週刊琴線4月1日&8日合併号

今週の琴線

Primal Scream—26March/Brixton Academy
Elbow—28March/O2Arena
Royal Wedding

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スクリーマデリカの日が昇る

花道に出ずっぱりだったガイの熱演

ご成婚商売も本格化。しかし、すごい缶・・・

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ここ2、3日、急に暖かくなったロンドン。昨日は最高22℃まで上昇して、Tシャツ姿の人もにわかに増えました。うちの近所のカリビアン・カフェも、ガーデン・バーベキューに勢いがついて、夕方にはなんともいい匂いのジャーク・チキンの煙を漂わせ、路上テーブルも出すようになった。そのぶんドライでもあって、花粉症の人は辛そう。こっちも案外アレルギー持ちの人は多い。2月の時点で、もうマスクかけて目がショボショボしてる人、チリ紙片手に鼻をかみながらクシュン!な人を見かける。都会病なのかもしれないですね。でも、日本みたいな「花粉警報」は、まだ導入されてないと思う。

プライマル・スクリームは、名作「Screamadelica」発売20周年つーことで、リマスター&リパッケージ再発されたばかり。リマスターはケヴィン・シールズが担当していて、そのチョイスは実にナイス。ちなみに、Tシャツ他色々と詰まったコレクターズ・エディションのボックス・セットは、広告を見ると赤い缶入りだったりする。ボビーいわく「ピル(=錠剤)みたいな見た目にしたかった」とのことで、なるほどEでハイでドラッギーなこのアルバムにはぴったりかもしれません。まあ、PILの缶詰=「Metal Box」、スピリチュアライズドのマジに錠剤な「Ladies And Gentlemen~」の初回版パッケージ(結局、CDを取り出すために、銀紙は破ってしまった・・・リスニング用と観賞用、2枚買えば良かった)が、前例としてあるわけだけど。

そのアニバーサリー祝賀として、彼らが「Screamadelica」全曲再演ギグを始めたのは昨年冬。ロック×ダンス/レイヴのクロスオーヴァーを刻んだ、90年代英ロックの最重要作品のひとつと看做され、マーキュリー・プライズの記念すべき第一回を受賞。プライマルのディスコグラフィの中でも特別な位置を占め、ある種神格化されているアルバムなだけに、反応はかなりのもの。チケットは、ずんずんソールド・アウトしていった。とはいえ、基本的に前を向いているバンド=ノスタルジア入った「名盤再演コンサート」とは無縁な人達と思っていたので、この展開は、自分にとっては結構意外でもあった。
ともあれ、そのツアーが大好評だったこともあり、ほんとのアニバーサリー・イヤーである今年、彼らはこの「再演」ツアー=Primal Scream Present:Screamadelica Liveを世界各地のフェスを中心に、拡大展開することになっている。稼ぐねえ~。その皮切りとして、3月に計10回のUK公演が組まれ、ブリクストン・アカデミーで2晩連続興行と相成った。筆者が行ったのは、2日目=最終日の26日でした。

エイドリアン・シャーウッド、キャッツ・アイズ、アンドリュー・ウェザオールのDJ、トリのプライマルの後にはORBというてんこ盛りな内容だったのだが、プライマルの予定出演時刻は11:15。筆者のような貧乏人にとっては、ナイト・バスを乗り継いで帰るしかない展開であって、帰宅できるのは恐らく朝2時過ぎ。まともに最初から観ていたら、ナイト・バスを待ちながら、バス停で立ったまま寝てる・・・みたいなことになりかねないので、ウェザオール以降に絞る。キャッツ・アイズは観たかったけど、4月に単独観る予定なので、スルーに決定。つうか、筆者がチケットを買ったキャッツ・アイズのグラスゴー単独公演は、そもそもこの公演と同じ日だった。急遽キャンセルになって、「あれ~?」と思っていたんだけど、プライマルのこのロンドン公演前座のオファーが来たために、延期したんでしょうね。

