Turning Tides Festival

先月、グリニッジ・ペニンシュラにある多目的公園(?)、ザ・タイドでおこなわれたフェスに行ってきました。なかなか楽しかったので、そのお話。

グリニッジ・ペニンシュラは、ロンドンで「ここに出ればまずは大物に認定」(=次の段階はウェンブリー・スタジアム)のアリーナ会場であるジ・O2があるエリアとして知られていると思う。ミレニアム・ドームを中心に発展・拡大していった、東京で言えばお台場とかに当たるのかなー、まあ、ああいう一種不思議な開発エリアです。大型団地、ショッピング・モールやマルチプレックス映画館、巨大スーパーマーケット、駐車場がたんまりある、でも周りは工業地帯なので人っけが少ないテムズ河畔。でも、昔月島に住んでいたことがあるので、こういう湾岸のノリは実はなごめる。

そこに生まれた多目的パーク――普段はコンクリとスチールと丁寧に植えられた樹木から成る「都会の憩いの場」で、でもイベントも開催される――がこのザ・タイドというスペースです……というのはこのフェスのプログラムの受け売りですが、たまたまネットでイベント情報にぶつかって、無料だったんで「ものは試し」と行ってみた。2週末にわたって開催されたフェスの1日しか行かなかったものの、野外ミニ・ステージ(ローカルなお祭り/フェス規模のこぢんまりしたもの)にはムラトゥ・アスタトゥケからギャズ・マックームス、エレナー・フライドバーガー、ポエトリー・リーディング的な演目でグリフ・リース、ベス・オートン、ナディーン・シャーなども出演して、なかなか志しが高いしナイス。たしか、どっかのインディ系プロモーターも企画に絡んでいたので、そのコネでこういう顔ぶれが可能だったのだろう。

マンション群の間にある憩いの場、的なスペースです

そういや、ローカルなファミリー向けの無料アート・フェスと言えば東ロンドンで年1回開催されるウォルサムストウ・ガーデン・パーティもなかなかっす。ここはバービカン・センターがブッキングに絡んでいるので音楽ステージはジャンルが多彩で、2年前に初体験した時はヒーリオセントリックスやティナリウェンが観れて超楽しかった。

ターニング・タイズ・フェスティヴァルに話を戻しまして――グリニッジ・ペニンシュラと言えばO2に行く以外はまず用がないので(と言いつつ、ここに少し前にIKEAがオープンしたので、ダラダラしに行きたいんですけどね)、このパークがどこにあるのか、いまひとつ土地勘が湧かない。とはいえ最寄の地下鉄駅:ノース・グリニッジに向かうと、標識だのマップだのポスターが親切にガイドしてくれるので難なく到着。つーか、駅から徒歩10分未満でパーク圏でした。若いバイトのガイドさんもたくさんいて、移動式ポータトイレも観客の数の割に多いし、小規模なイベントの割に金かかってるなー、と、妙なところでびっくり。最初に出くわしたのは「MUBI」が企画した映画上映屋外スペースで、ヘッドフォン着用で静かに観れる仕組みだ。坂本龍一のドキュメンタリーを上映したいたけど、座ってまったりしていると眠ってしまうかもしれないので、メイン・ステージに直行。

地元民向けのフェスと言えば、大概は「公園の一角や緑地を利用しての野外イベント」なんだけど、ここは高層高級マンションの居並ぶウォーター・フロントの一角の滅菌気味に整備されたコンクリ空間で、ハイ・ライズに見下ろされ、後ろを見るとテムズ川が灰色がかったくすんだカーキ色にどんより流れている。そばにはギャラリーやワイン・バーがあり、まだ販売中の周辺の高級マンションはコンシェルジュ付きみたい。イメージとしては、西新宿の都庁エリアに川がくっついた、という感じでしょうか。イギリス人はそこに「普通のフェスと勝手が違う」と違和感を表明してもいたけど、自分はそのギャップが逆に面白かった。

イギリスはいまだにストリート・フード=屋台メシ人気が根強く、ここでも10店くらい様々な味とアイテムを提供してました。定番な窯焼きピザやヴェジ飯、ハンドメイドなアイスクリームやオーストラリアのコーヒーはもちろんですが、牡蠣があったのは、さすが金持ちエリアですな〜。しかし酒はイマイチで、クラフト・ビールのちゃんとしたところと契約して美味しいのを飲ませてもらいたかったところ。ともあれ、今のイギリスって、昔に較べてはるかに「食い物」への欲や興味が増したなあ、とつくづく思う。

アート・フェスなので、アートも色々とあったけど、ぶっちゃけしょぼめ(笑)。野外なので彫刻とかがメインで、デミアン・ハースト、アレン・ジョーンズなどを歩きながら眺める。でも、ずっと前からあるアントニー・ゴームリー作品は、異様でありつつなぜか景観に溶け込んでもいて、いちばん安心できます。小野洋子の「Wish Tree」(お願いの樹)もあって、これはお客も参加できるアートなので子供たちがわらわらと集まって荷札に思いを書き込んで樹にくっつけていたけど、7月だったこともあり、「うーん、七夕祭りの本場を味わってもらいたいなぁ」などと、つい思ってしまった。

ハーストの「人魚」。なんか、全然「ブリット・アートの暴れん坊」っぽくないなあ

ゴームリーのスチール製の「雲」。背後の上空に見えるのは、テムズを渡れるケーブルカーです(マジに高いので、高所恐怖症の方は避けた方が無難)

小野洋子の「お願いの樹」

それでも、ステージのすぐそばにはウォーター・フロントを臨む階段/広場もあって、立っているのに疲れたら座って音楽に耳を傾けられる。子供連れ客も多かったのでのんびりしているし、ドラム学習他のワークショップもおこなわれていた。自転車でやって来るお客向けにバイク・スタンドもちゃんと置いてあって、まさに都会のフェスです。

