憎まれっ子」とも言うべき存在――「警察を捜査する警察」という立場なので、同僚から敵視されるのは当然だろう――と、複雑な組織的汚職の構図および腐敗の生まれる土壌とが様々な角度から描かれる。

SE1でターゲットとなるのは「検挙率ナンバー•ワン」なエリート警部:アンソニー•ゲイツ。署内でも尊敬される人気者〜表彰歴もあるこのカリスマ•キャラは、果たして本当にスーパー優秀なだけの善玉なのか、それとも裏で不法手段を使ってキャリアを築いてきた悪徳警官なのか?という疑惑がスリルの要になっていて、市民と警察、裁く側/裁かれる側、あるいは罪人と告発者とを隔てる「The thin blue line」(細い青い線:警察の制服に使われる青い線から生まれた俗語/警官を意味することもある)が追求されていく。

かといってこのドラマが一方的な「警察バッシング/批判」に陥っていないのは、その境界線が「細い」=実はブレることもある微妙なものであることを作者側が理解しているからだろう。その理解には白/黒といった具合に単純に割り切れない複雑な人間模様や背景も含まれるし、うっかり正義から道を踏み外す温床になりかねない現実――警察官の不規則な就労時間やストレス、薄給etc――も描かれる。「追うものも、追われるものも同じく人間」ということ。

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その「玉虫色な境目」がもっともあらわになるケースのひとつとして、「警察VS警察」の図を取り上げたドラマ……というわけだが、SE2は普段あまり馴染みのないその基本設定(内部捜査の性質上、アンダーカヴァー=身分秘匿のスパイ活動も含まれるからだろう)を確立した余裕が制作側にあるからだろうか、前シリーズよりも遥かに見応えのある内容になった。

その最大の要因は、シリーズ2におけるACー12の標的となる対象〜言い換えれば「もうひとりの主役」:リンジー•デントンというキャラの磁力だろう。キーリー•ホウズ演じるこの女性刑事リンジーが当直の夜に緊急事態に巻き込まれ、その結果として警官襲撃•殺害事件が発生する……というところからシリーズは始まる。警察の沽券に関わる重大犯罪でもあり、この事件の唯一の生存者にして証言/動向に不明瞭な疑問点のあることから、無実を主張する彼女はAC−12から容疑者としてマークされていく。

前シリーズでは割と早い時点で「スーパー警部」の暗部が観る側に明かされ、アリバイ崩しや組織犯罪との影のつながりの捜査を経て、彼の維持してきた「固い表層」にヒビの入っていく過程を追う=一種の倒叙ミステリのスタイルがとられていた。対するSE2における容疑者リンジー•デントンは、キャリアや犯罪捜査とは無縁なデスク仕事がメインの生真面目&地味な中年女性で、勤務署内でも煙たがられている存在。その第一印象はさしずめ卑屈な小動物といったところで、SE1のライオンを思わせる「敵」とは対照的だ。

ところが「窮鼠猫を噛む」とばかりに、エピソードを追うごとに少しずつリンジー•デントンの侮れない素顔が明かされていく。善と悪/弱さと強さとが複雑に混じり合うこの灰色なキャラがスリリングな謎を投げかけるのはもちろん、本筋に当たる事件捜査のプロットも新事実の発見やスキャンダル、組織内の権力争いといった微妙な駆け引きを背景に、意外な方向へこれでもか、これでもかとばかりに二転三転し続ける。予断を許さない凝った作りゆえに観る側もうかうか油断できない……というわけで、最終話までオーディエンスの興味•関心を引きつけるテンションを生み出してくれた。

もちろん、深く考えると色んなところで筋のつじつまが合わなくなったり、ミステリ継続が目的な「都合が良過ぎだろ」と映る展開もゼロではない。しかしそれらがさほど鼻につかないのは、リンジー•デントンを筆頭としてメイン•キャラの内面や人間性がSE1以上に掘り下げられていて、彼らの織りなすインタラクションや心理のあやに観る側が惹き付けられるからだろう。