中に入ると、楽器&機材以外は無人のステージから発された、バリバリに低音を効かせた爆音が場内を満たしている。ブリープ/ミニマル・テクノなトラックを中心に、ニュー・オーダーっぽい、ベースの気持ちいい曲にロックなギターが暴れる曲をミックスと、さすがウェザオール先生の選曲ですね。しかし、続くプライマルへの流れを決定付けたのは、A.R.ケインの「Love From Outer Space」がプレイされた時だったと思う。メロディがとても甘い曲なんで、ちょっとびっくりもしたけど、「Screamadelica」の根本にある、ヒッピーでラヴでトリッピーなヴァイブにはぴったりだ。
とはいえ、30~40代が中心のこの晩のオーディエンス、11時(=通常は、ロンドン大会場でのコンサート終演時刻は、アンコール入れても大抵11時)を回って、ついでに酔いもがっつり回っているからか、プライマルの出演予定時刻をちょっと過ぎただけで、「早く出て来~い」なノリ。ミニ・オールナイターとも言えるこのイベント内容は、疲れ知らずなヤング客はともかく、翌日=月曜朝には出勤しなくちゃいけない「Screamadelica」リアル・タイマーの多くには、正直きついだろう。

しかし、暴動になる前に(笑)バンドが登場、場内が本格的に活気づく。ボビーは開襟赤シャツに黒のスーツで、ニック・ケイヴ風。イネスにダフィーにマニにバリー・・・とフル・バンド、右端のデッキにはアンドリュー・ウェザオールがそのまま控え、加えてゴスペル・コーラス6人という、大所帯だ。ボビーが「Are you ready to testify?」のMC5なMC(いや、シャレのつもりじゃないんですけど)をかまし、「Movin’ On Up」がダイナミックにキック・オフ。後方スクリーンにスクリーマデリカのジャケ=太陽のイメージがバーン!と映し出され、音量はもちろんのこと、エッジを増したギター・サウンドの来襲に、それまで座っていた2階席客も一瞬で総立ち&エクスタティックな歓声をあげる。
1曲ごとに異なるイメージ/ビデオがそのスクリーンに映し出されるのだが、壁を次々したたり落ちるカラフルなペンキを捉えた映像は、「Slip Inside This House」のドロドロしたジャングル・サイケ・ブルーズ調にずっぱまり。ボビーもステージ端ぎりぎりまで出てきて踊りまくりのお客あおりまくりで、一種妖しい憑依めいた動きには、やっぱ、グラインダーマンのニック・ケイヴがだぶります。ニヒルな雰囲気とドラム/マニ・ベースのブーンとうなる太さ・ごつさが最高。カヴァーとはいえ、やっぱかっこいい曲だ。

ゲスト・ヴォーカルのメアリー・ピアースが呼び入れられ、〝♪ラマラマラマ・ファ・ファ・ファ~〟こと「Don’t Fight It」。ごっつファンキィなビートとパーティなノリに、場内も居ても立ってもいられん!なノリで揺れ始める。飛び交うレイザー光線の中、レイヴァー時代を思い出したかのように激しく踊り、コーラスを合唱しまくる者続出。この、いわゆる「バンド・アルバム」ではない作品を、ライヴで再演するのって難しいのでは?と行く前は思ってもいたけど、イネス、ガリガリ弾きまくり。ロックとダンスの融合ってこうやるもんなんよ!と、聴き手に詰め寄るような迫力である。
席を探して(?)通路を行ったり来たりしているビーディ・アイのゲムに気をとられていたら、一転、「Damaged」のサザン・ロックでレイドバックしたヴァイブが流れ出す。バリーのギターが超味出しでなんとも泣ける・・・でも、曲順違うんですけど・・・と、つい野暮な突っ込みも入れたくなったが、「Higher」は後半にとっておくつもりなのだろう。内股で歌い上げるボビーの姿、昔と全然変わんない。雰囲気はそのままに「I’m Coming Down」が始まり、泣きたっぷりのメロとサックス・プレイヤーのソロに、しばし恍惚。

ミラーボールが星屑を散らし、プラネタリウムを漂う星間飛行「Shine Like Stars」に「Inner Flight」はバンドの見せ場で、「Inner~」ではコーラス隊がステージに復活、エレクトロな空間にゴスペル・フォークなメロディとサックス、スライド・ギターが鳴る様はかなりコズミック。このブレイクを滑走路代わりに、セットは後半の盛り上がりに向かう。「ロバート・ヤングに捧げる」のMCに続き、来た~~っ!「Higher Than The Sun」。自分的にはこの晩のハイライトで、すべての音がターン・アップされ、ダビーな重低音もマックス値、耳が痛いほど。大きな音の塊と、色彩、光の中に飲み込まれる、圧巻の体験である。やがてイネスがロン・アシュトン系べらんめえギターでまくし立て始め、中間部に挿入された「Who Do You Love」にリレー。シャッフル・ビートとブルース・リフ、ボビーの即興ヴォーカルが攪拌されていき、ここらはもはやフリー・ジャズである。最後に原曲に戻ったが、正直、あのジャムをえんえん続けていたかったんじゃないだろうか、バンドも。

