通販って手もあるんですけど、イギリスは郵送/宅配があまり信用できないので逆にストレスがたまり、利用には消極的。この状況で書留郵便物も受取手のサインなし配達がOKらしく、家の外に配達物を置いて去るケースもたまにあります。垣根に隠すといった具合に気は遣ってくれてますが、配達に気づくのに時間がかかり、あやうく雨に濡れる間際でレコードを救出したこともあった。ケン・ローチの『Sorry We Missed You』を観て以来、彼らに文句は言わないようにしているんですけども、ついグチが出ました:すんません。それにまあ、レコ屋や本屋はやっぱり店内をうろついて色んな出会いをできるのが楽しいし……と感じる、自分はやっぱり古い人間です。
コロナのロックダウンで様々な「おうちホビー」が人気復活しましたが、DIYショップと同じくらいイギリスで人気の高かったのが園芸。ガーデンセンターがなかなか再開しなかったので、みんなブーたれてました。かくいう自分も、トレンドに弱いので(笑)、ちょっと園芸にチャレンジしてみました。その成果はぶっちゃけ50/50で、自分は庭師にはなれないな、と悟りました。でも、誰にでも育てられそうな植物(サボテン系)ですら枯らしてしまう自称「Green Death Fingers」な人間としては、地味に水をかけているうちに植物が育ってくれるのを眺めるのは嬉しかったです。
窓辺の塗り絵がドナルド&ウォルターだと気づいた時は、ちょっと嬉しくなって「Reelin’ In The Years」をハミングしました。これはたぶん、「大人用ロック塗り絵」か何かの1ページなんでしょう。しかし、すごく上手に特徴をとらえた絵なんだけど、なぜか背景がヤシの樹=カリフォルニアっぽいのは残念。ニューヨークのバンドですよね、ダンは。摩天楼プリーズ。
おそらく『Game Of Thrones』のヒットで日本でも認知度が高まったであろう有料ケーブル局の老舗HBOは高品質な番組作りで定評がある。近年のいわゆる「テレビ黄金時代」にはネットフリックス等ストリーミング勢も貢献しているとはいえ、「映画並みのクオリティで(90分〜2時間の一般的な劇場映画の尺に縛られない)長いストーリーを数シーズンで描く」というメディアとしてのテレビ全体のレベル向上/意識変化にHBOの影響は甚大だ。筆者がハマったのは『The Wire』からだったが、この傑作は少なくとも3回は全5シーズン通して観た。観るたび発見があり、感動させられる。
<『The Wire』は、筆者にとってはベストTVシリーズです>
「テレビ名作トップ○○」等の海外リスト/ランキングでほぼ毎回1位に選ばれる『The Sopranos』は「HBOスタイル」を確立し広めた古典だし、『Deadwood』、『Boardwalk Empire』、『Treme』といった評価の高い力作の数々に最近では『Chernobyl』も加わっている(『Chernobyl』は残念ながらまだ観れていませんが)。『Sex and The City』、『GoT』といったカルチャー現象になるヒットを生み出しつつ、『Girls』、『True Detective』他新たなトレンドを起こすエッジのある作品も。そのチャレンジの気風――ネットワーク局ではリスクが大きいのでなかなか賭けに出れない面もあるのでしょうが――と子供騙しな二番煎じに安易に乗じないインテリジェンスは、新たな才能の発掘に繫がっている。
役者で言えば、『The Wire』はイドリス・エルバ、マイケル・ケネス・ウィリアムスら優れたアクターのキャリア・ブレイクをもたらしたし、『Black Panther』他でもっかスター街道邁進中のマイケル・B・ジョーダンも子供時代に『The Wire』組の窯の飯を食べたクチ。『GoT』がUK&アイルランドおよびヨーロッパの逸材や若手の起用で新風を送り込んだのも記憶に新しいし、ラジオ・コメディをテレビ化した『Flight Of The Conchords』でニュージーランドのクリエイターに脚光を当て、同シリーズの数本で監督を担当したタイカ・ワイティティにアメリカ仕事のきっかけを与えたのもHBOだ。
――と書きつつ、はっきり断っておくと:『Succession』は架空の世界を舞台にした歴史ファンタジーではありません。そういう意味での「次なる『GoT』」ではないので、誤解なきよう。二匹目のドジョウ的な作品には『Britannia』や『The Witcher』があるし、アマゾンも『Lord Of The Rings』&『The Hobbit』の前史ドラマを企画している。ので、魔法使いとか中世剣劇ジャンルがお好きな方はそちらをどうぞ。付け加えると、『Succession』がグローバルなファンを誇るヒット人気作になることもまずないと思う。シーズン1の視聴率は上々とは言えなかったそうだし、通常の民放局だったら1シーズンで打ち切りになっていてもおかしくない。
手持ちカメラのコメディには『Curb Your Enthusiasm』や『The Office』と名作が色々あるけど、激辛なユーモアとテンポの良さという意味で、これはやはり英産政治サタイアの傑作『The Thick Of It』が直系だろう――というのは当然の話で、『Succession』の作者ジェシー・アームストロングはダメ男2名が主人公の人気シットコム『Peep Show』を経て、『The Thick Of It』とその映画版『In The Loop』(これはHBOフィルム作)および『Veep』、映画『Four Lions』等に参加し、アーマンド・イアヌッチやクリス・モリスといった風刺作家と仕事してきたライター。00年代を通じて彼の磨いてきたノウハウやスキル・経験が凝縮されているわけです。
<歩く毒舌ターミネーター、マルコム・タッカーがアメリカに乗り込む!>
しかもウィル・フェレルと共同で『Succession』をプロデュースしているのは映画監督としてもおなじみのアダム・マッケイ。彼はここのところ『The Big Short』、『Vice』と実話や実在の人物に基づいて金融界や政界の腐敗をブラックなサタイアとして描いてきた痛快な才人だけど、ここでメディアもその標的に入っている。BBCのような国営メディアが存在せず、名門『ワシントン・ポスト』紙をジェフ・ベゾスが買収してしまう国アメリカでは、中立なはずのメディアでもバイアスがかかってるのを覚悟しないと。この面は、シヴがバーニー・サンダース的な上院議員の選挙陣営に参謀として加わることで生じる駆け引きや、リベラルな「良心」の象徴的メディア企業――ロイ一族とは対照的に、こちらは家母長がヘッドの一族が仕切る会社――の買収工作(シーズン2)といったエピソードでえぐられてます。