Breadcrumb Trail:The Story of Slint

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今年のレコード•ストア•デイ周辺リリース作品の中で、唯一「これは欲しい……(けどお金がない!)」とよだれをゴーゴー垂らすしかなくて大いに悲しかったのがスリントの「Spiderland」ボックス•セットだった。3138セットの限定版/お値段150ドルというこの作品、ボブ•ウェストンがオリジナル•テープからリマスタリングしたアルバム本体(重量ヴァイナルにプレス)を軸に、デモやアウトテイク他を含むボーナス音源群、ウィル•オールダムが撮影した未発表写真をフィーチャーした豪華ブックレット等々を収めたデラックスな内容になっている。

言うまでもなく予約注文だけで全セット完売と相成ったこの作品だが、ピッチフォークでの満点スコアを始めとする話題&ファンからの嘆願に応える形で、同ボックスのコアを要約し、お値段的にも手軽でアクセスしやすいリマスター再発盤(ヴァイナル/CD/デジタルの3フォーマットが登場)のリリースが発表されたのはありがたい限り。こちらはもう目前!6月24日に発売予定なので、気になる方はタッチ&ゴーのウェブサイトをチェックください&良心的な輸入レコ屋にて現物をご確認ください。

リマスター盤とこれまで流通してきたヴァージョンとの違いそのものも、オーディオマニアなファンには大いに気になるところだろう。が、このリイシューにまつわるトピックの中でも個人的に興味をそそられたのが、ボックスおよびフィジカルなリマスター版に同時収録されるDVD=スリントというバンドと彼らの名作セカンド「Spiderland」とを追った、映像作家ランス•バングスによるドキュメンタリー映画「Breadcrmb Trail」の存在だった。

<映画の公式予告編>

この作品は、ジェフ•マンガムがキュレートした2012年版オール•トゥモローズ•パーティーズ――映画に登場するメンバーへのインタヴュー場面の一部は、スリントの再結成ライヴが行われたATP会場内で撮影されてます――でもプレヴュー的に完成前(制作途中)にティーザーが上映(しかも監督との質疑応答付き)されていて、「こりゃ必見」と思ったもの。しかし、たぶん他に観たいバンドの出演時間が重なっていたのか、あるいは酔った挙げ句に友人達とダベっていて失念したのか……よく覚えてはいないけど、結局上映会に足を運ばずに終わったため「完成の暁には絶対観よう」と心に決めていた。そこから2年近く待たされたわけだけど、遂に作品完成!→ロンドンでの上映会はこれまた逃したものの、つい先日、ボックスを購入した友人の友人を経由してDVDのコピーをゲットできました! 観ました! 超面白かった!というわけで、今回はこの映画について取り上げたいと思います。

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「スリント? 誰? 何のこと?」という方は、恐らく本ポストのここまでわざわざ付き合って読んでくださらないだろうとは思います。ゆえに今さら説明するのは無粋だよな……とは我ながら思いますが、文章を先に進める前に一応バンドのバイオを軽くおさらい:

<スリントは1986年にケンタッキー州:ルイヴィルで結成された4人組。ハードコア•シーンから登場した彼らは、1989年にスティーヴ•アルビニ録音によるファースト「Tweez」でアルバム•デビューを果たす。メンバー•チェンジを経て1991年にセカンド「Spiderland」をタッチ&ゴーから発表するものの、その時点でバンドは既に解散していた。ゆえにツアーやアルバム•プロモーションも不可能=レコード屋のバーゲン棚で埃をかぶっったまま忘れ去られる作品にもなりかねなかったわけだが、同作への評価は口コミで広がり続け、「カルト名盤」のステイタスを確立するに至る>

その背景には、元メンバーや関係者のその後のUSインディ•シーンにおける活躍(例:パパMことデイヴィッド•パホ、ザ•フォー•カーネイションのブライアン•マクマハン。ちなみに「Spiderland」のジャケ写真を撮影したのはかのウィル•オールダムAKAパレス•ブラザーズ/ボニー•プリンス•ビリー)もあっただろう。しかし何より、90〜00年代の豊饒なインディ地下水脈となったポスト•ロック=音響派/スローコア/エモ/インスト•ロックといった後続勢(もっとも分かりやすい代表例:モグワイ)の意識(無意識)に「Spiderland」の及ぼした影響が年を経るごとにはっきりしてきたことで、スリントのアイコン化は更に進行していくことになる。