ラストは、盛り上がり120%保障の「Loaded」「Come Together」でワン・ツー・パンチ。深夜00:30を回り、やや落ち着いていた会場内の空気もピーター・フォンダの「We wanna get LOADED!」の檄にリチャージされ、「待ってました!」とばかりに再び2階席総立ち。ドラムが力強くキック・インし、大きくスウィングし始めた観客と、スクリーンに大写しされたプロモ・ビデオの、ふにゃふにゃダンスするボビーとが、文字通りひとつになる。「London,Come Together!」の掛け声に目一杯の反応が返され、グロリアスな熱気の中、バンドも無我の境地で「Come Together」を熱演。終わってステージ端のウェザオールとイネスががっつりベア・ハグし合う姿は泣けたし、投げキッスを振りまいてステージを去ったボビーも素敵だった。

この時点で予定終演時刻=1:00だったが、「Come Together」を歌い続ける者、「もっと!もっと!」の観客コールに応え、ORBを待たせ、アンコール篇。「Do you want some rock’n roll?」のボビーMCは、ちょっとベタで笑ってしまったけど、プライマル客というのはなんだかんだいってクラシック・ロック志向が強いので、シンプルなロケンローをやらないと収まりがつかないのだろう。まだ本編の興奮が抜けないのか、「Country Girl」はかなり荒っぽい、しかしハイ・エナジーなのは間違いない演奏。この曲、あまりに70年代調でそんなに好きじゃないんだけど、確かプライマルのシングルでは、イギリスで一番売れたはず。「Screamadelica」篇ではちょっとやりにくかった、腕突き上げ、ビールふりかけ、ジャンプ・・・と、オールド・ファンが大喜びし、ミニスカートにブーツ姿の、いかにもなブロンドのおねーちゃん達も狂喜乱舞。
そこから「Jailbird」「Rocks」のヒット・パレードでシメという展開は、大いに盛り上がったのだが、音楽的にはそんなに面白いものではなかった。というか、「Screamadelica」ライヴの意味が相殺された気すらした。しかし、それが「名盤アルバム再現」ギグの宿命。40分強、下手したら30分台で消化できてしまう昔のアルバムは、いまどきの興行としては、やはり短すぎるのだ。ただ、ティーンエイジ・ファンクラブの「Bandwagonesque」は、本編終了後にアンコールで人気曲が数曲披露されても、音楽的に地続きだったのでこうした違和感は抱かなかった(ノーマンの、「チケット代に見合うだけ、もっと演ります」のMCもナイスだった)。その意味で、「Screamadelica」というのは孤高の1枚かも?しかしまあ、このバンドのもうひとつの孤高「XTMNTR」を、こういうスペシャルな設定で観れたらいいな・・・という思いも浮かんだのでした。

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2日後には、O2アリーナでエルボー。エルボーが英アリーナ・ツアー!?というのはこれまた驚きだが、イギリスでの、とりわけ3年前の前作「The Seldom Seen Kid」のブレイク(マーキュリー・プライズも受賞)、それに伴う人気の上昇は半端ではなく、最新作「Build A Rocket Boys!」も、初登場2位の過去最高位を記録している。ランカシャー出身の彼らは、苦労人として知られる。キャリアが長いのはもちろん、音楽的評価は高いもののレーベルから何度かドロップされた経験もあり、現在のFictionに移籍しての1作目「The Seldom~」で、やっと花開いたことになる。
「Build A Rocket~」リリース前には、遂にQマガジン巻頭表紙までもぎ取ってまたまたびっくりだったが(卑賤な物言いになってしまうが、大部数の月刊音楽誌で非フォトジェニックなヒゲ&中年のおっさん――ディランやニール・ヤングはもちろん除くが――が表紙になるケースは、かなり稀でしょう)、その記事によれば、「The Seldom~」のヒットは、レーベル側のシンクロ戦略が大きくモノを言った成果だそう。テレビ番組に楽曲をライセンスして、劇中BGMとして流される――CMとのタイアップ、ドラマ主題歌・・・といったスタイルが昔から普通な日本人からすれば、さして驚きではない。が、こっちではどうも、そうした使用法には、アーティスト側もまだ抵抗があるらしい。

