Mike Cooper@Silver Road:25/Feb/2017

以前、スティーヴ•ガンとのコラボ•アルバム「Cantos De Lisboa」を本ブログでちょびっと触れたことのあるイギリス出身のフォーク/ラップスティール•ギター&映像作家etcのマルチな顔を持つ、文字通りの「シルヴァー•サーファー」であるマイク•クーパー。彼が最近よく聴いているネット•ラジオ局NTSのモーニング番組:チャーリー•ボーンズの「Do! You!!」(波長がマッチする番組で、Shazamでオンエア曲をチェックして勉強するのもしょっちゅうです。ナイス)に出演しておしゃべりしているのをフニフニと聴いていたところ、カフェ•オトでライヴをやるだけではなく、当方の住んでいるルイシャムでもライヴをやるよ、との情報をキャッチした。

ルイシャムには「これ」といったライヴ会場が少ないので、これはかなり意外なインフォ。なんでどこどこ?と早速チェックしてみたところ、家から歩いて20分くらいの通りにあるSilver Roadという名の会場だった。目と鼻の先にこんなイベント•スペースがあったのね!とショックを受けつつ――フェイスブックもトウィッターもやってないので、お恥ずかしい話ですが疎いんですわ――いつか体験できたらいいなと思っていたマイク•クーパーの音楽を生で、しかも徒歩圏の会場で観れるのは実に美味しい。行ってみることにしました。

会場は住宅街に接した工業エリア跡に残された古い貯水塔。高架下のポジションで鉄の柵やフェンスに囲まれていて、実に殺風景です。

シルヴァー•ロードがオープンしたのは去年の10月暮れ。過去のイベント日程を見返してみたところ音楽限定ではなくダンスやパフォーマンス•アートも開催されてきた多目的スペース兼カフェとのことで、Resonance FMやカフェ•オトとも連携しているのは実にナイスです。ところが残念なことに、この晩のパフォーマンスは仮の「お別れライヴ」だったりする(※この後で、3月にもう1回の「ほんとにこれで最後」ライヴが開催されることが決定しました)。

この会場から歩いて5分ほどの距離にあるルイシャム駅周辺は大規模な開発および宅地造成の進んでいるエリアでもあり、アーバンな環境整形とジェントリフィケーションの波に揉まれている。遺棄された建物や使われていない建物を主催者たちがDIYでイベント会場にリフォームしたこうしたケースですら、行政側から認可を得て経営を続けるのが難しくなっているのだろうな……。

こういうライヴを企画する会場は、以前本ブログでも書いたDIY Space for LondonやThe Montague Arms等、うちの近隣には指折り数えるほどしかない。「新たな東ロンドン」としてヤング人気で盛り上がってるペッカムには色々あるけど、あちらはもうちょっとダンスィ―でトレンディなクラブ•イベントなベクトルなので、ちょい違う。確かにこの会場は住宅街のどまん中にあるんだけど、集まったお客の層はアートでゴス系な古典的なヤングと中年ばっかだった。すなわち「泥酔して夜中にケンカして騒音を出す」とか「ゴミやゲロで迷惑」なんてことはまずあり得ない。アートを通じてローカル人がゆるく靭帯を形成する機会をもたらすこういう「場」を、邪魔臭いとか収益がちっぽけだからといったビッグな論で押しやってしまうのって、大局的&長期視点で見れば、このエリアの得にならないと思うんだけどね。

会場に着くと、期待していた通り:実にルーズというか、レイドバックしたノリだったのは良い感じ。メイン•ヴェニューである貯水槽=タンクに入る手前にバー/カフェ•エリアがあるんだけど、新宿の立ち飲みバーくらいの狭っこいスペースなので、うっかりそのまま通り過ぎてしまった。言い換えれば、入場料を払わずに、そのまま会場にちゃっかり居座ることも可能、という(笑)。そのバーの狭い空間に置かれたカウンターでは、マイク•クーパーが他のパフォーマーと雑談していたしね。

こぢんまりしたバー/カフェ•エリア

しかしキャパはおそらく50人+程度の会場なので、オーガナイザー側も入って来た人間の顔は覚えていたようで、ドリンクを買いにバーに向かったところ、ライヴのチャージを申し渡されたので大人しく支払いました(それでも、FBではチケット=6ポンドと謳ってたのに、実際は5ポンドで済んでしまった:ゆるい)。