音楽的な先見性はもちろんのこと、バンドを包む謎めいた雰囲気や都市伝説ばりな逸話の数々――曲名や録音データを除くとスリーヴに記載されたインフォ/クレジットは最低限に留められており、「Spiderland」のジャケに写る4人の青年が果たしてメンバー当人達なのか?すら、ライヴを観たことのない後世の人間には不可解だった――も、彼らにまつわる神話に油を注いだ。こうしたミステリアスな存在〜活動ヒストリーの中に埋めるべき隙間があるアクト/オリジンが不明な作品というのは、根掘り葉掘り詮索できるツール=インターネットが一般化する以前に活動したアーティストには割と多い話ではある。

が、たとえばほぼ同じ時期に活動し、「Spiderland」と同じくらい強力なカルト•ステイタスを「Loveless」で達成したMBV以上にスリントが不可解なままだったのは、バンドが既に解散していたのはもちろんのこと、週刊音楽3紙が当時のロック•ファンの主な情報ソースだったイギリスの「狭さ(=情報/ハイプの浸透の速さ)」に対し、基本的にメインストリームの音楽誌は月刊ペースで、ファンジンを熱心に追わない限りローカルなシーンの情報がなかなか得にくかったアメリカの「広さ(=メディアに頼るよりも、ツアー他で各地を回ることでファン•ベースを広げるのが基本)」という、国土的な差という事情もあっただろう。

<「Spiderland」より>

「Breadcrumb Trails」は、いわばある時代にストップ•モーションなまま焼き付けられていた不思議なバンド:スリントと、彼らの生み出した(恐らく)一世一代の1枚=「Spiderland」を包んできた何枚ものヴェールを、メンバー全員への取材を筆頭に、家族•友人•レーベル関係者•プロデューサーといった「バンドをリアルタイムで間近で体験してきた/実際に会った人々」へのインタヴューを通じて丁寧にめくっていく作品と言える。

ゆえに、「僕は/私はいかにスリントの作品に衝撃を受けたか云々」なノリで御託を垂れる、現在ヒップとされる若いミュージシャンや音楽識者/クリティックの語り――「スリント愛を語らせて!」と望む人々は山ほどいたと思いますが――を引っ張ってきただけの安易な場面はゼロで、そのぶん制作に時間がかかったのはうなずける。題名になっている「パン屑の跡」は「Spiderland」1曲目のタイトルだけど、なるほど、本作を観るのはヘンゼルとグレーテル(ここではスリント)が残した曖昧な手がかりをひとつひとつ拾いながら足跡を辿っていくプロセスにも似ている。

その熱意とノン•フィクショナルなアプローチは、作り手:ランス•バングスもまた「パン屑」を拾うようにしてスリントのインナー•サークルに近づきながらこの作品の制作を進めたゆえだろう。映画の導入部に「1991年春に、僕はスリントというグループによる『スパイダーランド』というアルバムに出会った……」で始まるランス自身の体験談ナレーションが挿入されるが、当時の他のどのサウンドとも違う同作の唯一無二な個性に打たれたものの、スリーヴに記載されたクレジット(=手がかり)も僅かな上に、解散の理由を始め謎ばかり残ったのは彼も同様だった。

そのぶんオブセッションが掻き立てられたのだろう、90年代初頭には「スリントの元メンバーがプレイするらしい」との噂を聞きつけるたび、わざわざアセンズからルイヴィルまでビデオ•カメラを手に車を飛ばすほどだったという(ほとんどもう、「ネッシーが出た!」めいた話ですな)。そのパッションが、スリントはもちろんのこと彼らを生み出したルイヴィルという不思議な街とそれを取り巻くパンク•シーン、ひいては80〜90年代中西部のアメリカン•インディの空気をヴィヴィッドに観る側に想起させる、この作品へ結晶したことになる。