ともあれ、こうしたシンクロ戦略は、やはりお茶の間にダイレクトにアピールできるのが強み。感動的な映像、あるいはエモーショナルな悲喜に満ちた場面をここぞとばかりに盛り上げ・増幅するエピックな曲のニーズは高いようで、スノウ・パトロール「Run」、シガー・ロス「Hoppípolla」、アーケード・ファイア「Wake Up」など、「あれは誰の曲?」と話題になり、ヒットに繋がるケースも。エルボーで言えばそれに当たるのが前作のシングル「One Day Like This」で、ドラマ、CMなど、引っ張りだこだったらしい。
ははあ、そういう仕掛けが裏にあったの・・・とシニカルに捉えることもできるけど、このバンドは実力もあるし、ライヴも秀逸。2001年のアルバム・デビュー期から、熱心なファン層を着実に培ってきた。しかし、そのレベルから次のステージにステップ・アップするには、単に「いい作品」だけでは足りないこともある。エルボーのような地味渋で音楽主体なバンドは、たとえばライヴやフェスに頻繁に通う熱心な音楽ファン以外には、どうしたって認知度が低い。その意味で、このテレビを通じての楽曲露出は、吉と出たことになる。それにまあ、単純に共感できる、いい話じゃないですか。北部出身の、決して若くもトレンディでもないバンドにも、こうしていつか日が当たる日が来る、というのは。まさに、「One day like this will see me right」。

テムズ川を越えた南東部:グリニッジの端に位置する、元ミレニアム・ドーム。巨大な帆立貝、あるいは蟹の怪物の甲羅の上に割り箸がぼんぼん刺さってるような、なんとも言えない形状のこのドームは、今や大エンタメ施設として再生。その最大のアトラクションと言えるO2アリーナは、イギリスでも初のアメリカ・スタイルの音楽/スポーツ会場だ。これまでキングス・オブ・レオン公演で1度行ったきりだが、ちょうどマイケル・ジャクソンが亡くなった頃で(彼のロンドン公演はここで開催される予定だった)、会場外にトリビュートの花束やファン・アートが捧げられた「にわか神殿」ができていた。
その神殿はもうとっくになくなっていたが、入場時に空港のセキュリティ・チェックみたいな荷物検査があったのにはびっくり。確かに最近は、会場によってはボディ・サーチだけではなく金属探知機を当てられたりもするけど・・・スキャン機の向こうに設置されたマーチャン売り場では、Tシャツやポスターの他に、最新作のジャケット・イラストをあしらったベビー服が売られているような、そんなエルボーの客層(中年~ファミリー客が大半)に、そこまで過敏にならなくてもいいんじゃないか、と思うんですけど。

会場に滑り込み、ミネラル・ウォーターを買って(2.50。ぼったくり)座席を探し当てると、ジャスト・タイミングでエルボーの登場だった。後方に深紅の幕が下がり、そこに5枚の額縁がライト・アップされる。誰かの家の居間に招待されたような気分だな~と思っていると、額縁の中にアルバム・ジャケットの子供の水彩イラストが浮かび上がり(演奏中は、ここに各メンバーのクローズ・アップも映される)、足元から湧き起こるような歓声の中、「The Birds」でスタート。弦楽トリオの参加も嬉しいし、アクセントになるキーボード・リフの点描にギターのうねり、マイナー調のハーモニー・ヴォーカル、タフなベースと、5人の音のバランス/密度の濃いダイナミクスはばっちりだ。ガイの歌声がややピーター・ガブリエル似(ピーターほどソウルフルで強くはないが)なのも含め、このバンドの根底にあるプログレの匂い、やはり好きです。
このツアーで話題になっている「花道」が早くも活用され、スーツ姿のガイが、手を上げて迎えるオーディエンスの間を練り歩き、歌いかける。長円型のオーバルなアリーナ会場だけに、ステージ正面後方は、かなり遠かったりする。しかし、その奥にまで届け!とばかりに全身で手を伸ばす大男ガイに、思わず頬もゆるむ。花道といえばストーンズであり、フー・ファイターズであり、ミューズのイメージだけど、派手な見せ場作りのギミックというのではなく、こういう使い方もある。