レギュラーのメイン•キャラ達という意味では、今シリーズではヘイスティングス/スティーヴ/ケイトの3人がそれぞれに抱える葛藤やプライヴェートでのジレンマがメイン•プロットと並行して挿入される。原則として、ACー12のメンバーには「(恐喝や汚職の罠に)つけこまれるスキのない」人格が求められる。しかし、彼らも決して聖人君子ではない――前シリーズではリーチできなかったそうした「弱さ」の描写は、3人に人間性を与えると共に、任務遂行のためには様々な犠牲を払わざるを得ないタフな状況もクローズ•アップする。より立体的に肉付けされたことで彼らに感情移入しやすくなったと言えるし、エイドリアン•ダンバー/マーティン•コンプストン/ヴィッキー•マクルーアの「疑似家族(父•弟•姉)」を思わせるケミストリーも、優れたアンサンブル•キャストとして威力を発揮し始めたと思う。

とはいえ、先述したようにSE2の勝利――SE1に乗り切れなかった身としては、汚名挽回となったこのシリーズは「勝利」と言っていい――に大きく貢献したのは、キーリー•ホウズの演技だ。彼女は「Spooks」、「Life on Mars」といったカルト番組をこなしてきたそうだが、ぶっちゃけ自分はあまり馴染みなし。かろうじて、昨年放映されたコメディ「Ambassadors」での英大使の良妻賢母役が記憶に引っかかっていたくらいだ。しかしドラマがしばし進展するまでこの記憶がクリックしなかったくらい、「LoD」での彼女は地味に化けている=「意志の強そうな/育ちのいい美人女優」としてのパブリック•イメージを打ち破っていて痛快だった。

<キーリー•ホウズの音楽仕事。地下鉄駅でチップスを食べてる美女が彼女です>

野暮ったい髪型他のイメチェン作用も無視できないとはいえ、まずびっくりさせられるのはほとんどのシーンを彼女がノー•メイクに近い「素顔」で演じている点。20代の若手ならまだしも、年輪の刻まれた生活感のあるすっぴんを晒すのは女優さんにとってはなかなか勇気のいる決断だろう。しかし表層の変身だけではなく、内面の変容もきちんとキャラに対応。抑えた演技を通じて、離婚歴あり/病身の母親を抱えた独身中年女性という設定のリンジー•デントンの心苦と、「誰にも相手にされない〝透明人間〟」「いじめられっ子」とでも言うべき存在の中に秘められたガッツとを、サイコティック/ヒステリックといったオーバーな演技に走ることなく統合してみせる。

とりわけ印象的だったのは証人/容疑者として彼女が尋問を受ける場面で、テーブルと人間だけしかない空間を満たすシャープな舌戦/心理攻防戦は、テレビでありながら舞台劇を思わせて見応えがあった。そういや「True Detective」でも尋問シーンは非常に重要な役割を果たしていたけど、脚本家にとっても役者にとっても、「密な対話」である尋問は腕の見せ所と言えるデバイスみたいですね。

タイプ•キャストを脱する思い切った変身という意味で、このキーリー•ホウズのがんばりは数年前のオリヴィア•コールマンの「Tyrannosaur」でのブレイクスルーに匹敵する力演じゃないか?と思う。ゆえに既に「BAFTAを彼女に!」との声も一部で上がっているくらい話題になったし、同情•共感の一方で同時に恐れ•疑惑を観る側に抱かせる複雑な演技は、確かに魅了されるサムシングがある。ちなみにキーリー•ホウズは「Doctor Who」新シリーズへの登板もアナウンスされていて、こちらでは悪役を演じるとか。マシュー•マコノヒーではないけれど、この人も役者としてプチ•ルネッサンスを迎えているようです。

というわけで、ストーリー/演技の双方が噛み合った手応えに満足感も大きかったシリーズ2。恐らく次シリーズも準備されることだろうけど、レギュラー陣のキャラが更に発展することを祈りつつ、観る側のイマジネーションを刺激したリンジー•デントンという「当たり役」の後だけに、「自分もぜひ!」と参加を希望する俳優が(おそらく)ドッと増えるであろうこのパワフルなドラマに、次はどんな意外なアクターが「標的」としてゲスト•スターになるのかな?と興味は尽きません。

最後に:このSE2、すべての面でSE1より格が上……だと思うのですが、主題になる事件こそ別個で違うものとはいえ、一部のキャラがSE1から引き続き出演している。ゆえに彼らの背景やSE1における過去の因縁を知っていないと理解しにくい場面/飲み込みにくいニュアンスが何度も登場するので、評判はさておき、運良く日本放映になった暁には、やはり順当にシリーズ1から観ることを(強く)お勧めします〜。

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