ちなみにランス•バングスは、ソニック•ユース、ペイヴメントを始めとするインディ/オルタナ系アクトのプロモ•ビデオやコマーシャル仕事で知られる映像作家で、「Jackass」を通じてスパイク•ジョーンズともお友達(つい最近も、彼の最新作「her」の撮影ドキュメンタリー制作を担当してました)。ちなみに彼は元スリーター•キニーのコリン•タッカーの夫でもあり、その縁からでしょうか、「Portlandia」にもカメオ出演してましたね。

<数あるランス仕事の中から、ザ•シンズ不朽の名曲「New Slang」のビデオ>

<「Portlandia」から、ランス登場スケッチのクリップ。フレッド•アーミセン演じるビーチ•ボーイズ狂な(うざったい)音楽オタク•ヒップスターによる個人スタジオ•ツアーに、淡々と付き合ってます>

作品本編は、スリントの核と言える2名=ブリット•ウォルフォード(Drs/Vo)とブライアン•マクマハン(G/Vo)の出会いからスタート。ブラウン•スクールというリベラル&アート寄りな校風で知られる州立の公立校で知り合い意気投合した両者は、1982年=11歳頃に最初のバンド:Languid and Flaccid(ランギッド&フラシッド)をスタートさせたというからすごい早熟ぶりである。そのDIY精神は当時盛んだったというルイヴィルのハードコア•パンク•シーンの影響も大きかったようで、ブラック•フラッグ他の台頭に触発されて形成されたこのローカルなシーンの立役者や当時マイナー•スレットのツアーでこの地を訪れた経験のあるイアン•マッケイらの回想コメントから、ルイヴィルの特殊性、そしてガキだったために他のバンド連中からマスコット的に愛されていたブリット&ブライアンが浮かび上がる。

と同時に、ブリットやメンバーの家族がいかに息子達のバンド活動を応援していたか、のエピソードも随所で出て来て興味深い。作品の中でインタヴューされているのはブリットの両親:ロン&シャーロット•ウォルフォードだけだが、自宅の地下室をバンドの寄り合い所〜練習所として解放し、子供達が集まって深夜まで好き勝手なノイズを鳴らすに任せていた……というのは理解がある(まあ、街路に出て酒やドラッグに手を出されるよりは、楽器を弾いていてくれる方が親としては安心だったんだろうが)。

それゆえ「子供達の練習光景」めいたホーム•ビデオも残っていて、当時の彼らの姿が本作中でもスパイス的に使われているのは実にナイス! また、「Spiderland」のスリーヴに含まれたメッセージ=「興味のある女性シンガーは以下の住所に手紙を」の宛先は彼ら両親の実際の自宅アドレスで、「いまだに世界中から手紙が届くんですよ」とお母さんが可笑しそう&不思議そうに話す姿はなんとも愛らしい(PJハーヴェイが問い合わせの手紙を送ったという噂については、ご両親もよく分からないそうです)。

ファースト•アルバム「Tweez」の曲名がいずれもメンバーの両親の名前から採られているように、スリントは才能あふれるアンファン•テリブル達のおふざけ混じりのホビーにして、ファミリー&友人から成る内輪なプロジェクトというのが起点にあったのだろう。そう考えれば、親が支援して生まれるケースも稀ではない「アウトサイダー•ミュージック」の系譜にも、案外近いものがあるバンドと言えるかもしれない。

最初のバンド•プロジェクトは立ち消えたものの、ブリット&ブライアンは続いてMaurice(モーリス)を立ち上げる。こちらはばりばりにアグレッシヴなパンク•バンドで、後にグレン•ダンジグの前座としてツアーを回ったこともあったとか(14歳の子供がヴァンに乗っかってパンク•クラブをツアーなんて、「よく親が許したもんだよねぇ」とメンバーも半ばあきれながら述懐しています)。ネッド•オールダムも参加したこのバンドのメンバーの友人のひとりだったのがデイヴィッド•パホで、彼も後にモーリスに参加することになる。