ガイはBBCのデジタル・ラジオ局でも番組を持っているのだが、親しみやすく、時にコミカルなMCは実にチャーミング。既に消化済みの英各地公演とO2客を比較し、歓声の大きさを較べて、「んー、ブライトンには負けるねぇ。もういっちょ!」と煽ったり、会場最後部に座ったオーディエンスに名指しで声をかけたり。もともと人懐こく、もったいぶりのないストレートな北部人の性向もあるだろうけど、アリーナという大舞台に自ら目を丸くしている真情――グラストンベリー他、大フェスも経験してきた人達ではあるけど、まあ、やっぱ壮観&シュールだろう――を隠さない素直さ、しかし同時に、この瞬間を存分に楽しむ!という思い切りの良さとエンターテイナーぶりは、好感度高し。
「今時のキッズは怖いとか言われてるけど、ビビる必要はないんだよな」との語りに続き、繊細なピアノ・イントロに伴われ、最新作のタイトル・トラックとも言える「Lippy Kids」。エルボーらしい哀感豊かでリリカルなメロディが、じわじわと寄せながら、エモーションの風船を膨らませていく。それをパン!と割るのではなく、そっと、風に乗せて空へ飛ばしていくような繊細さにほ~っと胸打たれたところで、ロマンチックな「Mirrorball」。もちろんミラー・ボールも下がってきて、「今恋してる人は、手を上げて~!」の質問に、場内も笑いながら反応。エルボー以外のバンドがやったら、イヤミにもなりかねないベタな演出だが、この人達だと許せる。ストリングスが麗しく響いたこの曲、決して派手ではないものの、ミラー・ボールの流星に包まれ、お客もうっとり。雰囲気は、オールドファッションな、さびれた町のダンスホールである。

シンプルなコール&レスポンスと、ひねりの効いたアレンジとトボけた味の曲調の楽しさで会場が一体になった「With Love」に続き、この晩の最初のハイライト:「Neat Little Rows」。最新作の中でももっともロック色の濃いこのトラックだが、ライヴの大音量だと迫力が違う!もともと演奏は達者な人達だけど、緻密に重なった音とビートのドラマチックなビルド・アップは、さしずめマーキュリー・レヴ「Senses On Fire」と、トラフィック「Paper Sun」が混ざったごとき、モダンなサイケデリアで素晴らしかった。ガイも再び花道の先端まで出てきて、お客の手拍子を煽り、盛り上げる。
ガイ以外の4人が全員キーボードに向かい、滔々と、しかしじっくり歌い上げた「The Night Will Always Win」で、アルバム前半曲をほぼ曲順どおりに披露した「Build A Rocket~」篇を終え、フォーキィなアレンジの「Great Expectations」で小休止。前2作からの曲を中心とするここからも見せ場で、再びガイ先生(笑)によるコール&レスポンス指導が行われた後、ヒット曲「Grounds For Divorce」のトゥワンギーな50年代調ギター・リフが炸裂。初期イールズを思わせるこの曲で今宵最初の本格的な大合唱の渦が広がり、芯から揺さぶるブルージィで骨太なグルーヴ(ガイも、タム2台を叩きまくってます)に合わせ場内も揺れる。これは、マジに痺れました。

花道の先端=Bステージにはいつの間にかアップライト・ピアノが設置されていて、クレイグの伴奏つきで、ガイが呟くように歌う「Puncture Repair」。この会場は音の反響がすごくて、静かな曲では気にもなるのだが、それすら頭から抜け落ちて、不覚にも涙がこぼれてしまった。そのままピアノのみで始まった「Some Riot」は、徐々にフル・バンドの演奏へ拡大、ダイナミックなバラードへと昇華していった。
――と、そのまましんみりシリアス・・・でもいいんだけど、他のメンバー3人もBステージに出てきて、周りの観客がきゃいきゃい握手を求める中、ガイがピアノの背をパカッと開ける。なんと仕込みバーになっていて、グラスとシェイカーを取り出し、メンバー全員がオツにカクテルで乾杯。ザ・ストリーツも、そういや以前ステージ上にバー・カウンターを作ってブランデーとか飲んでたけど、酒好きで有名なエルボーの面々だけに、爆笑である。「今年6月で、バンド結成から20年なんだよな、俺達」とのMCに、オーディエンスからもあたたかな拍手が沸き起こった。