ってな具合にふらふらと回遊(というほど広くないですが)しているうちに、メインのリヴァーサイド・ステージでAh! Kosmosが演奏開始。何の予備知識もなく観たんですが、女性DJの繰り広げるコズミック〜80年代フュージョン・テイストのサウンドはばっちり盛り上げてくれて、気持ちよかったっすー。こういう音は、胡座をかいてえんえんと聴いていられる。

ステージの規模はこの程度。でもインティメイトなぶん、気分はライヴ・ハウスっぽい

メイン・ステージは1個だけなので、転換はしばし待つ。でも、Ah! Kosomosのステージの頃から、七色のカラフルなテープを垂らしたデッキ(七夕っぽいぞ:笑)が奥に控えていて、それはやっぱりジェイムズ・ホールデンのデッキでした! 彼はアルバム「The Animal Spirits」がとても良かったのでぜひ観たかったわけですが、やー、当人はヒッピーなロン毛にアフリカ的なトーガ姿、ドラム+パーカッション+クラリネット(他のオカズ/鳴りもの担当。でもこの人の細部を埋めるセンスは素晴らしい)奏者から成るライヴ編成で、ゴシック・エレクトロかな?と予想していた以上に熱く、インプロに流動的、ラテンに、ジャズに、アフロに盛り上がってくれた。

ジェイムズ・ホールデンの、意外やサイケ/コズミック色の濃かったセット。演奏はテンション高いんだけど、MCではとても上品そうな口調だった、そのギャップがなんか可愛い

プロデューサーやDJは作品を聴くのもいいけど、こうやってライヴで観ると、また彼らの思考の別の側面も見えて、いいものです。あと、周りをマンション他で囲まれているんで爆音は出せないPA状況だったと思うけど、音響がちゃんとしていてびっくり。スピーカーを始め設備は決して大きくなかったが、コンパクトに良いサウンドを作ってくれてました。

川縁なので、風も出て来て、ちょっと肌寒い……ところに、この日のヘッドラインである、マリ出身の国民的シンガー=アウマウ・サンガレが登場! この人はもう、メアリー・J・ブライジというか、「女王」の風格&貫禄たっぷり。ロング・ドレスに編んだ長い髪、満面の笑みでステージに登場し、その歌唱とショウマンシップでぐいっと聴衆を引きつけ、最後まで放さないカリスマはさすがだった。

いい笑顔だー

音楽的に言えばアフロビートのクセになるグルーヴとゴムのようにいくらでも伸ばせる拡張性が軸になっていて、その尽きないエネルギーと波状リズムにはただただ踊るしかない。彼女の作品をちゃんと時間軸に沿って聴いたことのない、まったくのサンガレど素人である自分も、このビートには否応無く絡めとられたし、それに乗って踊るのがまったくイヤじゃなかった。無理強いさせられるダンス・ミュージックって、最終的には不快ですよね。

しかし、彼女の音楽の魅力は、たとえばアフリカ音楽に得てして求められがちな、「素朴さ」とか「土の匂い」とでもいうか、そういう民族音楽的な要素(それも好きですが)を蒸留し洗練させた上で、それでもなお、パワフルに聴き手のお腹に響いて来る何かを呼び覚ますところかな、と思った。

彼女の率いるバンドは――きっと、時期によって顔ぶれは変わるんだろうけど――ロック色が強かった。ジミヘンばりのソロでギュインギュインいわせるギタリストもめちゃかっこ良かったんだけど、フランス人女性のベース・プレイヤーががっちり基盤を固めているのも実に素敵。この女性はショートヘアにジャンプスーツ姿で、キーボード、パーカッション、ドラム、女性コーラス隊と狭いステージにぎっちぎっちに詰まったゆえに賑やかで、ポリリズムでカコフォニックなステージでも常にクールだった。そこからのティナ・ウェイマス連想もあったのかもしれないけど――このライヴは、フェラ・クティやジェイムズ・ブラウンを思い起こすのと同じくらい、「リメイン・イン・ライト」から「ストップ・メイキング・センス」に至るトーキング・ヘッズって、もしかしたら、こんな感じだったのかな?と想像させてくれるものだった。それくらい、アウマウ・サンガレはマイクさばきで、指の一振りで、髪の一振りで、バンドをきっちりコントロールしていた。前半は遠慮がちだったイギリス人観客も、彼女の大らかな歌声とタイトなバンドが脈々と織り成すグルーヴに身を任せ、おしまいには「みんな、伏せて〜/はい、ゆっくり起き上がって〜」型の集合ダンスの号令に笑顔で従い、楽しんでいた。めちゃ格好よい彼女には、ちょっと惚れました。

こういう、「コミュニティにお返し」型のフェスというのは、小規模ですけど、探せば掘り出し物が見つかるようだ。商業的な人気の大フェスを観に行く、というのもアドヴェンチャーとして/経験として非常に楽しいものだけど、筆者くらいの年齢になると、1日に3、4アクトをじっくり満喫できる、こういうキュレーション性の高い(=万人を満足させるための幕の内弁当ではなく)イベントの方がありがたかったりする。夏なのでまだ日も長く、帰路のバスをつかまえた時もまだ明るかった。来年も、こういうカジュアルで寛容なノリで、アートを楽しめる場を続けて欲しいものです。

愛犬連れのお客も何人か。飼い主にステージ前まで引っ張っていかれたこの子は、ビートに反応して「ワンワン!」と吠えていて、失笑を買っていました(ちなみに、犬はレゲエが好きだそうです)

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Mariko Sakamoto について

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