<スクィーレル•ベイト音源。ここからやがてガスター•デル•ソル〜現ソロの音に至るんだから、人間は不思議です>

ブリットはデイヴィッド•グラブスが始めたSquirrel Bait(スクィーレル•ベイト)で一時的にドラムを叩いてもいた。当時の彼らのライヴ映像が出てくるんだけど、常に「若年寄」めいた印象があるグラブスの若さにびっくりさせられます&奇妙なバンド名(=「リスをおびきよせる餌」というスラング)の笑える由来も、自分は初めて知りました。ここでのグラブスの興味深い発言のひとつに、「ハードコアは盛り上がってたけど、あまりに生真面目なんで笑いのネタにする/皮肉らずにいられなかった」というのがあるが、音楽を愛し共感しつつもそのシーンをジョークにしてしまえる一種の距離感〜奇妙なユーモアは、スリントというバンドのDNAにも流れている。

※※※※この「スリント前史」について詳しく知りたい方は、こちらのウェブサイトの記事をチェックくださいまし※※※

スクィーレル•ベイト、モーリスらの活躍は「ルイヴィル•パンクの新世代」としてファンジン他からちょっとした注目を集めたものの、基本的にデイヴィッド•グラブスのアイデアであるSBからブリットは離れていき、モーリスもじきに失速。しかしこれらの経験から、次なるプロジェクト=スリントが芽吹いていくことになる。

ウォルフォード家の地下室を根城に成長していったバンド――ライヴ•デビューの模様が語られるが、そのイベント=地元の教会で行われた集会への出演は「音が大き過ぎて、お年寄りや子供など、集まった信者達がすぐに立ち去ってしまった」という逸話が笑えます――に、やがてブライアンも加入。彼が参加した時点で、既にブリットの音楽的な指揮のもと半分近く書き上がっていたというスリントのファースト•アルバム「Tweez」がレコーディングされることになる。

このくだりで、イアン•マッケイやドリュー•ダニエル(マトモスのメンバー:ルイヴィル育ちの元パンクスな彼は、初期スリントのライヴを目撃したことがある貴重な証人)、デイヴィッド•ヤウ(ジーザス•リザード他)といったオルタナな面々が当時のスリントの面々の「ガキならでは」の悪戯ぶりや結束の固さ〜シャープなユーモアを共有した独特なメンタリティ、当時のシーンの常識からかけ離れた奇妙な存在感等々を語るあたりはとても面白い。かつ、そのエキセントリックさのエンジン部と言えるブリット•ウォルフォードがいかに不思議な人なのか、という点にも徐々に気づかされる。

そのブリットがビッグ•ブラックの大ファンだったことで、「Tweez」のレコーディングはスティーヴ•アルビニに依頼される。この時期のスリントをアルビニは「子供連中にしては、素晴らしく腕の立つミュージシャン」と評しており、特にパホのギター•テクニックとブリットのドラマーとしての体内リズムおよびサウンドへの意識をあげているのは鋭い。このアルバムの成り立ちやレコーディングの裏話、アルバム•ジャケット写真の逸話、リリースの経緯といったエピソードはファンには嬉しい発見が多いと思う。

<「Tweez」より>

しかしバンド側の求めていたサウンド(音質の粗いデモ•テープが彼らの理想だった)ではなく、より凝った作り〜様々なスタジオ要素の加わることにもなった「Tweez」に不満を抱き、アルバムのリリース後にメンバーのひとりは脱退。現在のアルビニが同作を振り返って「たぶん俺はヘマしちゃったんだろうね」と潔く認める様を観ていると、続く「Spiderland」を当時寄稿していたMelody Maker紙上で「欠点のないレコード」、「ファッキン10点満点」とレヴューした彼にとって、スリントのナチュラルで添加物ゼロの無色なサウンドがレコーディング•エンジニアとしてのひとつの理想/指標になっていった様が伝わってくるようで興味深い。

「Tweez」のレコーディング〜スリントとしての唯一の短期ツアー後、メンバーのシカゴの名門ノースウェスタン大への進学他でしばし活動は停滞する。しかし後に「Slint」として発表されることになるEPのレコーディングはこの時期行われており、週に5日のペースでリハーサルを重ねていたスリントは各メンバーの志向を吸収•反映しながら徐々に「Tweez」とは異なる「Spiderland」のサウンド•スケープ――スロー•ダウンしたテンポとヒプノティックな反復、研ぎ澄まされた一音一音にビクッとさせられるテンション高い音像――を醸成していくことになる。