本編ラストは、基本的にマイナー調曲が多く、いつもうっすらペシミズムが漂うこのバンドにしては超メジャー、かつポジティヴなヴァイブにあふれた「Open Arms」。むっちゃアンセミックなサビ・コーラスを、ガイがファルセットで声の限りに歌い、メンバーもアップビートな演奏を繰り出す。シャンパン色の照明で溢れかえった場内も、エルボーからのあたたかい抱擁を心を開いてがっちり受け止め、抱き返している。
いったんバンドは引っ込んだものの、アンコールまで待ちきれないオーディエンスは、一番聴きたい曲=「One Day Like This」をおのおの合唱し始めている。メンバー全員がステージ最前列に並び、トランペットのファンファーレをプァ~と吹かせる様であっと言わせた「Starlings」も良かったけど、やはりほんとのシメ=「One Day~」の盛り上がりは最高潮だった。全員起立させられたところで、改めて場内を見回すと、いやー、ほんとみっちりお客が入ってる。イントロのうららかなリフがこぼれ出しただけで歓声が巻き起こり、流麗なストリングスが春のあたたかな驟雨のように降り注ぐ。全開の照明のもと、笑顔を向ける観客の顔をひとつひとつ確かめるように歌うガイと、それを追う、やや野太めな、しかしとても気持ちよさそうなシンガロング――エルボー客は、30~40代以上の男性が中心――がアリーナを満たした。

このツアーに関して、イギリスのライヴ・レヴューで「彼らはPeople’s Bandになった」との評があったけど、それはあながち大げさな表現でもなかったな・・・と感じた。この晩の観客とステージとの間を繋いでいた親愛の情には、確かに、特別な何か――このサイズの会場では珍しい、一体感――があった。それは、ファーストから10年、いくつもの音楽トレンドの推移を横目に見ながら、時に焦りながら、5人の一枚岩で歩み続け、ついにこの規模にまで上り詰めた彼らを応援してきた英ファンと、エルボーとの祝福だったと思う。ロック・スターでもなんでもない、普通の男達。そんな、いわば負け犬/弱者だって、信念を胸に生き続ければ、こんな風に、いつか輝く時が来る。先行きに様々な不安を抱えながら生きているイギリスの大衆の胸に、エルボーは、そんな希望の小さな灯りを残してくれたのだ。

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などと、分かったように書いておりますが。一部の音楽ファンはともかく、英国民の多くにとって、実際の関心事は4月29日のロイヤル・ウェディングだろう。何せ、このレベルの王族ではダイアナ&チャールズ以来=30年ぶりですからねえ~。この日は休日になったので、民衆も「連休じゃ~」と歓迎。手弁当のストリート・パーティも各地で開かれるというし、天気も良くなってきて、気のせいか、少し空気がアガったかもしれない。
ダイアナほどのフィーヴァーには達さないかもしれないが、ケイト・ミドルトンは(アッパー・クラスの家柄ながら)いちおう「平民」。仕事の経験もある、モダンなキャリア・ウーマンである。そんな女性が、なんでまた王室に嫁ぐ苦労をわざわざ背負い込むのか・・・とも感じるが、「People’s Princessになれるのか?」といった意味での注目度も高い。女性週刊誌はもちろん、ファッション雑誌も彼女を「新たなファッション・アイコン」に祭り上げている。やはり、すごい騒ぎになるのでしょうな。

とはいえ、不況や政府財政縮小にあえぎ、学生や労働者によるデモ行進やプロテスト抗議も盛んな今のイギリスで、たとえば豪奢で金ムクなウェディングなんかやった日には、反王室派の国民感情を煽るだけだろう。そうした微妙なタイミングへの配慮からか、たとえば結婚のお祝い品に関して、ケイト&ウィリアムは「ギフトの代わりに、2人が選んだチャリティ団体への寄付を」と要請している。まあねー、宮殿にはなんだってあるだろうし、食器セットとか、普通の若夫婦がもらって喜ぶようなモノを贈られても、彼らにはほとんど意味はないだろうし。
上にアップした写真は、近所のスーパーで見かけたご成婚便乗商品の例。今でも、チャリティ・ショップやアンティーク店に行くと、たまにダイアナ・チャールズの記念マグカップとか、エリザベス女王のジュビリー記念品とか見かけるが、これはこれで、コレクターがちゃんと存在する分野なのだろう。もっとすごい、ベタでコテコテ、笑える商品はこちらで。にしても、たくさんの人が、当日はユニオン・ジャック旗振るんでしょうかねー?怖いわ。しかし、このマクビティーの記念ビスケット缶は、キッチュでかなりいい感じ。笑いの種として、冗談のついでに買ってみようかな~・・・とも思うが、ビスケット食べないので、無駄にするのはもったいなくて、まだ買っていません。

Mariko Sakamoto について

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