The British Underground Press Of The Sixties

先だって、「イギリスの60年代アングラ雑誌展」なるミニ•エキシビションが開催されたので行ってまいりました。

ミニコミ、ファンジン、今ではブログやウェブジンがそれに当たるのでしょうが、普通の本屋さんでは扱っていないようなサブカル〜DIY雑誌には、コンセプトや意思が高くお金のかかった正統派な雑誌とはまた違うゲリラ的な魅力&面白さがある。

で、アンティークだの古物が好きな国イギリスにいると、中古レコード屋やコレクター向けのヴィンテージ本屋他で、60〜70年代のカルチャー/音楽紙をたまに見かける。昔の「NME」(オール•カラー化以前)は今眺めてもいい感じだし、まだ判型が小さくて折りたたみ式だった「Rolling Stone」なども時代が封じ込められているな、と。そうした様々な古い雑誌の中でも、音楽あるいはイギリスのアンダーグラウンド•カルチャーについて調べたり文献を読んでいるとよくぶつかる名前に「IT(International Times)」、そして「OZ」の2タイトルがあると思う。

「IT」は60年代ロンドン•カルチャーの震源地のひとつ:伝説のインディカ•ギャラリー•アンド•ブックショップを始めたバリー•マイルスらが発起人のひとりとして名を連ねたアングラ•ジンで、バリー•マイルスの友人だったポール•マッカートニーも支援者のひとりだった。後にポールの公式自伝を執筆することになったバリー•マイルスは、1967年に開催されたロンドン•ヒッピーの記念碑的イベント「The 14 Hour Technicolor Dream」の企画にも噛んでいた。いわゆるシーン媒介役/通人/生き証人&記録者という存在なんでしょうね。

気分を出しましょう!ってことで、以下にその「Technicolor Dream」の模様もちょびっと含まれているピーター•ホワイトヘッドの貴重なカルト•ドキュメンタリー映画「Tonite Let’s All Make Love In London」から、ピンク•フロイドのクリップを。

<名曲の名演奏>

「OZ」マガジンは、もともとはオーストラリア:シドニーで1963年に創刊。主格のリチャード•ネヴィルが1967年にイギリスに渡り、そこから「OZ」UK版を1973年まで刊行することになる。こちらも「IT」同様ヒッピー/ヘッズ/アングラの動向を報じる内容だったが、猥褻文書罪で摘発されたことでジンとしての悪名を高めることになった。本屋やコンビニでもポルノ雑誌が買え、ネットにハードコアな画像が氾濫している今の時代では嘘のような話だが、彼らは野放しになった戦後世代の若者たちの公序良俗デストロイぶりに恐れを抱いた権力/体制側によって見せしめになった、とも言えるだろう。ちなみにリチャード•ネヴィルは昨年世を去ったばかり。「OZ裁判」は本やドラマのネタにもなっています。

<1991年にBBCが制作したドラマ「The Trial of OZ」の一場面。証人として召喚されたジョン•ピールが答弁するシーンです>

こうした地下メディアから地上(音楽雑誌での執筆、著作出版、大手新聞、テレビ/ラジオのコメンテーター)に飛び立った人たちは、イギリスのメディアでいまだに活躍している。ゆえにひとつの培養場でもあったのだろうし、その実体には興味津々……ながら、やはりヴィンテージ雑誌というのは高くて、ヴィニール袋に包装されて中古レコ屋カウンターの背後に神棚のお守りみたいに並べられていたりすると、怖くて「あれ、いくらですか?」と値段すら確認できない(どうせ買えないのだ)。

なので、このエキシビションはとてもありがたかった。展示企画そのものは、「IT」、「OZ」、そして「Friends(後にFrendzに改名。短命に終わった「Rolling Stone」英国版というのがあったそうで、そのスタッフが始めたジン)」「Ink」といった60〜70年代の英アンダーグラウンド•メディアの表紙を集めた本の出版を記念したイベントで、こぢんまりしたギャラリーにはアングラ•プレスの歴史紹介から始まり、メインストリームなメディアでは取り上げられないネタや情報の発信源だったアングラ•プレスのアイデンティティ、「OZ」裁判にまつわる騒動、いまや古典と化したヒッピー/サイケデリックなヴィジュアルの元ネタと言えるポスターやアート•ワークの現物、歴史的な文書の数々がぎっちり展示されていた。

それらが一冊にうまく要約されている(であろう)上記にリンクを貼ったヴィジュアル•ヒストリー本は、お値段35ポンドのコーヒー•テーブル本。自分がギャラリー内を徘徊している間に、レセプションで1冊買われていたので横目で確認したところ、買った人は若い頃のデイヴ•デイヴィスとティム•ロジャーズを足して二で割ったようなイカしたバリモ(=バリバリのモッズ)ないでたちの若者だったのには、つい軽く泣いてしまった(ちなみにこの人、唯一と言っていいくらいの若人。観に来ていた人々の大半は白髪の年金族で、「過去を懐かしむ」なリアルタイマーでした)。