「Sipderland」は、デイヴィッド•グラブス&ジョン•マッケンタイアが在籍したバストロのセカンド•アルバム「Sing The Troubled Beast」のレコーディングを手がけた縁から、最終的には(アルビニではなく)ブライアン•ポールソンによってレコーディングされる。映画としてはここらへんで上映時間の約半分を消化していて、残りは「Spiderland」収録曲の成り立ち、レコーディング時の裏話•回想、そして作品発表後の余波/解散/バンド•メンバーの後日談へと続いていく。

このあたりでも面白い逸話は山ほど登場するし、アルバムのリリースを請け負ったタッチ&ゴーの主催者:コーリー•ラスクの談話、後にNYCでブリット•ウォルフォードのルーム•メイトになったジェイムス•マーフィー(LCDサウンド•システム他)のケッサクな思い出話等、USオルタナ好きにはたまらない逸話がてんこ盛り。特に「Spiderland」レコーディング•セッションに向かう途中でブライアンが交通事故に遭い、セッション後に入院する羽目になるくだりは、後に「メンバーが精神を患って入院した」という――ややブライアン•ウィルソンめいた――噂の火種はここだったのか〜と納得もさせられる。また、解散の理由についてもメンバーそれぞれの意見が率直に述べられていて、妙なタブー/わだかまりがつきまとっていないことが分かる。

解散後の各人の動き(パレス•ブラザーズの1作目「There Is No-One What Will Take Care Of You」はスリントのメンバーがバックアップ。分派としてフォー•カーネイション、キング•コング、パパM他)も紹介されていてありがたいが、ここでももっとも驚かされるのがブリット•ウォルフォードの数奇な遍歴〜奔放さだろう。彼のNYC期の「非音楽がらみ」エピソードのひとつは個人的にはこの作品で最大に爆笑したくだりだったし、彼が初期ブリーダーズ(「Pod」および「Safari EP」期)でドラムスとヴォーカルで参加していたなんて――別名でクレジットされていたというのもあったとはいえ――自分は存じませんでした。

<ブリーダーズ「Pod」より。でもこの映像に関して言えば、ドラムを叩いてるのはブリットではないと思います>

そのブリットの現在の姿を捉えたインタヴュー場面はこの作品中に何度も出てくるけれど、眼鏡をかけたモラトリアム青年然とした佇まいからも、真っ先に浮かぶのは「ケヴィン•シールズに似てるなぁ」の思いだ。こじつけと笑われても仕方ないが、「今もカセットにアイデアを吹き込んでる」と語り、それらをレコーディングに具現化できる媒体を待っているという現代の仙人めいた雰囲気も含め、近い時期にユニークなバンドとサウンドとを生み出した「幻視者」という意味で両者にどこかしら共通点はあるのかもしれない。また、ブリットがブリーダーズに参加するきっかけを(意図せずして)作ったと言えるスティーヴ•アルビニが、ブリットとキム•ディールをどっちも「同じくらいすごい天然キャラ」と評しているのも面白い。

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長々と書きましたが:謎の多いバンドとしてどこか不可侵で奇怪ですらある存在だったスリントのバックグラウンドを解き明かすと共に、ハードコア〜ポスト•ハードコア期のルイヴィル•シーンおよびシカゴ/ミネソタ(ミネアポリス)といった米中部インディ界との(比較的知られざる)連携から、スリントが「その後」に及ぼした影響を目と耳でフォローできるのはなんともエキサイティングだ。

何より、非常によくリサーチされ分析された&重要人脈の全面的な協力による証言から成り立つドキュメンタリーながら、「あーあ、ミステリーを種明かしされちゃったな〜」というシラけた思いに陥ることがないのは嬉しい。むしろ逆に、スリントというバンドと彼らが当時の顔ぶれと時代/時間/空間の中からしか生み出し得なかった「Spiderland」というエポック•メイキングなアルバムの放つ一回性との、今も衰えない迷宮的な個性と輝きとの不思議により一層魅せられることになると思う。それは、この作品と「Spiderland」というタイムレスな名作との勝利だろう。

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Mariko Sakamoto について

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