日々の雑感:その5(Ivor Cutler)

<<これまた1年近く前のネタです。別に出し渋っていたとかではなく、何やかやに紛れて感想をまとめ損ねていました〜>>

うちのわりかし近所にあるゴールドスミス・カレッジ。ブリジット・ライリー、アントニー・ゴームリー、デミアン・ハーストといった有名な現代芸術家やミュージシャンをたくさん輩出してきた学校ですが、2016年にキャンパスに映画館が作られたのに続き(筆者の暮らすルイシャム区にとっては15年ぶりにオープンした映画館)、昨年夏にセンター・フォー・コンテンポラリー・アート(略称CCA)なるギャラリーもオープン。無料の展示がおこなわれています。

そのオープンすぐの展示のひとつが、詩人/ミュージシャン/シンガーソングライター/画家/アフォリズムの名手……とまあ、今では「マルチ・タレント」ということになる、しかし昔はたぶん謎のパフォーマンス・アーティストと思われていたであろうエキセントリックなスコットランドの至宝:アイヴァー・カトラーの遺したアーカイヴ(手紙、絵、楽譜、ポスター、落書きetc)を中心とするプチ回顧展だった。ロック好きな方には、ビートルズの映画『マジカル・ミステリー・ツアー』のバスの車掌:バスター・ブラッドヴェッセル役としてお馴染みかもしれません。

<いよっ! ニコと並ぶハルモニウムの名手>

<BBCが制作した「偉大なるイギリスのエキセントリック人を求めて」にもちょっと登場。カウント32:07あたりで始まるアイヴォーの箇所だけ観ていただければいいんですが、この番組に登場するおっちゃんたち、25年間のキャラバン暮らしだの、移動動物園経営だの、自宅に作り上げたジオラマ鉄道模型の駅長さんとして毎日ダイヤ通りの運行にいそしむおじちゃんなど、みんな愉快な変人で楽しいですね。いい歳の取り方だ。しかし、こんな娯楽番組でも昔は映画フィルムで撮影してるし編集も巧みで、バカにできないクオリティなのにはうならされます>

会場CCAは、昔公衆浴場だった建物のボイラー設備の置かれていたスペースと洗濯室をギャラリーに改装したもの。レンガ作りの壁、かつての機材設備(スチール製の大パイプやハンドル、螺旋階段等々)も随所にそのまま活かしたインダストリアル・モダンなデザインで、しかし明かり取りもたっぷりな明るい空間。アイヴァー・カトラー展は地階の一室にて開催されていた。

CCAの内部はこんな感じ

さほど広くないスペースだったが、壁には数々の貴重な手稿・絵画他が展示され、中央には肘掛け椅子にレコード・プレイヤーと旧式なテレビを据えたラウンジもあり、ここで彼がヴァージンやラフ・トレードから発表したアルバムやテレビ出演時の映像を楽しめる仕組みだった。2006年の死去以来遺品のアーカイヴ化はまだ進行中なんだそうで、展示されたアイテムには一般には初公開のものも含まれていた。

展示の一部のラウンジ。お茶も飲めたら最高だったんだが

童心を大事にし続けた人だけに、ページの切れ端やノート他に記された詩/メモ/手紙などにもかすかによじれたシュールなユーモアが漂っていて、ナンセンス作家として知られるエドワード・リアや絵本作家ドクター・スース、詩人フィリップ・ラーキンのドライさ、もっと新しいところではデイヴィッド・シュリグリーあたりが思い浮かびます。また、ちゃんとした絵(水彩画)も数枚展示されていて、これが上手なのにはびっくり。ペン画や書き文字も綺麗だし(イギリス人は日本ほど「字の書き方」にこだわらないらしく、手書きの字がきっちゃない人は結構多いです)、言葉や発語そのもので遊ぶのはもちろん、それを目に見える形で残す際にも考えてスタイルを持たせていたのだな、と感心。

シュリグリーかと見まごうイラスト

「愛しのタリアテッレ」(他にも色んなイタリア料理が登場するナンセンスっぷりが楽しい〜)

それだけに、この展示はいわゆる「作品」ではなく、レシートの端っこやノートの片隅に残された走り書きといったものまで含むことになっていて、そのぶん「アーティスト展」としてまとめるのも難しいんだろうが、日常的に小さなアート――たとえば、紙切れとペンとで――を作り出し、時に演奏し、レコードに吹き込み、朗読し、出版していたカテゴライズ不可能な一種のアウトサイダー・アーティストであった彼と彼の生きた時代、そして彼が残したクスッと笑わずにいられないユーモアに対して、このエキセントリックでチャーミングな展示はいいオマージュになっていたと思う。

いずれ、これらの様々な堆積が、一冊の本なりにまとまって、日本でも目にすることになったらいいなぁ、と思った。ちなみに、この展示に合わせて彼の作品を一部集めたブックレットが販売されていますので、気になる方はチェックしてみてください――っていうかまずは、アルバムから挑戦してくださいまし、ですね。手始めに「Velvet Donkey」あたりから、いかがでしょう?

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Mariko Sakamoto について

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