ともあれ:この展示でもっとも楽しかったのは、やはり「OZ」の過去号の現物を手に取ってパラパラできたところだった。冷静に考えれば当たり前の話なのだが、アングラ=ロックという図式があるだけにこの手の雑誌はレコード会社の新作アルバムの広告が多くて、「ローリング•ストーンズの新作」「ダンデライオン•レコーズの新作ラインナップ」といった宣伝文句が一面で打たれていたりするのには、「ストレンジ•デイズ」を読んでいるような気になるというか、歴史を感じて感慨深くもなる。

「IT」が割とストイックな新聞調デザインなのに対し、「OZ」は表紙はテクニカラーで中身は基本紙質が安いモノクロ、なスタイルだ。かつ、ヴィジュアル面でも遊びが多くて、漫画やイラストの占める位置が多い。これは、もしかしたら、レギュラーなアイテム配置〜編集の段取りに慣れている読み手にはうざったいスタイルなのかもしれない。けど、雑誌/メディアそのもののアイデンティティに共感している人であれば、生真面目な論考に続いて漫画やレコード評、ルポルタージュ記事と冗談クロスワードが並んでいても、気にならないのだろう。こういうランダムさというか、読み手に対する信頼が感じられる誌面づくりが許された時代というのは、いいなと思う。もちろん「IT」も「OZ」も経営はいい加減だったんだろうが、広告主の顔がチラついて仕方ない記事に乗っ取られているケースが多い今の雑誌不況時代に、こういうエゴイスティックな雑誌を作って売ることができた過去を振り返るのはなんだかほっとする。

あと、ユーモアのセンスが強いのも眺めていて印象的だった。自らをシリアスに受け止め過ぎていないというか、社会や文化の変革を促そうとしつつも、根本はディオニソス的で陽気。イラストや写真に関しては、ロバート•クラム他のヴィジュアルは今のフェミニストが観たら怒りそうだ。しかし、ヌードといっても扇情的なものではなく、むしろ「(男も女も)裸は普通=自然」というヒッピー的な感覚を受け取るものが多い。たとえばの話、ジョン&ヨーコの「Two Virgins」のジャケットを観てムラムラする人はあまりいないんじゃないかと思うが(いや、ムラムラするのもアリですけども)、ああいう一種の童心/イノセンスの奪還という思いは、ガチガチに固まった社会通念や伝統を転覆しようとするアングラ•カルチャーの基本エソス/機動力として、この時期から有効だったのかな、と思った。

こうしたアングラ•プレスのDNAはその後も流れている。この展示を観ていて思い返したのは「Grand Royal Magazine」「Arthur」、そしてイギリスの「The Stool Pigeon」あたりで、いずれもやんちゃで個性的な雑誌でしたな(でも、いずれももう廃刊してるのですが:汗)。「OZ」のお騒がせ性〜暴露ノリを今に受け継ぐ存在と言えば「Vice」が代表的だろうけれど、なんつーか、クールさとエッジーさを狙い過ぎて時に空振りしている印象が強いメディアなので、たまに面白く鋭い記事や文章も見かけるとはいえ、あまりハマれないんですよね。

パラパラめくれるのは一部の刊行物だけで、ほとんどの展示はガラス箱の中に収められていて中身まで観ることはできなかった。残念。ただ、表紙やそこに並ぶ記事タイトル、大胆なデザインの数々を眺めているだけでも、そのエネルギーに元気づけられたのは確か。洋書で高価だろうけれど、60〜70年代のイギリスが大好きという人にとっては、あまり知られていないカルチャーのドアを開ける鍵になるかもしれない本です。

<「丸くなった」と批判され始めた「OZ」が、「若者の声を反映させよう」ということでアマチュアの中高生に編集させた号に掲載された他愛ないイラストがきっかけでスキャンダル勃発。裁判沙汰になり、そのための支援コンサート、ベネフィットTシャツ販売などが展開されたそうです>

<「IT」表紙の数々。このヘッダーのデザインは素晴らしいですね>

<「OZ」の表紙はポップアートでカラフルなものが多くユーモアもたっぷり>

<こちらは「Black Dwarf」なるアングラ•ジン。シャープなデザインが素敵&時代を感じさせる表紙ですな>

<「Friends」の表紙。こういうタブロイド形式のジンって、いい意味であまり「大事」にせずに、バッグやポケットに丸めて突っ込んで好きな時に読めるノリがあって愛着があります>

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Mariko Sakamoto について

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