しかしこの貯水槽ヴェニュー、もうすぐ使えなくなってしまうのは勿体ないな〜と感じるほど、かなりユニークな建物体験だった。これって、工事仕事とか水道局仕事をしている人には珍しくない光景なのかもしれない:けど、自分は貯水タンクの中に入ったのはこれが初めてだったので、「ふわー!」と。天井も高い、高い。随所で水漏れ(屋根にたまった雨水がしたたってきたものと思われる)もしていたし、コンクリ&鉄の建造物ゆえ暖房は効いていたけど足下はやっぱり冷たい。なのに、すっぽり「抱かれた」気持ち良さがあるというか。

会場は円形で、お客向けの椅子やカウチ、ベンチが設置してある一角を除き、「正面」に当たるステージはなし。ドラムやスピーカーの所在から、パフォーマーがそれぞれに北西とか東南といった具合にスポットを占めているのが割り出せる。

照明やテーブル•ランプでメリハリ良く照らされた独特な雰囲気と相まって、太古の洞窟人めいた感覚と、しかしタルコフスキー「Solaris」に代表されるSF的な人造性同時に浮かんでくるのは面白かった。この貯水タンクから水が抜かれたのがいつかは知らないけど、コンクリに金属を混ぜた建材で作られたひんやりした壁は、長年の水の浸透で錆びも混じり表面がデコボコとしていて麦パンのような見た目。なんか、妙にオーガニックでした。

パフォーマンスは、チェロ独演のオリヴァー•バレットから開始。やはりループを用いた演奏で、その基本アプローチを越える……とまではいかない内容だったが(むしろ、普通にチェロを響かせてくれた方が良かったかもしれない)、小さな会場なのでループ部以外はほぼ生で聴けたし、弦の美しい響きは楽しんだ。かつ、この会場はやはり音響の都合もあって――円形でコンクリ建造なので、音楽スタイルをある程度選ぶんじゃないかと思う――音楽興行というよりも基本はアート志向なのだろう、ひとつの演目の尺も15〜30分程度で、いい意味でカジュアルにパフォーマンスを体験できる仕組み。

Oli Barrett

続いて、ドリーン•カッケというドイツ人女性ヴォーカリストの登場。マイクなしの肉声パフォーマンスで、ヨーデル×随所に生ループをあしらうスタイルだった。円形の場内を歩き回りながら朗々と歌い、オーディエンスの中にも分け入っていくことで一種のサラウンド効果&パフォーマンス•アートを生み出していて面白かったし、最後は彼女の「呼びかけ」に応じてドアに現れたふたりの女性パフォーマーが静々と加わり、ア•カペラの合唱と相成った。アルプスの山中でもなんでもないシチュエーションながら、昔の人々がやっていた音や声のコミュニケーションを疑似体験するようでなかなか楽しい。

Doreen Kutzke(彼女の背後に写り込んでいるのは、たぶんクリス•コルサノだったと思う)

続いて、マイク•クーパー。彼が使う椅子の近くにたまたま座っていたのでスティール•ギターの写真などもこっそり撮らせてもらったが、脇に立てかけられたこのツアー移動用とおぼしき旅行ケースはトロピカルな花柄で、まだ冬の冷えの名残りも続くロンドンではなんだかまぶしい光景です〜。とはいえ御大は厚い上着(その下には、たぶんアロハ)に首にはスカーフとなかなかダンディで、マイケル•ハーレイの佇まいを思わせる「本場のビートでヒッピー•シック」な雰囲気だ。

ラップ•スティールの硬質な響きに乗り、しわがれた歌と声が流れ出す。指と喉が徒然に舞うような味。このままストレートにフォーク/ブルースなノリかと思いきや、歌の合間に手元の小さなテーブルの上に置かれた様々なガジェット(=ボトル•ネック、携帯の小型扇風機)に手を伸ばし、ドローン、エコー他サウンドを細かく操作することで変化をつけてもいた。「海歌」とでも呼びたい素朴なメロディということもあり、さざなみのように隆起するサウンドに耳を傾けているうち心が波打ち際に飛ばされるようだった。

Mike Cooper(暗くてすみません)

もう一組ドラムのソロ•アクトが控えていたのだが、こちらはスルーすることにして切り上げた。会場外のポータルー(簡易トイレ)で用を足している友人を待ちながら、街灯も少なく暗い通りにぼんやり浮かぶ錆びた貯水槽のシルエットをもう一度眺めてみる。その中にはひっそりと灯りがともり、椅子が供され、歌が響き、お酒が酌まれ、談笑する人々がいた。短命なゆえにこの会場はコミュニティの「ハブ」にこそなれなかったが、きっとまた、どこかにこんな寄り合いが芽吹くに違いない。

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Mariko Sakamoto について

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